BPO放送人権委員会は30日、フジテレビのリアリティ番組『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』の出演者だったプロレスラー・木村花さんが亡くなったことについて、身体的・精神的な健康状態に関する配慮が欠けていたとして、「放送倫理上の問題があった」とする判断を通知した。
一方、最大の争点だった「過剰に煽(あお)る編集」「誓約書兼同意書による意思決定の剥奪」については、放送倫理上の問題はなかったとしている。
■“怒りの場面”は「相当程度には真意が表現されたもの」
今回の審理は、木村さんの母親側が「娘は番組で狂暴な女性のように描かれたことによって、『番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた』ことによる人格権の侵害と、『全ての演出指示に従うなど言動を制限する』等の条項を含む『誓約書兼同意書』による支配関係のもと自己決定権が侵害されたとして、娘に対する人権侵害があった」と訴えたもの。
具体的に、撮影前の打ち合わせで、より積極的にカメラの前で怒りの感情を爆発させるように指示があったとしているが、BPOは「事実関係が確定できない」、さらに「怒りの場面は、少なくとも相当程度には真意が表現されたものと理解できる」とし、放送倫理上の問題はないとした。
また、スタジオトークや副音声でのタレントのコメントが視聴者への“煽り”になったという考え方に対しては、「(タレントのコメントは)怒りの対象となったA氏にも責任があるなどとして、木村氏の怒りに理解も示されており、一方的に木村氏を批判する“煽り”とは言えない」として、こちらも問題は認められないとしている。
そして、「誓約書兼同意書」については、「若者であるとはいえ成人である出演者が自由意思で応募して出演している番組制作の過程で、制作スタッフからなされた指示が違法性を帯びることは、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような例外的な場合である」とした上で、今回については「制作スタッフからの強い影響力が及んでいたことは想像に難くない」としたものの、上記の例外的な場合に該当せず「自己決定権等の侵害は認められない」と判断された。
「放送倫理上の問題があった」とする、木村さんの身体的・精神的な健康状態に関する配慮が欠けていたとされることについても、フジテレビが木村さんの自傷行為後に一定のケア対応をしたこと、また放送を行う前にも「一定の慎重さをもって判断がなされた」ため、「漫然と本件放送を決定したものとは言えない」として、「人権侵害があったとまでは断定できない」という判断になった。
BPO放送人権委員会の決定は、重い順に「人権侵害/放送倫理上重大な問題あり」「放送倫理上問題あり」「要望」「問題なし」と段階が分かれており、今回は上から2番目の判断ということになる。
■委員の中には「許容限度を相当に超えている」「配慮不足」の意見も
ただ委員の中には、この決定の結論とは異なる意見が出ており、それは署名で報告書に明記されている。
写真家・ジャーナリストの國森康弘氏は「一人の生身の人間にのしかかる精神的苦痛として許容限度を相当に超えていると考えられ、やはり、木村氏の人権を侵害するに至ったものと判断した」、弁護士の二関辰郎氏は「木村氏の精神状態に対するフジテレビの配慮不足は看過できず、多数意見の判断よりも重い『放送倫理上重大な問題あり』とするのが妥当と考える」と意見表明した。
そして、委員会決定では最後に「リアリティ番組の制作・放送を行うに当たっての体制の問題を、課題として指摘せざるを得ない。本決定を真摯(しんし)に受け止めた上で、フジテレビが木村氏の死去後に自ら定める対策を着実に実施し、その効果の不断の検証を踏まえて改善を続けるなどして再発防止に努めるとともに、本決定の主旨を放送するよう要望する」と提言。
その上で、「同時に、放送界全体が本件及び本決定から教訓を汲み取り、木村花氏に起こったような悲劇が二度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めるよう期待する」と結んだ。