近年、地球温暖化をはじめとする環境問題への課題意識が高まり、世界各国で対策が講じられています。そんな中、資産運用の世界でも環境や社会に優しい取り組みを行う企業の可能性に注目が集まり、徐々に存在感が大きくなっています。
今回は株式投資におけるESGやSDGsについて見ていきます。
ESG、SDGs銘柄とは?
まずはESG、SDGsの意味、そして投資との関係性について簡単に見ていきましょう。
ESG
ESGはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)からなるもので、この3つの観点から社会を持続可能にしていこうという取り組みになっています。
そして、これらの非財務情報からなる要素を基に投資することをESG投資と呼びます。
ESG投資は、環境面では脱炭素など地球温暖化対策、社会面では企業の女性活躍推進、ガバナンス面ではコーポレートガバナンスの強化などに積極的に取り組んでいる企業への投資を指します。
日本の年金運用を担うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もESG投資を行っています。
SDGs
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、2015年9月の国連サミットで加盟193カ国の全会一致で採択された17のゴール・169のターゲットから構成される指針です。
SDGsの目標を取り入れて経営を行うことが付加価値の創造にもつながるという意見もあり、投資の世界でもこれらの企業へ投資していくことの意義が認識されつつあります。
ESGとSDGsは異なる概念ではありますが、社会問題に取り組むことで中長期的に持続可能な社会を作っていくという点で共通しており、投資の観点でも社会問題解決に取り組んだ結果として長期的なリターンの拡大が期待されています。
昨今では、バイデン新政権の発足により、米国が2月にパリ協定※へと復帰。予定されている大規模な財政出動の中でも気候変動への投資を積極化すると打ち出しています。
日本でも首相が2050年に温室効果ガスの排出をゼロにすると表明しており、ここにきて世界的に環境問題への意識が高まっているのです。
※京都議定書に代わる2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み
個別銘柄でも"脱炭素"に注目が集まる
世界的な環境意識の高まりや、米国を中心とする大規模な財政期待などから投資の世界でもESGにかかわる企業に資金が流入しています。
特にEV(電気自動車)を生産するテスラ(TSLA)は2020年初頭には100ドル以下だった株価が2021年1月には800ドルを超える上昇を見せ、時価総額は世界最大の販売を誇るトヨタ自動車をはるかに上回る80兆円まで膨らみました。
このように銘柄選びにもESGは影響を与えつつあり、3月19日に発売された会社四季報でも脱炭素、あるいはESGといったキーワードが散見され、今後のテーマとして期待できる機運が高まりつつあります。今回は中でも自動車関連と総合商社から2銘柄を取り上げます。
デンソー
自動車業界は温室効果ガス排出の元凶としてやり玉にあがることが多く、EVの普及など早急な新技術の投入が期待される分野です。
中でも、自動車部品で世界2位のシェアを誇り、国の目標よりかなり早い2035年までに事業活動からのCO2排出を実質的にゼロにする目標を掲げる『デンソー』(6902)は注目と言えます。
短期的には自動車市況の回復による生産増、中長期的には自動車の電動化関連の筆頭としての注目も集まり、株価も急上昇しています。
伊藤忠商事
総合商社も変革している業種の一つです。商社と言えばエネルギー権益を多く持ち、市況によって業績も左右するイメージがありますが、近年脱炭素への動きも強まっています。 その筆頭が『伊藤忠商事』(8001)です。各社資源分野の事業のウエイトを多く持つ中で伊藤忠商事は繊維や食料など非資源分野への進出をいち早く行い、市況に左右されない事業体質を強めてきました。
2021年度中には南米石炭権益を売却する方針を打ち出しており、脱炭素を加速させる姿勢を見せています。またアメリカの著名投資家、ウォーレン・バフェットが総合商社への投資を発表していることもあり、株価の面でも追い風が続いています。
投資信託でもESG投信が躍進
投資のプロフェッショナルによって運用される投資信託でもESGのテーマは広がりつつあります。
日本で目を引くのはアセットマネジメントOneが展開する『グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)』(通称:未来の世界(ESG))です。
2020年7月夏の設定以来大きく資産を集め、純資産額で1兆円を超えています。日本で扱っている投資信託では現在トップの資産額を誇ります。
こちらの投資信託は米国株を主な投資対象としていますが、日本株に投資をするESGファンドもいくつか出てきています。
例えば、トヨタ自動車やダイキン工業などCO2削減等で環境への貢献が見られる企業、キーエンスやソニーなど社会的課題に挑戦しているいわゆるESG経営を行う企業が投資対象となっています。
このように、現時点では世界へ投資する投信が主流であるものの、日本を投資対象とした動きも広がりつつあります。
中長期的な視点で将来に期待
ESGやSDGsを意識した投資は、社会が良くなる取り組みをしている企業を応援できるだけでなく、その成果が認められた企業が成長することで利益を享受することができます。
持続可能な社会への実現を応援しながら、金銭的メリットも得るという一石二鳥な投資なのです。
企業のファンダメンタルズからいかに成長性があるかといった観点にも目を向けつつ、どれだけ社会に貢献しているかという観点から企業を探してみてはいかがでしょうか。
Finatextグループ アナリスト 菅原良介
1997年生まれ、Z世代のアナリスト。早稲田大学 政治経済学部 経済学科に在学中は「株式投資サークルForward」の代表を務め、大学生対抗IRプレゼンコンテストで準優勝を獲得。2年間の長期インターンを経て、2020年Finatextに入社。現在はFinatextグループで展開される投資・証券サービスのディレクターを担当。コミュニティ型株取引アプリSTREAM内で開催されるイベントのモデレーターも務める。