棋聖と王位のタイトルを獲得し、棋戦優勝も2回果たすなど大活躍だった藤井二冠。その戦いを「数字」で振り返る
本日は2020年度最終日。今年度もいろいろなことが起きた将棋界ですが、一番のニュースは藤井聡太二冠が初戴冠を果たしたということでしょう。
2020年度、棋聖と王位の2タイトルを獲得した上に、朝日杯と銀河戦という2つの一般棋戦で優勝した藤井聡太二冠。前回は藤井二冠の衝撃的な「指し手」にフォーカスして、その活躍を振り返りました。今回は残した数字に焦点を当てていきます。
【勝率】
2020年度の藤井二冠の勝率は、44勝8敗で8割4分6厘でした。今年度が始まる前の通算成績は169勝32敗で勝率8割4分1厘ですから、タイトル戦やリーグ戦など、大舞台での対局が増えたにも関わらず、成績をさらに向上させていることになります。
今年度の成績も加えた、藤井二冠のデビューからの通算成績は213勝40敗、勝率8割4分2厘。現役棋士で勝率が7割を超えているのは、永瀬拓矢王座(0.715)、羽生善治九段(0.702)、大橋貴洸六段(0.725)、服部慎一郎四段(0.718)、伊藤匠四段(0.700)の5人のみ(2021年3月31日時点。日本将棋連盟ホームページによる)。その中でただ一人8割を優に超える成績を残す藤井二冠の凄さが際立ちます。
次に今年度の先後別成績を見てみましょう。藤井二冠が先手成績は24勝6敗で勝率8割ちょうど。後手成績はなんと20勝2敗で勝率9割0分9厘です。
例年、公式戦全体では先手勝率は5割を少し超えます。過去に後手勝率が先手勝率を上回ったのは、日本将棋連盟が統計を取り始めて以降では2008年度の1年だけ。つまり少し先手が有利というデータが残っているのです。その中で9割という成績ははっきり言って異常です。敗れたのは、王将戦挑決リーグの豊島将之竜王戦と、NHK杯本戦の木村一基九段戦の2局のみでした。
2019年度以前の藤井二冠の先後勝率は、先手が8割8分5厘、後手が8割0分7厘。あまりにも高い水準ではありますが、後手番で若干苦戦していました。今年度はたまたま偏ったのか、それとも後手番の苦手(?)を克服したのかは来年度以降判明するでしょう。
【戦型選択】
居飛車党の藤井二冠は、矢倉・角換わり・相掛かりをまんべんなく指しこなします。2020年度の戦型選択と採用時の戦績は以下の通りでした。なお、戦型分類は分かりやすくするために、雁木を矢倉に含むなど、ざっくりとした分類です。
矢倉:13局(13勝0敗)
角換わり:13局(10勝3敗)
対振り飛車:11局(10勝1敗)
横歩取り:9局(6勝3敗)
相掛かり:7局(6勝1敗)
なんと藤井二冠は矢倉系統の将棋で今年度一度も負けていませんでした。今年度に入るまでは、矢倉よりも角換わりの採用が多かった藤井二冠。渡辺明棋聖との第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負では4局中3局が矢倉になるなど、この辺りから矢倉の採用が増えてきました。
対振り飛車でも11局指して負けたのは1度のみ。永瀬拓矢王座が王将戦挑決リーグで意表の四間飛車を採用した対局での敗戦でした。藤井二冠と対戦する振り飛車党は、これからも非常に苦しい戦いを強いられそうです。
最も成績が悪かったのは横歩取り。それでも勝率は6割6分7厘です。また、今年度後半は横歩取り系統の将棋で5連勝中。「▲4一銀」が飛び出した、年度最終局の対松尾歩八段戦も横歩取りでした。
おそらく来年度も藤井二冠の戦型選択は変わることはないと思われます。居飛車の将棋を幅広く採用することでしょう。
藤井二冠は来年度も変わらずに高い勝率をあらゆる戦型で残し続けるのでしょうか。また、将棋ファンをあっと言わせる妙手を繰り出してくれるのでしょうか。わくわくが止まりません。