退職金は、定年退職後の生活を支える大切な資金の一つです。だからこそ、将来どのくらい受け取れるのか、把握しておきたいですよね。そこで本稿では、最新の退職金の平均金額をご紹介します。退職金制度の仕組みについても解説しましたので、こちらもご参考ください。

  • 定年まではたらいたら退職金はいくらもらえる?

    定年まではたらいたら退職金はいくらもらえる?

■退職金制度とは

まず、退職金制度とはどのような仕組みなのか、確認してみましょう。退職金は、退職するときに会社から退職者へ支給されるお金のことです。「退職手当」や「退職慰労金」と呼ばれることもあります。退職金には大きく分けて二つの種類があり、一つは退職一時金、もう一つは退職年金といいます。ただし、一般的に退職金というと、退職一時金を指すことが多いでしょう。

退職一時金は、退職時に一括で支払われます。一方の退職年金は、退職後、一定期間にわたり一定額を年金として支給されるもので、「企業年金」とも呼ばれています。退職一時金と退職年金、いずれも支給される会社もあれば、どちらか一方の制度を導入している会社もあります。

ちなみに、厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」によると、退職給付制度がある企業のうち、退職一時金制度のみは73.3%、退職年金制度のみは8.6%、両制度併用は18.1%となっています。

なお、退職金は法律で義務付けられた制度ではないため、退職金が支給されない会社もあります。同調査によると、退職給付制度がある会社は80.5%。つまり、5社のうち1社は、退職金が出ないということです。また、退職金の具体的な支給内容も企業ごとに設定されるため、一律の決まりは存在しません。

正社員なら必ず退職金がもらえるわけではなく、退職金の給付内容も会社によって様々なのです。一度、勤め先の退職金制度を見直してみましょう。

■退職金の平均はいくら?

では、退職金はどのくらい受け取れるものなのでしょうか。退職金は、企業規模や職種、業種のほか、勤続年数、学歴、さらには退職金制度などによって金額が異なります。ここでは、大学卒と高校卒、そして、中小企業の退職金の平均金額を比較しました。

大学卒と高校卒の退職金の相場

まずは、前出の「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」から、退職給付制度のある企業における、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の平均退職給付額を退職事由別に見ていきましょう。

  • 「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」をもとに作成

    「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」をもとに作成

・大学、大学院卒(管理・事務・技術職)
定年 1,983万円
会社都合 2,156万円
自己都合 1,519万円
早期優遇 2,326万円

・高校卒(管理・事務・技術職)
定年 1,618万円
会社都合 1,969万円
自己都合 1,079万円
早期優遇 2,094万円

・高校卒(現業職※1)
定年 1,159万円
会社都合 1,118万円
自己都合  686万円
早期優遇 1,459万円

このデータによると、大学、大学院卒の退職金は、退職事由に関わらず最も高くなっています。次いで、高校卒(管理・事務・技術職)、高校卒(現業職)と続いています。学歴や職種による退職金の違いは、データにも顕著にあらわれています。

また、退職事由別に見ると、早期優遇(※2)が最も高く、次いで会社都合(高校卒の現業職除く)、定年と続き、自己都合による退職金は、他の退職事由と比べて非常に低い金額であることがわかります。早期優遇と自己都合を比べてみると、その差はなんと約800~1,000万円にも。退職事由によって、退職金にはこれほどの差が生じるようです。

なお、退職金制度の形態によっても退職金は大きく変わります。大学、大学院卒(管理・事務・技術職)の平均退職給付額(※3)は、退職一時金制度のみでは1,678万円、退職年金制度のみでは1,828万円、両制度併用では2,357万円です。制度が併用されているかどうかによって、約500~700万円の違いがあります。これは、高校卒の「管理・事務・技術職」や「現業職」においても同じ傾向が見られました。

出典 : 厚生労働省「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」

中小企業の退職金の相場

最後に、中小企業の退職金を見てみましょう。東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」によると、モデル退職金(※4)の定年時の支給金額は、高校卒で1,031万4,000円、高専・短大卒で1,026万円、大学卒が1,118万9,000円でした。

  • 「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」をもとに作成

    「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」をもとに作成

そのうち、退職一時金のみの企業の場合は、高校卒では932万9,000円、高専・短大卒では923万5,000円、大学卒では987万4,000円という結果でした。中小企業で退職一時金のみだと、いずれの学歴でも退職金が1,000万円を割り込む形となっています。

一方、退職一時金と退職年金を併用している企業では、高校卒で1,305万5,000円、高専・短大卒で1,296万1,000円、大学卒で1,364万2,000円でした。やはり、退職金制度の違いによる金額の差は、明確なようです。

※1 管理・事務、技術職以外の、生産や販売、サービス等の業務に直接従事する職種のこと
※2 早期優遇退職制度のことで、定年前の社員を対象に、退職金を優遇するなどして退職者を募集する仕組みのこと
※3 退職給付制度のある企業における、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者が対象
※4 卒業後すぐに入社し、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準

出典 : 東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」

■退職金はどう変化している?

ひと口に退職金といっても、学歴や退職事由、退職金制度によってその金額はまちまちであることがわかりました。こうした退職金ですが、実は、ここ20年で平均給付額が右肩下がりに減少しています。前出の「就労条件総合調査」を参考にすると、定年退職者(大学・大学院卒、管理・事務・技術職、勤続20年以上かつ45歳以上)の平均退職給付額(退職一時金と退職年金の合計)は、1997年では2,871万円でしたが、その後一度も上がることなく下がり続けています。

また、退職金制度の縮小や廃止を行う企業も増えており、老後生活を退職金に頼れないことも十分に考えられます。こうした事態に備えるには、iDeCo(個人型確定拠出年金)などの制度を活用し、自分でも老後資金の準備を進めることが大切です。

■会社の退職金制度を確認しよう

「退職金は当然もらえる」と思っていても、会社に退職金制度がなかった、または、実際にもらえる金額が予想以上に少なかった……ということもあり得ます。まずは勤め先の退職金制度を確認し、あわせて企業年金制度なども把握しておきましょう。