自動運転レベル3の機能を持つホンダ「レジェンド」が発売となった。高速道路で渋滞に出くわしたとき、条件がそろえばかなりの程度まで運転をクルマに任せておけるのが特徴で、実際に体験してみると、同技術はかなり便利なものだとわかった。
ただ、同機能を持つレジェンドの車両価格は1,100万円、販売台数は100台限定、販売方法は3年間のリースのみということなので、ほとんどの人は同機能を試してみることはおろか、このクルマと出会うことすらできないはず。では、新型レジェンドと自動運転レベル3はホンダの自己満足、あるいは限られた人たちのためのぜいたく品なのかというと、そんなこともないようだ。今回の取り組みは、軽自動車を含むほぼ全てのホンダ車に恩恵をもたらす可能性がある。
普及してこそ役に立つのでは?
ホンダはフラッグシップセダン「レジェンド」に自動運転レベル3の機能を持つ「Honda SENSING Elite」(ホンダ センシング エリート)を搭載して発売した。
新型レジェンドでは、高速道路や自動車専用道を走行中、「渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール」(ACC)と「車線維持支援システム」(LKAS)を作動させている状態で一定の条件を満たすと、ハンズオフでの走行が可能になる。ハンズオフで走っているときに渋滞に遭遇すると、時速50キロ以下など一定の条件を満たしていれば、「トラジックジャムパイロット」(渋滞運転機能)が発動。この状態に入ると、ドライバーはシステムに運転を任せて、ナビ画面で動画を見たり、目的地の設定を行ったりできるようになる。これが自動運転レベル3に相当する機能だ。
レジェンドは3次元高精度地図の情報を使いつつ、車体に満載したセンサーやカメラなどで周辺状況を確認しながら、ほとんど自動で高速道路を走ってくれる。前にクルマがいれば車間距離を保って追従、いなければ設定速度で走ってくれるし、カーブに差し掛かればしっかりと車線の真ん中あたりをキープしながら駆け抜けてくれるので、ハンズオフの際も、その先の「渋滞運転機能」作動時も、乗っていて全く不安がなかった。運転席にいながらナビ画面で動画を見ているのは不思議な感覚だったが、それにもすぐに慣れてしまう。もちろん、運転を代わるようクルマ側から要請が入るときに備えて、いつでも運転できる状態でいる必要はあるものの、感覚としては完全に自動運転状態なので、とても楽だった。
現状でも渋滞時には便利だし、時速100キロくらいでも使えるようなればさらに利便性が高まりそうな「渋滞運転機能」だが、現時点で恩恵を受けられるのは新型レジェンドを購入する最大100人(と、その親類縁者?)のみ。せっかくの技術だが、普及しなければ意味がないような気もする。普及のカギはコスト削減、つまり、同機能を搭載するクルマが安く買えるようになることだが、それには「ホンダ センシング エリート」の「量産」と「機能の簡易化」が必要だというから、すぐにというわけにもいかないのだろう。
「ただ、技術を普及させる方法は、自動運転レベル3の機能を他機種に展開することだけとは限りません」。技術の普及に向けた方策を尋ねると、ホンダ技術研究所 先進技術研究所の加納忠彦チーフエンジニアは別の視点を示してくれた。
そもそもホンダが「渋滞運転機能」を含む先進安全技術「ホンダ センシング エリート」を開発するのは、事故を減らすため。高速道路で発生する事故の多くがヒューマンエラーに起因していることに問題意識を持ち、その削減のために同技術の実現にトライしたのだ。「ホンダ センシング エリート」の開発と新型レジェンドの発売により得られた知見をホンダ車に展開することで、「マスとして(ホンダのクルマ全体の)安全性を高めていく方向性もある」というのが加納さんの言葉だ。
具体的には、軽自動車を含むホンダの新車の実に95%が装着するという「ホンダ センシング」に、今回の挑戦で得られたノウハウを還元していく考えだ。これにより、例えば「センサーのフュージョン技術や予測技術、周辺のクルマの動きを予測した制御、カットイン(割り込み)に対してブレーキをかけるタイミング、前走車がいなくなったときの加速の仕方」(加納さん)などの面で、ホンダ センシングの能力が向上する可能性があるという。
自動運転レベル3の機能を持つレジェンドは、たった100台しか世の中に出回らない。同機能を搭載する軽自動車「N-BOX」やコンパクトカー「フィット」が発売となる時期は不明だし、そもそも出るのかどうかすら分からない。ただ、ホンダ車のほぼ全てが搭載するホンダ センシングの安全性が高まるのであれば、同社が自動運転レベル3に取り組む意義は大きいといえるはずだ。