「ボート、しに来たと!」と、「BOAT RACE振興会」のCMで出身地の熊本弁を話す姿も印象的な芋生悠(23)。映画『#ハンド全力』『ソワレ』、公開が控える『HOKUSAI』と、作品ごとに全く違った顔を見せる若手実力派の彼女が、マルチアングル視点で撮影された新感覚クライムアクションドラマ『吾輩は猫である!』(auスマートパスプレミアム・全4話)で、女格闘家に扮し、アクションを初披露している。
津田寛治、武田梨奈、そして芋生らの出演で、アウトサイダーたちが織りなすドラマを3つの視点から語っていく撮り下ろし5Gムービーの本作。実は昔から空手をやっていた芋生にとって、念願のアクションであり、共演の武田梨奈はずっと慕ってきた先輩でもある。武田とのエピソードやアクションへの思いはもちろん、かつて「自分の顔が好きじゃなかった」という芋生が表現の道へと進んだきっかけも聞いた。
■「いつか戦えるといいですね」と告白していた武田梨奈との共演
さまざまな視点から描かれる脚本に、「どんな風に仕上がるのだろう」とワクワクしていたという芋生。念願だったアクションに加え、尊敬してきた武田梨奈が相手役だったことも大きかった。
「武田さんの弟さんの武田一馬さんと映画で共演したんです。そのときに、武田さんも映画を観に来てくださって、ご挨拶しました。その後もオーディションでお会いすることがあって、アクションを含め、女優さんとしても人間的にも、トータルですごくかっこよくてリスペクトしていたんです。あるオーディションのときに『いつか戦えるといいですね』とお話しました(笑)。そのときは10代でしたが、今回、共演できると聞いたときには『ヨッシャ!』と(笑)。願いが叶いました」
その後も、芋生が作品に出るたびに感想を伝えてくれる武田を、姉のように慕ってきたという芋生。今回は、アクション女優としての実力を肌で感じた。
「やっぱり動きが全然違います。すごく刺激になりました。武田さんは、アクション自体がちゃんとお芝居になっているんです。そこにストーリーが感じられるというか。それから私がカメラチェックをしたときに、『あまり当たっているように見えない』と言っていたら、『もうちょっと下を狙ったらいいよ』とアドバイスをくださったり、撮影中も助けてもらいました」
ゴープロ(アクションカメラ)を使った今回の撮影では、通常の芝居、アクションとは違う難しさがあり、経験豊富な武田のアドバイスが利いた。
「武田さんの主観での映像も必要なので、武田さんの額や顎にカメラを付けながら撮影したんです。本番では武田さんの顔がカメラで隠れてしまうので、直前まで武田さんの目をずっと見て、テストの表情を頭にインプットして、本番ではその表情を再生させながらお芝居していました。アクションも、実際とは間合いが違うので、カメラがあることを意識して動く必要がありました」
初アクションから高度なテクニックを必要とされたが、今後、アクション女優としてももっと認められるようになりたいか聞いてみると、それには「まだ早いかな」と笑う。
「今回アクションをやるにあたって、韓国の『The Witch/魔女』を見てイメージを膨らませました。ドラマ『梨泰院クラス』でボブヘアが印象的な女の子、キム・ダミさんが主演を務めているのですが、この映画を観て、女性でもゴリゴリのアクションができるんだ、かっこいいなと思いました。ただ、武田さんの“アクション好き度”を間近で感じて、まだまだ私はアクションを好きになれると感じたんです。武田さんはとにかく常にアクションの動画を見ているんです。本当に好きなんですよね。私も、アクション女優としても認められたいというより、まずはそこかなって。好きな思いを上げていきたいと思っています」
■コンプレックスも、芸術においては評価されると知った
そんな芋生が芸能界へデビューしたきっかけは、2014年のジュノン・ガールズ・コンテスト。そもそもなぜ女優業へと関心が向いたのだろう。
「家の近くには映画館もありませんでしたし、映画も全然観ていませんでした。加えて、子どもの頃から空手をずっとやっていたこともあって、演劇や芸術に触れる機会がありませんでした。でも、あるとき空手で上手くいかなくなったんです。本当に空手漬けできていたので、何もかも失ったような気持ちになってしまって。『自分には何があるんだろう。夢もないし、何にもない』と」
そんなときに芋生を救ったのが、美術の授業で書いた自画像だった。
「描いたものを評価してもらえて、文集の表紙にもなりました。『自分にはほかの道もあるんだ』と思えてすごく嬉しかった。そこから自画像を描いていくうちに、自分にはいろんな表情があるんだなと気づき始めて、もっといろんな表情を見たい、見せられたらと思って、自分でジュノン・ガールズ・コンテストに応募したんです」
絵で美術の道へとも考えたが、選んだのは芸能界。自分自身を使って表現する場だった。そこには、ずっと抱えてきたコンプレックスからの解放があった。
「自分の顔があまり好きじゃなかったんです。最初に自画像を描いたのも、『みんなは可愛いのに、自分はこんな顔で……』と思っていたときでした。そのときは、本当にありのままの姿を描きました。というより、むしろ、自分の心の中の怒りをぶつけたもので、正直、すごく醜い感じのする絵でした。でも、それが評価された。『すごく惹かれました』とコメントをいただいて、芸術においては、自分が醜いと感じていたものでも評価してもらえるんだと。そのとき、何か肯定されたような気がしたんです。ずっと自分に自信がありませんでしたし、人前に立つことも好きじゃなかったんですけど、表に立ってやってみたいなって」
絵を通じて、自分自身を認めてもらえたという芋生。そうして表現する道を自ら掴んだ。
「今は自分が好きになりました。もっともっと、色んな表情を見せていけたらと思っています」
ちなみに『吾輩は猫である!』では猫視点で進むバージョンもある。芋生に動物になれるならどんな動物になりたいか聞いてみると、すっきりした顔でしっかり前を向く芋生らしい答えが返ってきた。
「チーターになりたいです。もともと陸上もやっていたので、もっと早く走れたらという思いがあります。あんなスピードで走れたら最高ですよね。風を切ってぱ~っと! すごく気持ちいいだろうなと思います」
東京へと出て、走り続ける芋生。後編では地元熊本への思いを聞く。
■プロフィール
芋生悠(いもう・はるか)
1997年12月18日生まれ、熊本県出身。2014年にジュノン・ガールズ・コンテストで10名のファイナリストのうちの1人に選ばれ、芸能界入り。2015年から女優として活動し、若手演技派として注目されている。主な出演映画に『左様なら』『37セカンズ』『#ハンド全力』『ソワレ』、『HOKUSAI』(待機作)、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』など。