日本には、「プレイングマネジャー」が多いと言われています。しかし、「その職務を正しく遂行できている人は少ない」と話す、識学の安藤広大氏。では、どうしたらプレイングマネジャーとして成長、成功できるのでしょうか。

そのコツとポイントについて、著書『リーダーの仮面 「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』(ダイヤモンド社)からのエッセンスを交えながら安藤氏がアドバイスします。

  • プレイングマネジャーが失敗しないためのコツは?

プレイングマネジャーは自身の暇を恐れてはいけない

プレイングマネジャーは、プレーヤーとマネジャーの2つの役割を同時に担う立場ですが、あくまでも「メインの職務はマネジャーである」ということを忘れてはいけないと安藤氏。

「プレイングマネジャーはチームのリーダー。リーダーの一番の責務はチームを勝たせること。なので、たとえプレーヤーとして自分の成績が不甲斐なかったとしても、そこは無視して、躊躇も遠慮もせず、チームをマネジメントしなければなりません。最終的には、自分がまったくプレーしなくてもチームが勝てる状態をつくることが理想なので、いち早くそこを目指すのが重要になります」。

ただ、プレイングマネジャーが往々にして抱いてしまいがちなのが、体を動かさないことへの恐怖。それが、プレイングマネジャーとして失敗してしまう要因だと安藤氏は言います。

「マネジメントの仕事より、プレーヤーの仕事の方が、当然運動量が多い。自分が動くとやっている感は出るし、自身もそう感じやすいのです。プレイングマネジャーも以前はいちプレーヤー。しかも、ある程度の成果を上げてきた人がそのポジションに就いている場合が多い。それゆえ暇になることが恐怖になってしまい、どうしてもプレーヤーの方に時間と労力を割いてしまう。でも、それではプレイングマネジャーとしては職務怠慢に近いのです。

プレイングマネジャーはマネジャー。そのポジションにおけるプレーヤー業務と、いちプレーヤーとしてのそれとは、完全に別物です。自分のプレイング業務は、自分以外のメンバーと横並びで行うものではないと考え、暇を恐れないこと、リーダーとしての仮面をかぶることが大切です」。

  • 書籍『リーダーの仮面 「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』(ダイヤモンド社)著者 安藤広大氏

プレイングマネジャーは部下と適度な距離をとるべし

安藤氏が、組織運営において提唱しているのが、「識学」という意識構造学に基づくメソッドです。それを元に、若手リーダーに向けたマネジメントのノウハウを伝えているのが、著書の『リーダーの仮面 「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』。その中で安藤氏は、リーダーがマネジメント業務を行う上でフォーカスすべきポイントは、「ルール」「位置」「利益」「結果」「成長」の5つだと語っています。

この5つのポイントのうち、プレイングマネジャーが特に意識すべきは「位置」。安藤氏はその理由を次のように話します。

「繰り返しになりますが、プレイングマネジャーはあくまでもマネジャーです。チームのプレーヤーは部下、プレーヤーから見たらマネジャーは上司。この関係性は、その組織において決められたルールなのです。

上司も部下も、一人の人間に戻れば対等です。位置は存在しません。ただ、経営者をトップに、役員、部長、課長、一般社員といったピラミッド構造で成り立っている会社組織は、位置関係を明確にしないとうまく運営できません。逆に言えば、ピラミッド組織は、明確な位置関係によって責任の所在がハッキリしているからこそ、成長スピードが速いのです。

会社というのは、簡単に言えば、利益を上げるという目的の下に集まった人々の集団です。家族や友達とは関係性がまったく違います。少々厳しく聞こえるかもしれないですが、例えば仲の良い同期が部下になったとしても、そうなった以上は、少なくとも会社の中では、上司と部下として一定の距離をとらなければならないのです。

集団としての利益を最大化するためには、ルールに基づいた位置関係を保つことが大事。その位置関係を崩さないためにも、リーダーとメンバーの間には、常に良い緊張感が保たれていることが必要なのです」。

部下の本当の利益は成果評価

今、急速に広がるテレワークにおいて、部下の管理に悩むマネジャーの声が多く聞かれますが、それも、識学メソッドで解決できると安藤氏。

「日本社会は全体的にプロセスで人を評価する傾向がありますが、識学メソッドにおける評価は結果がすべてです。マネジャーが部下を成果で管理することによって、部下は自分に足りない部分を把握することができ、それを埋めることで成長感を認識できる。それこそが部下の本当の利益なのです。

結果評価にすれば、それこそテレワークにおける悩みや問題は減ると思いますし、時間にとらわれない働き方ができるので、女性の社会進出ももっと可能になってくる。働き方改革の一番の骨子は、評価を成果で行うこと。ここに尽きると私は思っています」。

安藤氏は、マネジャーという立ち位置を、渡り鳥に例えてこう説明します。

「リーダーは、渡り鳥の『群れの先頭の鳥』ではなく、さらに上から全体を見渡し、指揮する立場。先頭の鳥は、部下の中のトッププレーヤーです。プレイングマネジャーの場合はリーダー自身も群れの中で飛ぶ必要がありますが、先頭で引っ張っていってはいけないのです」。

実は安藤氏、かつては先頭で背中を見せて引っ張っていくようなリーダーだったのだそう。しかしそのやり方では、期待したほど部下は成長せず、安藤氏が抜けた途端に成績がガクンと下がってしまうような、脆弱なチームになっていたと自身の過ちを振り返ります。

「今、私の会社では、リーダーに長期的な視点を持ってもらうため、プレーヤーとしての売り上げが低いプレイングマネジャーでも、チームとして成果を出せているなら高く評価しています。なぜなら、リーダーが目の前の数字を埋めているようでは、いつまでたっても部下が育たないからです。

リーダーが部下を正しくマネジメントし、評価すると、チーム内に健全な競争が起こり、部下が成長します。その結果、組織全体が伸びていくのです。リーダー自らが先頭の鳥になってしまっては、そうした流れは起こりません。

リーダーが目指すべきゴールは、部下を成長させ、チームの成果を最大化させること。それが、ひいては組織の成長にもつながる。ですから、リーダーはトッププレーヤーになってはいけない。未来を見据えた長い目を持ち、あくまでマネジャーの仕事を優先させるべきなのです」。

取材協力:安藤広大(あんどう・こうだい)

株式会社識学 代表取締役社長。1979年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。2013年に「識学」という考え方に出会い独立。2015年に会社を設立し、3年11カ月でマザーズ上場を果たす。2021年1月現在、識学の導入企業は2,000社。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がっている。