コロナ禍でリモートワークの導入と定着が進んでいるが、それに伴う課題として管理と評価、コミュニケーション、生産性などが指摘されている。

通信販売業の生活総合サービスは、コアタイムなしの完全フレックスでのリモートワークを試してその効果を確認、2月に本格導入した。あわせて、「わくワーク」という新しい働き方の制度も整備した。その背景にあるのは、「信じ抜く」という代表の思いだという。今回、同社の経営管理部 リーダー/ブランド企画部 リーダーの戸田良輝氏に話を聞いた。

  • 生活総合サービス 経営管理部 リーダー/ブランド企画部 リーダー 戸田良輝氏

リモートワークを実験導入、9割が利用

生活総合サービス(以下、ていねい通販)は1997年創業の通販事業者で、「ていねい通販」という通信販売サイトを運営している。代表製品は「すっぽん小町」で、化粧品や健康食品を専門とする。コールセンターでは成約目標などを設けておらず、顧客に向き合うことを大切にしている。売上は2009年より10年連続で50億円を達成、定期購買の継続率は94%を誇る。

合計で54人いる社員の8割は女性。平均年齢は34歳で、創業時から勤務している人もいれば新卒もいる。出産や育児、介護などがライフスタイルに影響を受けやすいことから、これまでも仕組みを変えてきた。それでもまだ不十分だと感じており、もっと社員に寄り添う仕組みを考えようとしていた矢先に、新型コロナが起きた。

そこで考案したのが「わくワーク」という新しい仕組みだ。コアタイムはなく、1日の所定時間を6~8時間で選択できる。1日の労働時間の上限は10時間、下限はなし。合わせて、環境整備のためのノートPCやスマホ、Wi-Fiなどの配布も進め、「わくワークサポート」として月に2万円の手当も支給する。

このわくワークを2020年11月にトライアルとして導入したところ、コールセンターの社員を含めて9割が取得した。「子どもの送り迎えに行きやすくなった」「病院に行く時間が取れた」などの声がでており、効果を確信したことから、2月に本格導入した。

「顧客第一主義」と「社員満足」は対立する

ていねい通販は「わくワーク」だけでなく、社員の自己投資の支援も進めている。月2万円の手当を支給するが、この金額では貯金や生活の足しにしがち。そこで、思い切った自己投資をしてもらうために、賞与とは別に半年に1回12万円を支給することを決めた。期限は「半永久的」という。使い道について、会社は一切関与しない。

「申請制にすることもできます。でも、自己投資はさまざま。クリエイティブな時代なので、旅行や映画が自己投資になる人もいれば、電子機器の人もいます。そこで、自由に使ってもらうために手当として渡すことにしました」と、戸田氏は語る。

このように一見”ゆるい”リモートワーク、”太っ腹”の手当の背景にあるのは、ていねい通販の確固とした理念がある。戸田氏は次のように説明する。

「当社は”身近な人から大切にする”という理念を掲げています。もともとお客さまと向き合うことを大事にしてきましたが、まずは自分の家族など身近な人を大切にし、その次に社員、そしてビジネスパートナー、最後にお客さまと考えるように変えました」

これを、「シャンパンタワーのようにコップの水があふれた分だけ隣の人を幸せにするという思想」と、戸田氏はたとえた。

しかし、ここに至るまでには試行錯誤もあったようだ。創業時から「人を大事に」を重視していたが、「顧客第一主義と社員満足はバッティングしがち」だった。つまり、お客さまを第一に考えると社員は頑張りすぎてしまうし、ビジネスパートナーにも求めすぎる。お客さまは喜んでいるかもしれないが、自分たちは疲弊する。そこで、優先順位としてまずは自分たちを第一に持ってきたという。

実のところ、2018年の北海道胆振東部地震の際も、コールセンターの外注先がある札幌は影響を受けたが、顧客満足よりもビジネスパートナーを優先させ、「業務停止しても大丈夫」と伝えたという。

ていねい通販自身もコロナ禍では社員を優先させてコールセンターの営業時間を短くした。それに対する顧客の反応は肯定的なものが圧倒的に多く、批判は少なかったという。その理由を、戸田氏は「女性が働くことが当たり前になり、消費者の主流が働く人になっている。働く人にとってよくない会社はよくないという流れになっているのでは」と分析して見せた。

そのような考え方もあり、もともとノルマはなく、売上目標もない。それに加えて、2020年の目標は「信じ抜く」。新型コロナの前に決めていた目標だが、信じてみようということでできたのがわくワーク、というわけだ。