米国ゼネラル・モーターズ(GM)の高級車ブランドであるキャデラックに、初のコンパクトSUVが加わった。キャデラックのSUVとしては巨大で立派な「エスカレード」が有名だが、逆に最も小さな今回の「XT4」は、どのような乗り味なのか。試乗してきた。
数ある小型SUVの中から「XT4」を選ぶ理由
過去10年近くにわたり、世界的にSUVの人気が高まっている。そして近年、販売を伸ばしているのがコンパクトSUVだ。キャデラックXT4の競合と考えられるのは、ドイツ車ではメルセデス・ベンツ「GLC」、BMW「X3」、アウディ「Q3」、ポルシェ「マカン」など。フランス車ではプジョー「3008」、シトロエンの「DS3 クロスバック」や「C5エアクロス」、日本車ではトヨタ自動車「ハリアー」やレクサス「NX」などで、ほかにもまだあるだろう。これだけ競合車がある中で、XT4を選ぶ理由を探してみる。
21世紀のキャデラックは、2003年の「CTS」という4ドアセダンでイメージを刷新した。それまで、キャデラック所有者の平均年齢は60歳といわれていたが、CTSは一気に顧客層の若返りをはかる渾身の1台だった。外観の造形だけでなく内装も新しく、ことにダッシュボードの造形は競合他車と比べても新鮮で、躍動感を覚えさせた。同じプラットフォームを使った「SRX」というSUVも誕生している。キャデラックは「セビル」を中心に前輪駆動(FWD)化していたのを後輪駆動(RWD)へと改めることで、若返りにも成功した。
SRXの後継が現在の「XT5」であり、さらに小型のSUVとして新しく誕生したのが、今回のXT4だ。
若手デザイナーが手掛けたというXT4の外観は堂々とした顔つきで、車体の小ささをあまり感じさせない佇まいがあり、さらに、高級車ブランドとしての品を落とさない優雅さを兼ね備えている。試乗車の車体色が黒であったため、精悍な印象も受けた。
競合のコンパクトSUVとどこか違う外観だと感じるのは、広大な米国の景色や幅広い道路に映える造形がなされているからではないだろうか。やや景色が窮屈な日本や欧州のクルマに比べれば、抑揚が大げさすぎない車体表面の造形を持つXT4。それが、米国車ならではの持ち味となっている。
室内は落ち着いた色使いであり、本革の座席は淡いグレーで色合いが目に心地よい。ドイツ車のように真っ黒な精悍さではなく、黒とグレーの色合わせによって爽快な印象を受ける。選択肢としては、黒の内装も用意されている。
試乗車は最上級グレードの「プラチナム」で、車両重量は1,780キロになるが、排気量2.0Lのターボエンジンは9速オートマチック変速機との組み合わせで、軽いアクセルペダルの踏み込みでも滑らかに発進した。そこから交通の流れに乗る際もよどみなく力を発生し、気持ちよく速度に乗せていく。
乗り心地はしっかりとした手ごたえで、あえていえばやや硬めといえる。そうしたところは、ドイツ車的だといえるかもしれない。近年のキャデラックは開発段階で欧州へ出向き、ドイツのニュルブルクリンクでの作り込みなども行っているので、ドイツ流の乗り味が感じられるところがある。それでも、アウトバーンのような速度無制限の高速走行を重視するのではなく、あくまで米国での利用を第一に考えているはずで、そこがキャデラック流の心地よさの源であろう。硬めであっても、硬すぎないという感触がある。
そこは日本の道路を運転していても伝わってくるところであり、高級車らしく、路面の変化をいなすように滑らかな走行を続ける。かつての米国車の「ふわふわ」とした乗り心地からすると、様変わりしている。
室内はいたって静かで心地よい。かつてのV型8気筒エンジン時代のような逞しくも勇ましいエンジン音は耳に届かないが、それでいて、直列4気筒という小排気量で大衆車にも利用されるエンジン形式であっても、粗さを伝えてはこない。快い質感を覚えさせるエンジンだ。9速ATも、変速の様子を気づかせない滑らかさがある。
高速道路での運転支援機能は、操作性も性能も今日のさまざまな車種と同水準にあるといえる。ただ、車線を維持する機能は精度がまだ十分ではないようだ。
走行モードは「ツーリング」「AWD」「スポーツ」「オフロード」の4種類から選べる。イグニッションを入れるとツーリングとなる設定のようだが、この時点で駆動方式は前輪駆動(FWD)だ。それでも、通常の走行ではFWDという感触はあまりなく、軽快に走る印象だ。
4輪駆動のAWDでは後輪の駆動力を体感し、またタイヤの接地感覚も増して万全の構えといった感じになる。舗装路でも、悪天候の際などには安心感をより強めてくれるだろう。スポーツに切り替えると。乗り心地はいっそう硬めとなる。山間の屈曲路などを運転するにはよいかもしれないが、キャデラックの高級感を味わいたいなら、走行モードはツーリングかAWDがいい。オフロードは走行する機会がなかった。
乗り心地で特筆すべきは、前後の座席の座り心地のよさである。厚みを伝えるクッションの座り心地は実に贅沢で、かつ体をしっかり支持してくれる。後席は、床と座面との距離が十分にあり、足を下げて座れるので腰が安定する。また、前席下へ爪先を差し入れるゆとりもとられており、実に快適な居心地であった。コンパクトSUVといえども、誰かに運転してもらって、後席に座って移動する快さをXT4は備えている。ずっと後席に座っていたくなるほどであった。室内の静粛性にも優れるので、前席の人との会話も楽しめる。
さて、XT4でもし懸念することがあるとすれば、左ハンドルであることかもしれない。近年は輸入車も多くが右ハンドルとなり、左ハンドルを運転する機会は限られる。だが、左ハンドルには左ハンドルなりのコツがあるし、左ハンドルならではの運転のしやすさもあるのだ
XT4を含め、近年のSUVは目線が高いことにより、遠くを見通しやすいという利点はあるものの、一方で、車体近くの周囲を確認しにくい傾向がある。それに、コンパクトSUVといえども、狭い道でのすれ違いなどでは道路左のガードレールや側溝が気になり、幅寄せしにくいと感じるドライバーも多いのではないだろうか。
その点、左ハンドルであれば、自分が左側の席に座って運転するので、左横のガードレールや側溝の位置がわかりやすく、幅寄せしやすい。
では、右側はどうかというと、車線内に入っていれば十分にゆとりが残されるし、センターラインがないような狭い道で対向車とすれ違わなければならない場合は、対向車が右ハンドルであれば、その運転者がすれ違いの安全を確認しやすいはずだ。互いに相手を気遣う運転は必要だが、左ハンドルのこちらが目一杯左へ幅寄せして待機し、相手に先に行ってもらうというゆとりがあれば、安全にすれ違うことができるのが左ハンドル車の利点だ。
有料道路の料金所やETCゲートの通過も、自分が座る左側に寄せて通過すれば、車幅感覚は問題ないはずである。交差点での左折や路肩で停車する際も左側を確認しやすいので、歩行者や2輪車などの存在を確認しやすく、巻き込み事故をより防ぎやすくなるだろう。
一方で、右折や右側車線への移動では、周囲を確認しにくい部分がある。しかし、その場面でも、安全を十分に確認する機会を待つことができれば、支障は少ないのではないか。慌てたり無理したりする運転は、右ハンドルでも左ハンドルでも事故のもとだ。
そもそも、車体寸法が比較的小さなコンパクトSUVであるXT4の場合、左ハンドルの利点をいかした運転を楽に思える人もあるだろう。
コンパクトSUVの中でも、移動の快適さや上質さを味わえる点で、XT4にはキャデラックならではの味わいや雰囲気がある。一度体験してみると、虜になるかもしれない。