“緊急時には水に浮く”超小型電気自動車(EV)「FOMM ONE」(フォムワン)を活用した実証実験がさいたま市でスタートした。複数の乗り物から最適なものを選んで使うシェア型モビリティのトライアルで、成果によっては小さなEVが普及する糸口になるかもしれない。実車も見たかったので、実験に参加してきた。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    超小型モビリティの企画・開発を手掛けるフォムが開発した超小型EV「FOMM ONE」。2019年にタイで生産・販売を開始しており、現地ではすでに約400台が走行している。日本では2021年5月以降に発売予定。車両価格は270万円を見込んでいるが、補助金を活用することで実売価格は250万円程度に抑えられるそうだ

使い方は十人十色!

「FOMM ONE」が採用されたのは、さいたま市、ENEOSホールディングス(以下、ENEOS)、OpenStreetの3社が大宮駅およびさいたま新都心駅周辺エリアで3月23日に開始した実証実験。その内容は、移動シーンにあわせて複数の乗り物から最適な手段を選択できるシェア型モビリティサービスの有効性を確認するというものだ。電動アシスト付き自転車とスクーターについてはすでに運用されていたが、超小型EVの可能性を探る目的で今回、新たに「FOMM ONE」を導入した。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    2021年1月に軽自動車ナンバーを取得した「FOMM ONE」。今回の実証実験に向けENEOSは「FOMM ONE」を10台購入したが、今後のさらなる増車も予定しているそうだ

FOMM ONEのボディサイズは全長2,585mm、全幅1,295mm、全高1,550mm。コンパクトな車体でちょっとしたスペースにマルチモビリティステーションが確保できるという利便性の高さから、実証実験に使う車両として選ばれた。

ENEOSらがFOMM ONEを選んだ理由はほかにもある。まずはFOMM ONEが4人乗りであること。超小型EVながら後席が確保されているため、子供の送迎に利用することもできるし、買い物の際には荷物も積める。後ろにスペースがあることにより、利用者ごとのさまざまなニーズに対応可能なのだ。

借りたFOMM ONEは、必ずしも同じステーションで返却する必要はない。例えばショッピングセンターまでは電車で向かって、荷物の多い帰り道はFOMM ONEを利用し、自宅近くのステーションに乗り捨てるという使い方もOKだ。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    後席にチャイルドシートを設置すれば、小さな子供の送迎や家族のお出かけにも利用できる

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    リアガラスが開閉できる仕組みのため、荷物の出し入れも楽に行える

理由の2つ目は連続航続距離だ。FOMM ONEはフル充電で約166キロの走行が可能(NEDCという欧州の計測方法に準拠)。カーシェアリングサービスを展開するうえで、充電の頻度が少なくて済むのは利用者と運営側の双方にとって、手間やコストの面で大きなメリットになる。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    運転席と助手席の下(写真左)に各1個ずつ、リアシート下(写真右)に2個の計4個のバッテリーを積載。バッテリーの総出力は11.84kWh

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    「FOMM ONE」の給電口はフロントにある。満充電に要する時間は200Vの普通充電で7.5時間。急速充電には対応していない

シェア型モビリティサービスに「FOMM ONE」が加わることで、大宮駅およびさいたま新都心エリアのさらなる回遊性の向上につなげていきたいとするさいたま市。同サービスの利用時は、OpenStreetが提供するアプリを使うことで予約から返却までを一元的に行えるが、さいたま市らは収集したデータを基に利用状況を可視化し、どこに、どのくらいのステーションを設置すべきかなど、利用者がより便利に活用できる方法を明らかにしていく方針だ。

アクセルペダルがない? 「FOMM ONE」に試乗!

ここからは、実際にFOMM ONEに試乗してみて分かったポイントを紹介したい。

まず、通常のクルマと大きく違うのが操作性だ。通常のAT車であればドライバーの足元にはアクセルペダルとブレーキペダルがあるが、「FOMM ONE」はブレーキペダルのみで、アクセルが付いていない。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    アクセルペダルがない!

では、FOMM ONEを走らせるにはどうするのかといえば、ハンドルサイドに取り付けられたレバーで操作する。手で操作するという意味では二輪車に近いイメージだ。レバーを手前側に引いている時がいわゆるアクセルを踏んでいる状態で、レバーを戻せばアクセルを離している状態となる。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    「FOMM ONE」のハンドル周り。中心から横に飛び出た左右のレバーがアクセルの開閉を担う

アクセルレバーは左右に計2本あり、それぞれに時速40キロ分ずつが割り振られている。そのため、片方の操作でも「FOMM ONE」を駆動させることは可能だが、最高時速80キロを出すためには両方のレバー操作が必要になる。

近年、特に高齢者によるペダルの踏み間違え事故が増加しているが、FOMM ONEの新しい操作系は、こうしたうっかりミスを未然に防ぐためのものらしい。実際に運転してみると、最初は少し戸惑う部分があったものの、しばらく走行していたらすぐに慣れてしまったので、そんなにハードルは高くないはずだ。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    始動音は全くしないため、モーターのオン/オフは液晶パネルで判断することになる

むしろ注意したいと思ったのが、レバーを戻す時。「FOMM ONE」はEVであるため回生ブレーキを採用しているが、この効きが結構強い。両方のレバーを同時に戻すと、マニュアル車でいえばいきなりローギアに入れた時のようなガツンという衝撃がくる。減速の際には回生の効きを確かめながら、レバーを徐々に戻していった方がよさそうだ。その意味でも、心にゆとりを持った運転が不可欠となる。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    シフトはインパネのボタンで変更する

今回は体験できなったが、FOMM ONEには水害時の緊急避難用として、水に浮き、水面を移動できる対水害設計が施されているという。

インテリアはバスタブのようなデザインになっており、ドアを閉めてしまえば水が車内に侵入しない構造になっているのだとか。そのため、シート下部のバッテリーが水に浸かることもないそうだ。モーターや足回りといった各部にも徹底した防水処置を行っているという。

  • 超小型EV「FOMM ONE」

    「FOMM ONE」の足回り

未来のモビリティサービスを一足早く体験できる今回の実証実験。試乗会に参加したユーザーからは、「こうしたサービスがあるなら、ぜひ利用したい」という声が多く聞かれているそうで、今後に向けた視界は良好だ。なお、「FOMM ONE」は15分200円で利用できる。

  • 超小型EV「FOMM ONE」
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