韓国の宇宙機関・韓国航空宇宙研究院(KARI)は2021年3月25日、開発中の新型ロケット「ヌリ号」の第1段機体の、「最終総合燃焼試験」に成功したと発表した。
第1段エンジンを、実際の打ち上げと同じ127秒間にわたって燃焼させる試験で、この成功により開発が完了。第2段、第3段などの試験はすでに完了済みで、このあと各段を組み立て、今年10月にも試験打ち上げに挑む。
ヌリ号が完成すれば、韓国の宇宙開発にとって大きな恩恵がもたらされる一方で、課題もある。
ヌリ号(KSLV-II)とは?
ヌリ号は韓国の新型国産ロケットで、KARIを中心に、韓国航空宇宙産業やハンファ・エアロスペースなどの民間企業が協力して開発している。
韓国はかつて、ロシアと共同で「ナロ号」というロケットを開発したが、2009年から2013年にかけて3機が打ち上げられたのみで事業が終了。現在、韓国は衛星打ち上げ用ロケットを保有していない。そのため、ヌリ号が完成すれば、韓国は自国の衛星を自律的に打ち上げられる能力を手にできる。
計画名は「KSLV-II(Korea Space Launch Vehicle-II)」で、ヌリという愛称は一般からの公募で選ばれた。ヌリとは、韓国の古い言い回しで「世」、「世界」といった意味をもつ。
ロケットは3段式で、全長は約47.2m、直径は約3.5m。高度600~800kmの地球低軌道に約1.5トンの打ち上げ能力をもつ、小型~中型ロケットである。
1段目には、新開発の推力75tf級のロケットエンジンを4基装備する。第2段には同じ推力75tf級エンジンを真空用の大きなノズルに改修したものを1基装備。第3段には、推力7tf級の小型エンジンを装備する。
75tf級エンジンも7tf級エンジンも、推進剤にケロシンと液体酸素を使う、ガス・ジェネレイター・サイクルを採用している。
射場は、全羅南道の高興にあるナロ宇宙センターを使う。同センターにはエンジンの燃焼試験場もあり、ヌリ号の開発拠点にもなっている。
同センターはかつて、ロシアと共同で開発した「ナロ号」ロケットの打ち上げが行われた場所でもあり、組み立て施設なども改修されたうえで流用されている。ヌリ号の打ち上げは新設された「第2発射施設」から行われる。ちなみに、ナロ号の打ち上げに使われた第1発射施設は現在、固体の小型ロケットの打ち上げにに使うための改修が行われている。
最終総合燃焼試験に成功、今年10月に打ち上げへ
ヌリ号の開発は2010年3月から始まり、2015年7月までを第1段階とし、ロケットの予備設計や7tf級エンジンの開発を実施。続いて2015年8月から2018年12月までを第2段階として、ロケットの詳細設計や75tf級エンジンの開発、地上試験が行われた。
韓国はもともと、ナロ号開発の前に国産ロケットの開発を目指していたこともあり、ある程度エンジンの技術はあったものの、それでも推力75tf級エンジンの開発では、燃焼試験で振動が発生するなどし難航した。
2018年11月28日には、同エンジンの性能の検証や確認を目的とした、試験ロケットの打ち上げを実施。良好な成果を収め、開発は大きな山場の1つを越えた。
その後、2018年4月から2021年3月までを第3段階とし、さらなる開発を進め、そして2021年2月に宇宙への試験打ち上げを行い、ヌリ号の開発は完了となる計画だった。しかし、2020年9~11月にヌリ号の総合点検を行った結果、部品の一部に不良品が見つかり、業者を変えるなどの対応を行った結果、計画が約半年遅れることになった。
こうした紆余曲折を経て、今回、第1段の「最終総合燃焼試験」に成功した。これは、実機とほぼ同じ第1段機体に、4基の75tf級エンジンを装備し、実際の打ち上げと同じ127秒間にわたって燃焼させることを目的とした試験だった。
エンジン単体の試験も山場となったが、それを4基組み合わせて同時に燃焼する「クラスター」技術も難しく、もうひとつの大きな山場となった。今回、その試験が成功したことで、打ち上げに向けた最終関門を突破したことになる。
試験には文在寅(ムン・ジェイン)大統領も立ち会い、試験後には「皆さんを誇りに思います。本日、ヌリ号の第1段エンジンの最終総合燃焼試験が成功したことを祝したいと思います。これは韓国の最新鋭宇宙ロケットの打ち上げを想定した最後の試験であり、残るは本番の打ち上げのみです」と語った。
第2段、第3段などの試験はすでに完了済みで、このあと各段の組み立てと、組み立てた状態での試験を実施。現時点で、打ち上げは今年10月に予定されている。ペイロードは、衛星を模したダミーを搭載する。
2号機の打ち上げは2022年5月に予定されており、この打ち上げでは質量約200kgの性能検証衛星と、大学が開発したキューブサット(超小型衛星)を搭載するという。