ここ最近、「サテライトオフィス」という言葉を耳にする機会が増えた――。なんとなく知った気でいても、「正直、シェアオフィスやコワーキングスペースとの違いはよくわからない」という人も少なくないはずだ。
コロナ禍以降、ますます働き方の多様化は加速している。そろそろ一般常識として、サテライトオフィスというワードに関してもしっかり把握しておいたほうがいいだろう。それは企業にとっても、そこで働く社員にとっても、大きなメリットとなるからだ。
そこで今回は、リモートワーク率100%の株式会社ニットでカスタマーサクセス コミュニティマネージャーとして働く西出裕貴さんにインタビュー。サテライトオフィスの定義やメリットについて話をお聞きした。
サテライトオフィスって何? 支社やシェアオフィスとの違い
特定の家を持たず、全国各地を転々とする「アドレスホッパー」の西出さん。そんなライフスタイルを送っているからこそ、サテライトオフィスやシェアオフィス、コワーキングスペースを活用することも日常茶飯事。さっそく、西出さんに話をうかがっていこう。
まず、サテライトオフィスとは「サテライト(衛星)」の言葉どおり、「本社とは離れた場所に設けられたオフィス」のことを指す。よく支社や支店と混同されがちだが、そこには明確な違いがあると西出さんは言う。
「支社や支店は、本社とは離れた場所で、本社の代わりにその機能を担うといった役割があります。そして前提として、"決まった支店や支社に出社して働く必要がある"のです。一方、サテライトオフィスには本社のような機能はなく、"本社で働くかサテライトオフィスで働くかは、本人の意思で選択できる"ようになっています。そこが支社・支店とサテライトオフィスのもっとも大きな違いだと言えます」(西出さん)
西出さんによるとサテライトオフィスの歴史は意外に古く、1980年代からすでに存在していたという。もちろん、当時はシェアオフィスやコワーキングスペースといった概念は存在しておらず、サテライトオフィスはそれらの先駆けと考えていいようだ。
大枠としては、「企業が社員のために設けるもの=サテライトオフィス」、「フリーランスなどが個人で借りることもできる=シェアオフィス、コワーキングスペース」と理解しておけばいいだろう。ただし、シェアオフィスの一角をサテライトオフィスとして活用している企業もあるので、そこはケースバイケースである。
では、サテライトオフィスのメリットは何か。西出さんによると、サテライトオフィスは主に「郊外型」「都心型」に分けることができ、それぞれ異なるメリットがあるという。
「郊外型のサテライトオフィスが自宅近くにある場合、都心にある本社に行くよりも圧倒的に通勤時間を短縮でき、より仕事に集中する時間を確保できます。ちなみに、通勤電車でかかるストレス負荷は、臨戦態勢の戦闘機のパイロットや機動隊のストレスと同程度だという調査結果もあります。実際、通勤電車で疲弊することは間違いありませんし、そんなストレス状態で出社しても仕事がはかどるかは疑問ですよね」(西出さん)
では、都心型の場合はどうか。本社が同じく都心にある場合、サテライトオフィスをわざわざ都心に構える必要はないようにも思えるが……。
「都心型の場合ですが、例えば本社が池袋で、サテライトオフィスが東京駅周辺にあるケース。この場合、営業担当などにとっては特にメリットがあります。というのも、営業先からわざわざ本社に戻るのがしんどいとき、東京駅ならどんな場所からもアクセスがいいので、そのぶん、業務時間が長く確保できます。もちろん、セキュリティ的にもその辺のカフェに寄って仕事をするより遥かに安全です」(西出さん)
サテライトオフィスで生まれる「人との出会い」
サテライトオフィスには「地方型」というのも存在する。実際、西出さんはアドレスホッパーとして、地方のサテライトオフィスを利用することも多い。
「地方でホテル暮らしをしているときなどは、別に部屋のなかで仕事をすることもできます。でも、やはりベッドやテレビがあると、どうしても仕事に集中しきれないんですよね。なので、午前中はサテライトオフィスやシェアオフィスでがっつりと物事を考える系の仕事をして、午後は自室に戻ってオンライン打ち合わせをするなど、状況に応じて使い分けています」(西出さん)
さらに西出さんいわく、サテライトオフィスには"知らない人たちとの交流が生まれる"という意外なメリットもあるようだ。
というのも、サテライトオフィスやシェアオフィス、コワーキングスペースに集まる人は、やはり最先端の働き方をしているだけあって、「情報感度が高かったり、アクティブに動く人が多いので、レアな情報が入ってくることも多い」のだとか。
実際、サテライトオフィスやコワーキングスペースでの出会いから関係が構築され、新たな事業に発展していくケースも多いのだという。
もちろん、デメリットもないわけではない。
「やはり、社員同士の連携は少なからず分散してしまうと思います。例えば、定期的にみんなで本社に集まって会議をするよう設定するなど、コミュニケーションの取り方を工夫してみる必要はあるでしょう」(西出さん)
リモートワークであぶり出されたコミュニケーション等の課題は、サテライトオフィスを利用する際も同様に生じる可能性が高い。会社ごと、部門ごとにルールを設け、それに則った運用を行うのがよさそうだ。
実際にサテライトオフィスに行ってみた!
実際のサテライトオフィスとは、どのようなものなのか。その雰囲気を味わうべく、マイナビが運営する、会員制の法人向け個室型サテライトオフィス「マイナビ Biz サテライトオフィス PERSONAL SUITE 新橋」を訪問してきた。
こちらは、多様な働き方で社員のエンゲージメントを高め、一人ひとりが高い生産性をもって業務に取り組むことができる「エンゲージメント×フォーカス」をコンセプトに設計されたという。サテライトオフィスの一例として、ぜひチェックいただきたい。
同施設は、西出さんの言葉を借りれば、まさに「都心型」に分類されるサテライトオフィスだ。
実際に、最寄り駅である新橋駅の乗り入れ路線は銀座線、浅草線、ゆりかもめ、東海道線、京浜東北線、山手線、横須賀線と豊富で、とてもアクセスに便利な印象だ。都営三田線の内幸町駅なども近い。
部屋は完全個室のボックス席、半個室のブース席のほか、2名用、8名用のリクルーティングルームなども完備。
周りの会話を聞き取りにくくする「サウンドマスキング」というヤマハの音響システムが採用されているので、周囲の雑音も気にならず、仕事に集中できる。通話の声も外に漏れにくいのもメリットだ。
また、契約は法人のみを対象としているため、利用者の身元は確か。何か問題があっても追跡できるという点は安心できるし、インターネット回線にはファイヤーウォールのセキュリティ対策も施されているらしい。やはり西出さんのいうとおり、セキュリティ面での安心感はカフェとは比べ物にならない。
しかも、契約者は野村不動産が展開するサテライトオフィス「H1T(エイチワンティー)」も利用できるのだという。
H1Tは全国に50拠点を構え、今後ますます拡大していくそうなので、うまく使い分ければ郊外型、都心型、地方型と、どんなスタイルでも自在にサテライトオフィスを利用することができそうだ。
新たな働き方で仕事の効率アップが見込めるサテライトオフィス。本稿で紹介した通り、通勤時間の短縮やストレス軽減、集中力アップ、セキュリティなど様々な利点がある。時代が進むにつれ、今後もますますその需要は増えていくに違いないだろう。