小規模企業共済とは、国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が運営する、小規模事業の経営者や個人事業主のための退職金制度です。掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除として所得税の課税対象金額から差し引かれるので、一般の預貯金で積み立てる場合と比べて高い節税効果があります。

小規模企業共済は小規模な経営者向けの制度ですが、同じように掛金が全額所得控除となる制度には「企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)」「個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)」「心身障害者扶養共済制度(以下、しょうがい共済)」の3つがあります。

それぞれの制度の掛金の上限と手続きについて解説します。

  • 小規模企業共済等掛金の上限について解説します

    小規模企業共済等掛金の上限について解説します

小規模企業共済等掛金控除制度のメリット

まずは小規模企業共済等掛金控除制度にはどんなメリットがあるのかをみていきましょう。

高い節税効果

所得税は給与や事業の売上から費用を差し引いた「所得」に税率を掛けて計算されます。その際、一定の項目の費用などについても「所得控除」として課税対象外とすることが法律で決められています。

代表的なものが、誰でも受けられる基礎控除や、家族の扶養状況により受けられる配偶者控除扶養控除です。他にも「社会保険料控除」「生命保険料控除」「医療費控除」「寄付金控除」など、15の所得控除があります。

小規模企業共済等掛金控除も所得控除の一つであり、年間に支払った掛金全額が所得控除の対象となります。税金を払った手取り給与から預貯金をするのに比べて高い節税効果があります。

例えば、以下の画像をご参考ください。年収1,000万円の経営者の場合、基礎控除と給与所得控除、社会保険控除後の課税所得を約600万円とすると、小規模企業共済加入前は、所得税と住民税を合わせて約140万円(※1)掛かるため、手取りは460万円になります。

ところが、小規模企業共済を毎月3万円掛けると約11万円(※2)、上限の7万円掛けると約26万円(※3)の節税ができます。

  • 小規模企業共済等掛金控除は高い節税効果が期待できます

    小規模企業共済等掛金控除は高い節税効果が期待できます

退職金の受取時にも所得控除

事業の廃業や勇退時に積み立てた掛金で「退職金」を準備できるばかりでなく、受取時も一括受取なら「退職所得」扱い、分割受取なら公的年金と同じ「雑所得」扱いになり、受取時にも所得控除が受けられます。

低利の契約者貸付制度

もしも事業資金が必要になった場合、掛金の範囲内で低金利の即日貸付を受けられる契約者貸付制度があります。

小規模企業共済等掛金控除制度のデメリット

続いて、小規模企業共済等掛金控除制度のデメリットをみていきましょう。

解約の制限

国の共済制度としてさまざまな優遇制度がある反面、共済金の受け取りには制限があります。下記の4区分の事由で受け取り金額が決められていますが、廃業・老齢退職以外の解約や短期間の解約では不利になります。また、1年未満の解約では解約手当金は受け取れず、掛け捨てになります。

  • 共済金A:法人の解散や個人事業主の廃業・死亡時など
  • 共済金B:法人役員の死亡や65歳以上での退任など
  • 解約手当金:任意解約など
  • 準共済金:役員を退任した場合など

元本割れのリスク

20年未満で廃業・老齢退職以外で任意解約すると、受け取る解約手当金は掛金総額を下回るため、元本割れになります。

小規模企業共済の掛金の拠出限度額

小規模企業共済の掛金は、月額で毎月1,000円から最高額は7万円月です(最高84万円/年)。個人事業主の経営者が「小規模共済」と「iDeCo」を両方掛ける場合、ひと月の上限額は7万円+6万8,000円になり、年間の掛金合計165万6,000円の所得控除を受けられます。

なお、小規模企業共済等掛金控除は申告者本人の掛金のみを所得控除の対象としています。配偶者の加入している「小規模企業共済」や扶養家族の「iDeCo」などの掛金を負担していても、その掛金は所得控除の対象にはなりません。

企業型DCやiDeCo、しょうがい共済の掛金の拠出限度額

小規模企業共済の掛金は上限額7万円でした。ここからは小規模企業共済同様、掛金が全額所得控除となる3つの制度について詳しくみていきましょう。

企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型DCの掛金上限は、企業の確定給付年金制度があるかどうかで上限額が変わります。確定給付年金制度がない場合は5万5,000円/月まで、確定給付年金制度がある場合は2万7,500円/月です。

個人型確定拠出年金(iDeCo)

iDeCoは企業型DCと違い、掛金は個人で出し、掛金全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となります。拠出額は5,000円以上から1,000円単位で設定でき、個人事業主の場合は最高で6万8,000円/月、年額81万6,000円です。ただし、国民年金基金に加入している場合は「iDeCoと国民年金基金合わせて6万8,000円」が限度です。国民年金基金分も合わせて全額所得控除となります。

企業型DCとiDeCoを併用する場合も、企業の「確定給付年金制度」があるかどうかで上限額が変わります。企業の確定給付年金制度がない場合、企業型DCは3万5,000円/月、iDeCoは2万円/月で合計5万5,000円/月が上限に。確定給付年金がある場合は、企業型DCは1万5,500円/月、iDeCoは1万2,000円/月で合計2万7,500円/月が上限となります。

心身障害者扶養共済制度(しょうがい共済)

しょうがい共済は加入者の年齢により掛金月額が決められており、上限2口まで加入することができます。掛金に関わらず、共済金は月額2万円/1口です。

  • しょうがい共済制度の月額あたりの掛金

    しょうがい共済制度の月額あたりの掛金

小規模企業共済の掛金の納付と増額・減額方法

小規模企業共済の掛金は、個人の預金口座からの引き落としで納付します。申し込み時に初回掛金を現金納付するかどうかを選ぶことができます。掛金の納付方法は「毎月」「半年」「1年」の3つの払込区分から選択可能です。

掛金月額は1,000円から7万円まで、500円単位で決めます。その後、掛金月額を増減する場合は1,000円から7万円まで、500円単位で増・減額できます。

税制優遇を活用し安定経営へ

小規模企業共済および企業型DC、iDeCoとも、経営者個人の退職金準備として、国が税制優遇して推奨する制度です。小規模な経営者向けの制度ですが、事業規模が小さいときから少しずつ継続的に積み立てを続けることで、経営者や家族の老後資金準備ができます。

いざというときには、小規模事業共済を事業資金として短期借入に使うこともできます。毎年の所得税・住民税の軽減効果も高いので、早めに内容を確認したうえで加入を検討しましょう。