業務を委託する際に利用する「業務委託契約書」について解説します。業務委託契約と雇用契約の違いは何なのか、業務委託契約書の一般的なフォーマットと記載事項、作成時の注意点についても紹介します。
業務委託契約書とは
「業務委託契約書」とは、業務の発注者(以降委託者と呼びます)が、受注者である相手方(以降受託者と呼びます)に対して何らかの業務を委託する際に締結する契約書です。受託者は、委託者から委託された業務を行うことで報酬を受け取ります。
業務委託契約書は、法律的には「請負」「委任・準委任」に分けられます。請負は仕事の完成義務を負います。委任・準委任は委任された業務を行いますが、一般的な注意義務はあるものの仕事の完成義務は負いません。
業務委託契約と雇用契約の違い
「業務委託契約」と「雇用契約」は、似ているようで大きく異なる契約です。両者の違いを比較表としてまとめました。
比較項目 | 業務委託契約 | 雇用契約 |
---|---|---|
契約当事者の関係性 | 対等 | 主従関係 |
労働基準法や労働契約法の適用有無 | 適用されない | 適用される |
仕事や業務命令に対する拒否権 | あり | なし |
事業者の指揮命令 | 受けない | 受ける |
事業者から直接指示を受ける | 受けない | 受ける |
労働時間や作業場所 | 指定されない | 指定される |
業務委託契約と雇用契約の大きな違いは、契約を締結する当事者の関係性にあります。業務委託の場合は、委託者と受託者は対等な関係です。
一方、雇用契約の場合は、事業者に対して主従関係にあります。雇用契約者は労働基準法や労働契約法が適用されますが、業務委託契約者の場合は適用されない点も大きな違いです。
業務委託契約を結んでいるのに、事業者が仕事について直接指示を出したり、労働時間や作業場所を指定したりするのは契約違反となります。雇用契約のような労働実態があると、実質的に雇用契約とみなされるため要注意です。両契約の性質を理解し、正しい契約を結ぶようにしなければなりません。
業務委託契約書の種類
業務委託契約書には、いくつかの種類があります。ここでは、報酬の支払い方法に着目して、主に「毎月定額型」「成果報酬型」「単発業務型」に分類、解説します。
毎月定額型
毎月定額型は、毎月一定額を報酬として支払うタイプです。清掃業務やコンサルティング、ITシステムの保守業務などはこのタイプに相当します。
成果報酬型
成果報酬型は、成果によって報酬が変動するタイプです。営業関連の業務や店舗運営を委託する場合は、このタイプとなる場合が多い傾向にあります。
単発業務型
単発の業務を委託する場合は単発業務型です。報酬は、業務が長期間の場合は1カ月ごとに支払う、というケースもあります。Webデザインの業務委託、ITシステム開発の委託などは単発業務型の契約が一般的です。
収入印紙の扱い
請負契約の業務委託契約書に契約金額を記載する場合、印紙税法の第2号文書になるため収入印紙が必要です。また、委任契約(販売の委託を除く)の場合は、非課税文書となるため印紙税はかかりません。
注意点は、請負契約の業務委託契約書で、契約期間が3カ月を超えて契約金額の記載がない場合です。このケースは第7号文書に該当し、4,000円の収入印紙が必要となります。ただし、業務委託契約書をPDF化して電子契約にすると、印紙税は不要です。
業務委託契約書の例と一般的な記載事項
業務委託契約書の例として、国土交通省のフォーマットを紹介します。
上記をベースに、一般的な記載事項を説明します。
主な記載事項 | 記載内容 |
---|---|
委託業務 | 委託業務の内容(詳細に記載) |
委託期間 | 業務委託の契約期間 |
自動更新の有無 | 委託料とその支払 |
業務を委託する際の委託料(金額) | 成功報酬を定める場合は、算定方式 |
秘密保持 | 業務委託の過程で開示された情報の秘密保持 |
契約解除 | 委託者・受託者に契約違反があった場合の契約の解除 |
委託業務
委託業務の内容を詳細に記載します。業務内容を明確にすることで、委託者と受託者による業務内容の認識にずれが生じる可能性を低くすることができます。
責任の帰属
明記するべき責任の帰属があれば記載します。
善管注意義務
善管注意義務とは、「善良なる管理者の注意義務」という意味で、一般的な人に対して求められる通常の注意義務のことです。委任・準委任契約の場合には記載します。
本契約の前提
本業務委託契約に前提条件がある場合は記載します。業務遂行に必要な手続きや資格がある場合はここで明記しましょう。
委託期間
業務委託の契約期間と、自動更新の有無について記載します。
立替金の精算と購入者誓約書の授受
業務を遂行するにあたり立替金が生じる場合は、その清算方法を明記します。販売委託のように購入者誓約書などを受託者が所持する場合は、委託者に引き渡すということも記載が必要です。
委託料とその支払
業務を委託する際の委託料(金額)を記載します。成功報酬を定める場合は、算定方式も明記します。また、どのようなサイクルでどう支払うかも明示しましょう。
秘密保持
業務委託の過程で開示された情報の秘密保持の方法について記載します。
契約解除
委託者・受託者に契約違反があった場合、ただちに契約の解除ができるように記載します。
協議
業務委託契約書に記載のない事柄が発生した場合の方法として協議することを明記します。
業務委託契約書作成時の注意点
業務委託契約書作成時にはいくつかの注意点があります。ここでは、特に業務委託をする側(委託者)が注意すべきことを解説しますので、契約書を作成する際は、これらの注意点を確認しましょう。
委託業務の内容
委託業務の内容は、可能な限り詳細に記載することで、後々のトラブルを防止できます。例えば、ITシステムの保守業務委託契約では以下の内容を盛り込むことで、委託範囲が明確になります。
- 保守業務の対応時間(平日のみ、24時間対応など)
- 委託業務は不具合発生時の原因調査だけか、不具合の修正や復旧も含まれるのか
- セキュリティパッチの更新などのシステムメンテナンスも含まれるのか
毎月定額型のコンサルティングなど、委託者から見て受託者の作業が見えにくいことも少なくありません。
その場合は、定期的なレポート提出やミーティングなど、作業確認方法を記載しましょう。契約書に作業確認することを盛り込むことで、定期的に作業内容が確認できるばかりでなく、こちらからの要望も出しやすくなります。
再委託に関する規定
再委託とは、委託した仕事を受託者がさらに別の人に委託することです。再委託によって、その業務により適した人材が見つかり、仕事が進むというメリットはあります。
ただ、実際に仕事をする人に対して委託者の意図が伝わりにくくなり、業務の質が低下するデメリットもあるため、再委託に関する規定は検討が必要です。
自由な再委託は避け、一部の業務のみ再委託可能にするかどうか、どこまで再委託を認めるのかなど、業務をスムーズに進めるための落としどころを検討しましょう。
業務担当者に関する規定
誰を業務担当者にするのかを規定することで、業務の質が安定します。経験年数や保有資格を指定するのもひとつの方法です。具体的に誰を担当者にするか指名することで、効率が上がる場合もあるでしょう。
報酬の支払時期
毎月定額型や成功報酬型の場合、業務委託契約書に記載する報酬額と支払時期について、あまり迷う部分はありません。
報酬の支払時期について注意したいのは、単発業務型の場合です。単発業務型の場合は、業務完了時に検査を実施し、検査合格後に支払いをすることで業務の質が担保できます。
また、単発業務型でも業務が長期間続く場合には、分割での支払いも検討しなければなりません。その場合、毎月分割して定期的に支払うよりも、工程ごとに区切りを設けて区切りごとに支払うようにしておくと、工程遅延が起こっている場合に支払わなくて済みます。
禁止事項
特に成功報酬型の業務委託契約の場合、不正に報酬を獲得しようとする動きもあるため、禁止事項を明記しておく必要があります。誇大広告や執拗な勧誘など、考えられる不正行為を禁止する旨を明記しましょう。
解約
受託者のレベルによっては、業務が要求レベルに満たない場合があります。そのようなケースでも、受託者を解約すると損害賠償の義務が発生するので要注意です。
そのため受託者を解約しても、委託者は受託者に対して解約による損害を賠償する義務を負わないことを明記することも重要となります。
損害賠償
受託者の契約違反によって、委託者から損害賠償請求をするケースもあり得ます。その場合の損害賠償について、受託者が有利になるような制限がついていないかもチェックしましょう。
損害賠償額に上限が設けられている場合や逸失利益を含まないなどの条件がある場合は要注意です。
業務委託契約書の基本を知って作成できるようにしよう
業務委託契約書は、仕事をしていれば目にすることの多い契約書のひとつです。業務委託契約書の記載内容を把握し、確認するべき注意点を知ることで、自分でも契約書を作れるようになります。
今はまだ作成したことがないという人も、業務委託契約書の基礎知識を持ち、読めるようにしておきましょう。