小田急線海老名駅隣接地に建設され、4月19日に開業予定の「ロマンスカーミュージアム」。開業に先立ち、3月26日に竣工お披露目会が行われた。館内では小田急線開業当時の車両モハ1形とともに、歴代のロマンスカー5車種が展示されている。

  • 「ロマンスカーミュージアム」の1階「ロマンスカーギャラリー」に歴代のロマンスカー5車種が展示されている

「ロマンスカーミュージアム」は小田急線開業以来、初の屋内常設展示施設とされ、コンセプトは「“子ども”も“大人”も楽しめる鉄道ミュージアム」。小田急電鉄はこれまで、退役車両を喜多見・海老名に保存し、ファミリー鉄道展などの場で一般公開してきたが、歴史的価値のある車両を常時見学できる施設は利用者に喜ばれるとともに、地域とのコミュニケーション基盤の創出にもつながるため、2011年から検討を開始したという。

小田急電鉄は1948(昭和23)年に分離独立した後、新宿~小田原間ノンストップの週末特急を運転開始した頃から、「新宿~小田原を60分で結ぶ」という将来目標を立て、高性能車両の開発を進めてきた。1957(昭和32)年、新幹線の開発モデルにもなったSE(3000形)が就役したことで、ロマンスカーの人気は根強いものに。「ロマンスカーミュージアム」では、歴代車両の中からSE(3000形)3両、NSE(3100形)3両、LSE(7000形)1両、HiSE(10000形)1両、RSE(20000形)2両、計5車種10両を1階「ロマンスカーギャラリー」に展示している。

SE(3000形)は軽量低重心、連接構造の車体に、バーミリオンオレンジを基調とした美しい色彩で人気を博した。就役した1957(昭和32)年に行われた高速試験では、当時の狭軌鉄道世界最高速度145km/hを達成。鉄道産業に大きな足跡を残し、1958(昭和33)年から始まった鉄道友の会ブルーリボン賞の第1回受賞車両となった。後に大規模な改造を経て、御殿場線へ直通する「あさぎり」で活躍し、1992(平成4)年に引退。「ロマンスカーミュージアム」に展示された3両のうち、小田原方の先頭車は「あさぎり」で活躍した頃の姿、新宿方の先頭車は登場当時の塗装・形態に復元された姿となっている。

1963(昭和38)年に就役したNSE(3100形)は、ロマンスカーで初めて運転席を2階に配置し、最前部を開放的な展望席として、「ロマンスカー=展望席」のイメージを確立させた車両。台車に空気ばねを採用し、快適な乗り心地で、長きにわたりロマンスカーの主力として箱根・江の島方面の観光輸送を担った。通勤の足としても活躍し、現代の着席通勤特急の先駆けにもなった。1984(昭和59)年以降の更新工事で、ヘッドマークの形状・表示方式が変更されたが、「ロマンスカーミュージアム」に展示されたNSE(3100形)の新宿方先頭車は更新前の形状で、「えのしま」のヘッドマークを掲出している。小田原方先頭車のヘッドマークは「さようなら 3100形(NSE)」となった。

1980(昭和55)年に就役したLSE(7000形)は、NSE(3100形)で人気だった展望席を継承しつつ、より洗練されたデザインに。ヘッドライトと愛称表示を車体に埋め込むなどにより、直線的でスピード感のあるフォルムとなった。車両性能も格段に向上し、箱根湯本駅へ向かう際の急勾配も力強く上れたという。「ロマンスカーミュージアム」では先頭車1両を展示し、「はこね」のヘッドマークを掲出。なお、展示された5車種のうち、LSE(7000形)のみ車内への立入り不可とされている。

  • 写真左からSE(3000形)、NSE(3100形)、LSE(7000形)

LSE(7000形)に関して、2階「ロマンスカーアカデミア II」に設置されたロマンスカーシミュレーター“LSE(7000形)”も注目に値する。実際に使用した運転台を再活用し、運転操作機器もそのまま活用した本格仕様で運転体験が可能。引退前のLSE(7000形)が走行した際、実際の運転席から撮影したという実写映像も一見の価値がある。

1987(昭和62)年に就役したHiSE(10000形)は、ワインレッドを基調とした色彩と、床を高くしたハイデッカー構造の車体が特徴。展望席や連接構造、運転制御などの車両技術も成熟し、完成度の高い車両として運転士からも絶大な信頼があったという。2012(平成24)年に小田急電鉄での営業運転を終えたが、一部編成が長野電鉄に譲渡され、特急「ゆけむり」として現在も活躍中。「ロマンスカーミュージアム」では先頭車1両を展示し、車内に入ることもできる。車体側面の愛称表示は「スーパーはこね」となっていた。連接台車も残され、間近に見学することが可能となっている。

ロマンスカーの中でも異色の車両と言えるRSE(20000形)は、JR御殿場線へ直通する特急「あさぎり」の車両として、1991(平成3)年に就役。JR東海の特急形電車371系とともに2012(平成24)年まで活躍した。ロマンスカーの象徴ともいえた2階の運転席や連接構造などは採用されなかったが、RSE(20000形)では2階建て車両を連結し、先頭車はハイデッカー構造に加え、車体前面の窓を大型化することで、運転席後方の座席からも前面展望を楽しめるように考慮されていた。

RSE(20000形)は小田急電鉄での営業運転を終えた後、2階建て車両を除く一部車両が富士急行へ譲渡され、改造とデザイン変更を経て「フジサン特急」となった(現在は運休)。「ロマンスカーミュージアム」では、先頭車と2階建て車両(4号車)の2両を展示し、先頭車は車内への立入りも可能。2階建て車両は連結部側の通路のみ入ることができ、横3列(1列+2列)のシートが並ぶ2階席を見学できる。車内にはグリーン車のマークも。2階建て車両の1階はセミコンパートメントとなっており、窓越しに中の様子を見ることができた。

「ロマンスカーミュージアム」では、他に小田急線開業当時の車両モハ1形を1階「ヒストリーシアター」に展示している。小田急電鉄の前身である小田原急行鉄道の開業時に製造され、台車など多くの部品が大正時代に製造されたものだという。「ヒストリーシアター」では、このモハ1形とともに、小田急のはじまりと歴史、時代を駆け抜けたロマンスカーの誕生と進化の軌跡をたどるショートムービーが放映される。

これらの展示車両に加え、「ジオラマパーク」「キッズロマンスカーパーク」といった大人からこどもまで楽しめるコンテンツを用意し、ミュージアムショップ「TRAIN(トレインズ)」、カフェ「ROMANCECAR MUSEUM CLUBHOUSE」を併設。屋上の「ステーションビューテラス」にて、海老名駅や海老名電車基地を行き交う列車も眺められる。

  • 「ロマンスカーミュージアム」の初代館長に就任した高橋孝夫氏が挨拶

「ロマンスカーミュージアム」の企画・デザイン監修・運営は小田急グループのUDSが担当。初代館長に就任した高橋孝夫氏は、小田急電鉄に入社した後、運転士としてロマンスカーにも乗務し、展示された5車種すべて運転経験があるとのこと。竣工お披露目会にて挨拶した高橋館長は、「運転士時代、多くのお客様が安心してご乗車いただけるように、安全運行に努力してきました。これからはロマンスカーミュージアムを通じ、お客様の笑顔・感動、そして地域の皆様とも連携し、楽しい未来をつくっていきたい」と述べた。

あわせて高橋館長は、「感染症対策もしっかり行い、開業後は完全予約制で人員制限を行いますが、今後の状況も見ながら、お客様の来館の拡大も考えています」ともコメントした。「ロマンスカーミュージアム」は4月19日の開業に向け、4月1日12時から同施設のウェブサイトで予約受付を開始する予定となっている。

  • LSE(7000形)、NSE(3100形)、SE(3000形)の外観・車内

  • HiSE(10000形)の外観・車内。連接台車も間近に見られる

  • RSE(20000形)の外観・車内。2階建て車両のセミコンパートメントも窓越しに見ることができる

  • 1階「ヒストリーシアター」に展示された小田急線開業当時の車両モハ1形

  • 2階「ロマンスカーアカデミア II」では、LSE(7000形)の運転台を再活用した電車運転シミュレーターを設置している