「小規模企業共済」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。小規模企業共済は、国の機関である「独立行政法人中小企業基盤整備機構」(以下、中小機構)が運営する、小規模事業の経営者や個人事業主のための退職金制度です。経営者個人が積み立てる掛金全額が所得税の対象外となるので高い節税効果があります。
年末調整や確定申告で毎年の積立額を申告すると「小規模企業共済等掛金控除」として課税所得から差し引かれます。掛金の上限である「7万円/月」の場合は、年間84万円が所得税の対象外となります。
今回は、年末調整や確定申告で所得控除を受けるために払込金額の証明として発行される「小規模企業共済掛金払込証明書」と証明書を紛失した場合の再発行手続きについて解説します。
小規模企業共済掛金払込証明書とは
年末調整や確定申告で小規模企業共済の掛金の払込額を証明するため、毎年「小規模企業共済掛金払込証明書」が発行されます。小規模企業共済掛金払込証明書は複数の種類があり、それぞれ発行元により多少記載内容が異なりますが、いずれにも掛金月額と払込月数は記載されています。
年末調整の際には、保険料控除で使用する「令和2年給与所得者の保険料控除申告書」を用いて申告します。
申告書右下に「小規模企業共済等掛金控除」欄が設けられているので、下記4つの欄に年間の掛金合計額を記入します。複数の項目に該当する場合は、それぞれ分けて記入し合計額を計算し記入しましょう。
- 「独立行政法人中小企業基盤整備機構の共済契約の掛金」
- 「確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金」
- 「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」
- 「心身障害者扶養共済制度に関する契約の掛金」
小規模企業共済掛金払込証明書は、発行元の押印があるハガキ部分を切り取って年末調整や確定申告時に提出します。
小規模企業共済掛金払込証明書が必要な人
小規模企業共済掛金払込証明書で所得控除が受けられるのは、下記の3制度です。
(1)小規模企業共済制度の掛金
(2)確定拠出年金制度の掛金
(3)心身障害者扶養共済制度(以下、しょうがい共済)の掛金
(2)の確定拠出年金は「個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)」加入者も「企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)」加入者も対象となります。加入条件により年間拠出限度額が異なりますが、積み立てた掛金全額が控除となります。
(3)の「しょうがい共済」は、障害のある方を扶養している保護者(父母・配偶者・兄弟姉妹・祖父母・その他の親族など)である加入者が生存中に毎月一定の掛金を納めることにより、保護者に「万一のこと(死亡・重度障害)」があったとき、障害のある方に終身一定額の年金を支給する制度です。
運営するのは(独)福祉医療機構で、都道府県・指定都市が実施しています。掛金の金額は、保護者である加入者の4月1日時点の年齢によって異なります。
小規模企業共済掛金払込証明書が届く時期
小規模企業共済掛金払込証明書は、毎年11月頃に登録された住所へ圧着ハガキの形状で届きます。小規模企業共済の場合は、2020年度は11月12日~11月27日に届いています。
この小規模企業共済掛金払込証明書には掛金の月額しか記載されていないので、年内の掛金合計額を計算して記入します。手続き上は、10月~12月の掛金の引き落としがわかる通帳の写しを添付して申請することになっています。ただし、企業では12月の給与支払い時に年末調整することが一般的で、12月の口座引き落とし後では年末調整の手続きが間に合わないので、通帳の写しの提出を求められることはないようです。
10月以降に「現金あり」で加入した方、8月以降に「現金なし」で加入し、同年10月までに口座振替された方の小規模企業共済掛金払込証明書は、翌年2月に発行されます。年末調整には間に合わないので確定申告で申請します。
2021年は2月12日以降に送られています。2月に発行される小規模企業共済掛金払込証明書には、前年10月~12月に払い込んだ掛金合計額が記載されているので、その金額を確定申告書に記入します。
「iDeCo」「企業型DC」加入者は、加入の金融機関ではなく国民年金基金連合会から小規模企業共済掛金払込証明書が届きます。9月までの引き落としは10月末から11月初旬に証明書が届きます。10月以降から引き落としの場合は翌年1月下旬に届きます。年末調整に間に合わないので、確定申告で申請します。「しょうがい共済」の場合は、(独)福祉医療機構から発行されます。
小規模企業共済掛金払込証明書を紛失したときの再発行方法
小規模企業共済掛金払込証明書を紛失した場合は再発行を依頼できます。
小規模企業共済ならば、中小機構の「小規模企業共済」のHP上の専用フォームに直接記入するか電話(自動音声ガイダンス)から、小規模企業共済掛金払込証明書の再発行を申請できます。再発行と郵送の費用はかかりません。
「iDeCo」「企業型DC」の場合は加入している金融機関に、「しょうがい共済」の場合は(独)福祉医療機構に依頼します。
小規模企業共済を使ってリスクなく資金準備と節税効果を
小規模企業共済は、国が全額出資し中小機構が運営する40年以上の実績がある制度です。中小機構のHPによれば、2020年3月時点で約150万人の個人事業主や小規模企業の役員、共同経営者が加入しています。共済金の受給額平均は1,000万円強、受給者の平均在籍年数は19年です。
加入手続きを一度すれば、掛金の増減も簡単にできます。節税効果を得るための手続きは、年末調整か確定申告で小規模企業共済掛金払込証明書の数字を記入するだけ。リスクなく経営者の退職後の資金準備と個人の収入の継続的な節税ができる制度、一度検討してみましょう。