メルセデス・ベンツの最上級車種「Sクラス」は、専属の運転手を雇い、後席に乗って移動するのに最適な乗り物だ。映画『パラサイト』でソン・ガンホ(演ずるギテク)が運転するパク家の高級車も、やはり「Sクラス」である。実際のところ、どれほど気分のいい乗り物なのか。今回は車両価格2,000万円超の新型Sクラスで後席に乗り込み、体感してきた。
「Sクラス」はメルセデス・ベンツのフラッグシップモデル。2013年の発表後、世界で累計50万台以上が売れている。「世界で最も選ばれているラグジュアリーセダンのひとつ」(メルセデス・ベンツ日本)である。
8年ぶりにフルモデルチェンジした新型Sクラスは、2021年1月に日本でも発売となった。グレードはガソリンエンジンの「S500」とディーゼルエンジンの「S400」の2種類。ボディは標準サイズと全長の長い「ロング」から選べる。今回はS500のロングに試乗してきた。
試乗車の車両本体価格は1,724万円。そこに「AMGライン」(99.8万円)、「リアコンフォートパッケージ」(125万円)、「ARヘッドアップディスプレイ」(41万円)、「3Dコックピット」(13万円)のオプションが付いて、車両価格の合計は2,000万円を2.8万円ばかり超えていた。リアコンフォートパッケージは後席の快適性を向上させるオプションで、これを装着すると例えば、前席の後ろにモニターが付いていたり、後席のシートポジションを電動で調整できたり、後席のヘッドレストにふかふかのクッションがあったりする。ロングボディに同オプションを装着すると後席左右にSRSエアバッグが付くのだが、これは世界初となるそうだ。
Sクラスの後席を領するビジネスマンにとって、移動時間をいかに休息時間として活用できるかは、生産性の向上のみならず、日本経済の活性化のためにもトッププライオリティの重要事項だといえる。かどうかは知らないが、Sクラスの後席は実際、楽な姿勢をとるための機能が充実している。バックレストは約43.5度のリクライニングが可能で、足元からはフットレストがせり上がってくるのだ。そんなわけなので、乗り込んだらまずは革靴を脱いで、ゆったりと身体をくつろげてみていただきたい。
目の前のモニターでは、シートのランバーサポート(腰を支える部分)やサイドサポート(横から支えてくれる部分)などの具合を好みに合わせて調節できる。シート内部にあるエアチャンバーの空気量を変えることで、細かく調整できるのだそうだ。
モニターをいじっていると「リラクゼーション」なる文言を発見。さっそく操作してみると、背中にぐぐっという圧迫を感じた。マッサージ機能だ。新型Sクラスは「ホットストーン式リラクゼーション機能」を備えていて、もみ方(押し方や押すパターン)もたくさんの種類から選べる。
『パラサイト』では重大すぎる意味を持った「におい」についてだが、Sクラスは「パフュームアトマイザー」を装備しているので心配無用だ。これを使えばアロマを焚いたような心地よい芳香が楽しめる。パク社長も急に窓を開けるのではなく、同機能を使用していれば結果は違っていたのかもしれない。
これらの機能を総動員し、乗員が選んだテーマに基づいた後席を現出させるのが「エナジャイジング コンフォート」なるシステムだ。「リフレッシュ」「プレジャー」「ウェルビーイング」などのテーマから好きなものを選択すれば、それに合わせて各種ヒーター、パフュームアトマイザー、シート設定、照明、音楽などを統合的にコントロールしてくれる。例えばリフレッシュを選ぶと、車内には森林系(?)のさわやかな香りが漂ってきた。これだと運転席までリラックス空間になってしまうかもと少し不安になったのだが、そういった観点からも、専属運転手にはソン・ガンホ(演ずるギテク)のような信頼できる(?)人材を雇っておくべきなのかもしれない。
といったようなわけで、最高のリラックスタイムを楽しむことができた新型Sクラスの後席。では、テレワークにはどうかというと、PCでの作業が多い筆者のような働き方には、あまり向いていないような気がした。というのも、パタッと展開できるテーブルがないからラップトップは文字通り膝に置くしかないし、さすがのSクラスでも多少は揺れるからだ。まあ、専属ドライバーにSクラスを運転してもらえるような立場の人が、クルマの中でPC作業をする必要があるのかどうかは全く分からないのだが……。