FOOD & LIFE COMPANIES(旧社名:スシローグローバルホールディングス)は2日、都内で記者説明会を開催した。登壇した同社 代表取締役社長CEOの水留浩一氏は、国内のスシロー事業について報告したほか、「海外展開の展望」「テイクアウトとデリバリー事業」「京樽買収の狙い」などについても言及している。
■ついに中国進出へ
会見に出席したのはFOOD & LIFE COMPANIESの水留氏、京樽 代表取締役社長の石井憲氏、FOOD & LIFE COMPANIES 上席執行役員の小河博嗣氏の3名。
その冒頭、水留氏は海外展開の話題から切り出した。バンコク(タイ)で3月31日にオープンしたスシロー1号店については「初日から多くのお客様にお集まりいただき、入店には行列でお待ちいただく状態でした。同店舗にはグローバルで最大規模となる350席を用意しています」と笑顔で報告。ちなみに同社では社名の変更にともない、企業理念を『変えよう、毎日の美味しさを。広めよう、世界に喜びを。』に定めているが、このスローガンからも、グローバル展開を積極的に進めていく姿勢がうかがえる。
このあと、いよいよ中国本土における店舗展開にチャレンジする。いま1号店の最終的な調整に入っているという。「コロナ禍にあり、入国の手続きにも時間がかかる状況ですが、今期中(9月末まで)にオープンできれば。食材、設備などできる限りのものを持っていき、バンコクと同様、日本のスシローと同じ店舗を中国で再現します。ここでお客様にご支持いただければ、中国での店舗展開も加速できるはず」と意気込む。なお、すでに展開中の韓国、台湾、香港、シンガポール、タイにおける事業は堅調に推移していると説明。「今後さらに海外事業の比率を高めていきたい」「ゆくゆくは世界の主要都市に行けば必ず企業のロゴを目にするブランドにまで成長させていきたい」と熱い想いを語った。
次は今期の業績について。具体的な数字の明言は避けたが「コロナ禍の上半期でも、非常に堅調に事業を運営できました」と評価する。下期では寿司の味を進化させるだけでなく、業態も拡大していく。その一環として、テイクアウトやデリバリー事業の拡大を進める。例えば、駅の近隣あるいは駅ナカなどに、キッチンを持たないテイクアウト店を設置していくことを考えている。近鉄・大和西大寺駅には4月1日、新しいテイクアウト店をオープンさせたと報告した。
テイクアウト事業については、持ち帰り寿司の『京樽』を買収したシナジーも活かしていく。水留氏は「京樽とスシローで、どうコラボしていくか。いま京樽ブランドの石井社長と検討しているところです」と説明した。
■シナジーに期待
続いて、京樽 代表取締役社長の石井憲氏が説明した。これまで牛丼の吉野家ホールディングスの傘下にあった京樽。同社では、回転寿司店『海鮮三崎港』も運営している。石井氏は「同じ外食をバックボーンとする新たなグループに入り、いまドキドキワクワクしているところです。スシローブランドは回転寿司No.1であり、海外にも展開している。そんなグループの一員となったことで、多くのシナジーを生んでいければ」と期待感を口にした。
「近年、手がつけられなかった商品開発なども、スシローのノウハウを活かしながらやっていきます。京樽には長きに渡って蓄積してきたテイクアウトのノウハウもある。そうした強みを活かしながら、新しいエッセンスを取り込んでいき、グループの価値向上に寄与していきます」(石井氏)。
水留氏も「今後、グループの総力で京樽をサポートします。まずは味を良くしたい。いまスシローが元気にやれている要因は、味を常に進化させてきたからです。鮪(まぐろ)ひとつとっても、どうやったら味が良くなるか、何年間も研究してきた。スシローが体現してきたことを京樽、海鮮三崎港にも共有し、しっかり価値を上げていきます」と説明した。
最後に、戦略企画を統括しているFOOD & LIFE COMPANIES 上席執行役員の小河博嗣氏が挨拶。「国内外を問わず、またスシローの枠にとらわれず、広くチャレンジを続けていきます。京樽さんも加わりました。消費者の方に、鮮度の良い商品、情報をできるだけスピーディーに届けていきたい。ぜひ、ご期待いただければ」とまとめた。
■スシロー好調の理由は?
このあとメディアの質問に、水留氏、石井氏、小河氏が対応した。
――外食産業における各社の業績が落ち込むなか、スシローが好調の理由は?
水留氏:理由のひとつは、スシローのイートインの空間ではご家庭で体験できないことを体験できるからではないでしょうか。我々はイートインの空間で、お客様に楽しんでいただく体験価値を大事にしています。
またシステム面では、オンライン決済できるシステムを他社さんより早いタイミングで開発してきました。店舗のオペレータとうまく連動できるようにしています。お客様が商品を欲しがるのはランチタイム、ディナータイムです。裏側のシステムがしっかりしていないと、そのタイミングでいっぺんに来た注文をさばき切れません。コロナ以前からシステムを開発してきたので、このコロナ禍でテイクアウトの需要が一気に膨らんだときにも対応できました。
――居酒屋も運営しているが、コロナ禍の影響は。
水留氏:影響は受けていますが、居酒屋と言っても、我々がやっているのは寿司居酒屋 杉玉です。寿司というテーマがあるので、世の中の居酒屋チェーン店さんと比較すると、営業できている方だと思います。いま非常に良いロケーションも出てきています。とどまることなく、出店を継続していく考えです。あとはどのタイミングで、夜まで営業できる日が来るか。それを心待ちにしながら、そんな時期が来ることを信じて、出店を継続していきます。
――京樽は利益率が低い。スシローグループに入ることで、どう課題をクリアするか。
石井氏:そこが我々のウィークポイントです。20数年間、吉野家ホールディングスの一員としてやってきましたが、成し得なかった部分もありました。お寿司と牛丼ということで、こだわりの違いがあり、そこが融合できなかった。今後はスシローグループの調達力を活かして、ますます食材を磨きあげ、業態を磨きあげ、アナログな部分があればデジタルも取り込みながら、生産性を上げていきたい。これまで以上の京樽の数字を出して、お客様の数を増やし、グループ内でも確固たる地位を目指したいと考えています。
水留氏:基本的に、外食は鮮度だと思っています。食材の鮮度もありますが、店舗としての鮮度もある。ご来店いただいたお客様に、どれだけ新しさ、発見を提供できるか。それが次の来店につながります。京樽は、お店の鮮度が落ちていると感じていました。スシローは年間20回以上の祭り・フェアなどの販促を行っています。サイドメニューの開発も進めており、来店いただくたびに新しい発見がある。だから京樽も『何か新しいメニューがあるかも知れない、見に行ってみようよ』とお客様に思ってもらえるようにしたい。京樽も海鮮三崎港も、なんか面白くなったよね、と思っていただける取り組みを一緒にやっていければ。
――自社のデリバリーについて、今後の展開は。
小河氏:地味に、関西の3店舗くらいで自社デリバリーの実験を開始しまして、現在は30店舗ほどに拡大しました。エリアを変えながらテストを繰り返しています。地域によって反応が良いエリアもあり、好調な店舗からは『もう2~3台バイクが欲しい』という声も届いています。もう少しだけ店舗を増やしたら、一旦、全体の様子を見たい。自社デリバリーもそうですが、サードパーティの業者の利用も継続的に進めています。地域によって得意なエリア、そうでないエリアがあるようなので、そのあたりも見極めながら強化していきます。できる限りの店舗にデリバリーを入れていく方針です。
――いつ頃から(それほど業績が良くなかった)京樽買収の話が出たのか。
水留氏:昨年末頃にご案内をいただきました。その後、いろいろ調べさせていただいた、という流れです。より多くのお客様に寿司を食べてもらう機会を提供したい我々ですが、どうしてもスシローのフォーマットでは届かないエリアがありました。というのは、スシローのイートインを提供するには広い空間が必要ですが、都心には敷地が確保できないケースも多い。
スシローの看板を出しながら、体験価値を損ねることは、したくありません。これまでも『この50坪にスシローを出してください』なんて話はたくさんいただききました。でも、それではレーン、キッチンなどの標準装備が入らない。スシローのフォーマットは、100坪がないと入らないんです。そうなると揚げ物が提供できない、汁物が提供できない、となる。スシローの全部を体験できないスシローを、作りたくはありません。
では100坪の空間がとれない場所で、美味しいお寿司を提供するにはどうしたら良いか。違うフォーマットが必要だったんですね。海鮮三崎港さんでは、40~60坪のフォーマットながら、出店場所のニーズをつかんで回転率を上げてビジネスを回していた。かねてから、それをうちでも参考にしていました。現在、海鮮三崎港は100店舗近くを経営しています。そこで今回の買収のお話を肯定的に受け止めて、海鮮三崎港の土台を活かしていこう、という考えに至りました。テイクアウトに関しても、京樽のプラットフォームに我々のリソースを組み込む形を考えています。
――スシローと海鮮三崎港の差別化は。
水留氏:スシローっぽい三崎港なら、スシローで良いと思っています。では、三崎港の良さをどう追求して際立たせていくか。両店には、ネタの違いがあります。スシローで取り扱えないネタを、三崎港で使っている場合もあります。三崎港には職人がいるんですね。スシローは職人がいるわけではなく、ベテランの主婦の方が仕込み、調理している。だから、できるオペレーションが違う。そこで、三崎港だからこそ取り扱える食材を使い、三崎港の価値を絞り込んでいくことを考えています。
――コロナ禍における感染症対策について、今後の方針は。
水留氏:1年が経ち、我々も学習してきましたし、世の中にもノウハウが蓄積できたように感じています。お客様も、食べる空間では会話を控える、食べる瞬間だけマスクを外す、といったことに慣れてきました。店舗も努力しますし、お客様も意識してもらう、という意味でこれは共同作業だとも思うんです。食の空間が、できるだけ安心安全でいられるよう、お互いに気をつける空気、関係性が醸成されてきた。日々の生活のなかでご家族、大事な方と食事をともにするのは、生きていくうえでも必要不可欠なことですし、大事な時間を守るため、お互いに意識して安心にいきましょう、ということが今後も根付いていくと良いと考えています。
――感染症対策のための投資はしていくか。
水留氏:我々はコロナ前から自動化を進めてきました。生産性の向上を目指し、人を介さずともサービスできるシステムを開発してきたんです。だから『コロナは明日、終わります』と言われても続けるべき投資を、今後もやっていきます。
スシローには、店員と交わることなくロッカーで商品を受け取れる『自動土産ロッカー』だとか、セルフレジのようなチェックアウトの仕組みがあります。店舗の設計に関しても、入り口と出口で人が交わらない動線を考えています。安心安全につながる取り組みを、これからも継続的に進めていきます。