スポーツクライミングのリードジャパンカップ(LJC)決勝が3月28日、千葉県の印西市松山下公園総合体育館で行われた。
男子は16歳の吉田智音(奈良県立青翔高等学校)が初優勝を果たし、女子は17歳の森秋彩(茨城県山岳連盟)が2連覇を達成。スポーツクライミングは若手の台頭が目覚ましく、まさにそれを象徴するかのような結果で3日間に及んだ大会は幕を閉じた。
リード種目ので接戦が繰り広げられる
"リード"とは、スポーツクライミングの中の一種目。高さ12メートル以上の壁を登り、6分という制限時間内に到達できた高度を競う競技である。LJCはリード種目の日本一を決める大会で、その歴史は長く、今大会で34回目を数える。
決勝には男女それぞれ8名が進出。男子は藤井快、天笠颯太、島谷尚季、村下善乙、吉田、田中修太、樋口純裕、百合草碧皇、女子は森、谷井菜月、田嶋あいか、野口啓代、阿部桃子、平野夏海、柿崎未羽、中川瑠が出場。いずれも1ポイントを争う接戦を繰り広げた。
初優勝を果たした吉田選手は、昨年2位だったにも関わらず「目標としては5位くらいに入りたいと思っていた」と謙虚な姿勢を見せる。試合後のインタビューでも「本当に信じられない気持ちでいっぱいです。まだ自分の立場を理解できていません」と驚きを隠せない。
今後の目標については、「(パリ大会以降の)オリンピックは絶対出たいし、世界選手権でも優勝したいと思います。近い目標でいえば、W杯で決勝に残れるような選手になりたいと思っています」と話した。
2位は予選を首位で通過した樋口純裕選手(佐賀県山岳・スポーツクライミング連盟)。優勝した吉田選手と同じく34+をマークしたが、前ラウンド(この場合は準決勝)の成績上位者が上位扱いとなる「カウントバック」によって吉田選手に優勝を譲る結果となった。
藤井快選手に注目が集まる
そのほかに注目が集まっていたのは、やはり首位で決勝進出を決めた藤井快選手(TEAM au)である。昨年末のコンバインドジャパンカップ(CJC)と今年1月のボルダリングジャパンカップ(BJC)を制し、ジャパンカップ3連勝の期待も背負っていた藤井選手だったが、惜しくも一手届かず3位に甘んじた。
藤井選手は大会後のインタビューで、「本当に悔しいの一言。まだ最後に余力があったので、なんで搾り切れなかったんだろうと思います」とコメント。「BJCも運が大きかったので、実力ではまだまだ10回のうちに何回勝てるか分からない状態。もっと勝率を上げる練習をしないといけない」と振り返った。
さらに、優勝した吉田選手のような若手の台頭について、藤井選手は「僕がその年齢の頃はポンコツで弱かったが、29歳の今だからこその強さもあるので、背中を見せていけたらいいなと思います」と言及した。
驚異的な粘り強さで連覇を成し遂げた森選手は、「優勝できた喜びよりも、完登できなかった悔しさのほうが強い」と厳しい表情を浮かべ、「ムーブのときに迷ってしまうのが一番の課題です。それでかなり腕の力が吸われてしまいました。これからはムーブの突破力、判断力の向上に力を入れたい」と反省の弁を口にした。
今後のスケジュールについて森選手は、「ワールドカップが始まりますが、新型コロナウイルスの感染リスクや、帰国後に2週間も家から出られなくなることを考えると、デメリットのほうが大きい。クライミングが大好きだからこそ、そのリスクを背負ってまで行くべきではないかなと思っています」と慎重な姿勢を示した。
さらに、「国内で勝てるからといって、海外でも比例して順位が上がるわけではありません。パワーではまだまだ課題もあります。自分が本当に目指している、"世界で活躍する"という目標は曲げずに頑張っていきたいです」と目標を語った。
野口啓代選手は準優勝
女子の準優勝は、今年の東京オリンピックを最後に現役引退を公言している野口啓代選手(TEAM au)。3月6日に行われたスポーツクライミング 第3回スピードジャパンカップ(SJC)では初優勝を果たしたが、今回は準優勝に終わった。
野口選手は、「優勝したかった気持ちはもちろんありますが、予選や準決勝よりもいい登りできたので、個人的には満足しています」とコメント。
「SJCから日が経っておらず、身体も仕上がっていなかったのですが、それでも決勝に出られて、満足のいくパフォーマンスを出せたことにホッとしています」と手応えをかみしめた。
さらに、「オリンピックは1日で3種目(リード、ボルダリング、スピード)をやるので、完成度を上げていきたい。あと4ケ月あるので、まだまだここから仕上げられるはず。今回、いい登りができたのは、オリンピックに向けて自信がついた部分でもあると思います」と前向きなコメントで自信を覗かせた。