フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、料理経験のない18歳の青年が北海道から初めて上京し、丸の内の有名レストランで働く姿に密着した『新・上京物語 前編 ~煙突とスカイツリーと僕の夢~/後編 ~夢と別れのスカイツリー~』(3月28日・4月4日放送)。2009年にスタートし、上京した若者たちの奮闘を追ったこの『上京物語』シリーズは、今回で15回目の放送となり、95年から続く『ザ・ノンフィクション』の中でも最多回数を誇っている。
その人気の理由や、若者たちを見続けてきた印象などについて、同シリーズの立ち上げから12年にわたり携わってきたラダックの森山智亘プロデューサーに、話を聞いた――。
■サブストーリーが描ける人を探して密着
毎回、様々な夢や希望を胸に上京してくる若者たちが登場する『上京物語』シリーズだが、「単純に、上京して職場でいろいろ苦難があって、それを乗り越えていくというだけでは毎年同じ話になってしまうので、そこに家族だったり恋人だったり、別の角度から関係してくる人たちとのサブストーリーが描ける人を探して密着しています」という森山P。
「『夢がゆれる18歳』(2010年)では、鉄筋工になる目的で秋田から上京してくる男の子が、その裏で本当はモデルになりたいという夢を持っていたんです。翌年の『すれ違う親子』も、舞台女優を目指す女の子が、お母さんとちょっと問題を抱えていたり。『「青い鳥」はどこにいる』(13年)は、パティシエを目指す子が彼氏を故郷に置いて遠距離恋愛になるんですけど、仕事に夢中になって心の距離も空いてしまい、彼氏と仕事のどっちを取るか…という選択の瞬間も描きました」
今回の場合は、両親が離婚し、引き取った父とも死別した主人公・一摩(かずま)さんと、幼い頃から育ててくれた祖父母(じっじ&ばっば)、中でも肺がんで余命宣告を受けた祖父との物語が、それに当たる。
取材対象を決めて密着を進めた後に、放送が成立しないということはなかったそう。「上京というタイミングだからこそ、気持ちの揺れ動く瞬間が出るんです」と、どの人たちにもドラマがあるテーマなのだ。
言ってみれば“他人の人生の話”であるにもかかわらず、これだけの人気シリーズになるほど人々を引きつける要因は「東京って実はほとんどが地方出身者なので、自分に置き換えやすいストーリーだというのが前提にあると思います」と分析。置き換えやすいのは、上京する本人だけでなく、送り出す家族、迎え入れる新たな仲間たちにも当てはまるだろう。
■情報化社会も変わらぬ“東京への憧れ”
これまで何人もの上京を見てきた森山Pだが、共通するのは「東京に旅立つ本人は、そこまで後ろ髪を引かれるということがないんです。感情が揺れるのはむしろ見送るほうなので、撮影するときは当然上京する人にカメラを向けながら、実はその奥で見送る人たちを狙っているんです」とのこと。
また、12年の間にIT技術が大きく進化し、日本のどこにいても東京の情報が入りやすくなったにもかかわらず、「東京に対する憧れというのは、変わらないんです」とも。「東京へ期待するものとか、プライベートも仕事も含めて、ネットでこれだけ情報を仕入れることができる時代なのに、令和になっても意外に変わらないんだと思いました」と、リアルな距離はやはり大きいようだ。
今回の主人公である一摩さんにとっては、番組タイトルにもなっている「東京スカイツリー」が、憧れの東京を象徴する大きな存在になっている。