タイトルバックはドラマのつかみ。スタッフ・キャストの紹介はもちろん、物語がどういうものか一瞬でわからせてくれる。大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)のタイトルバックは、主人公・渋沢栄一(吉沢亮)がミュージカル調の演出で広い世界を駆け抜けていく。この没入感がすごい映像を制作したクリエーティブディレクターの柿本ケンサク氏とドラマの演出・松木健祐氏に制作裏話を聞いた。

  • 大河ドラマ『青天を衝け』タイトルバックより

――タイトルバックの狙いを教えてください。

柿本:今回、タイトルバックとポスターなどの宣伝ビジュアルが対になっています。幕末から明治にかけての産業革命を突っ走り、近代日本経済の地盤を作った渋沢栄一の人生を一言で表すとすれば、ジェットコースター。彼の人生の一瞬を切り取ったのがポスタービジュアルで、その一瞬が連なる一筆書きのような渋沢の人生の流れを表したのがタイトルバックです。幕末から明治に移り変わるとき、それまでの文化や生活様式が一変し、多くの人がプライドを捨てて涙を流しながら欧米諸国に食らいついていった時代に、渋沢栄一が変化に臆することなく挑戦し続ける熱を感じてほしいです。

――水墨画タッチが印象的です。これは何を表していますか?

柿本:水墨画のタッチはかなり意識して制作しました。今回の撮影の手法は、2019年のラグビーワールドカップで有名になった最新技術・ボリュメトリックビデオ撮影です。360度、150台ほどのカメラで撮ることで、「自由視点」――ぐるり360度、左右のみならず、真上から真下まであらゆる視点での撮影を可能にしますが、開発途上のため、人物が重なると、そこは撮れず、データが破損してしまう。そのため、人物と人物の間は最低1メートル50センチくらい空ける必要があります。今回は、あえて、その弱点を強みにしようとしました。つまり、踊っている人物が重なったり、栄一をダンサーが持ち上げたりする部分の重なりによってデータが破損した部分を、水墨画タッチを用いることによって、滲んで空間に溶けていくように見せるようにしたのです。また、画全体も滲んだようにぼかすことで、出演者のクレジットを読ませるタイトルバックの本来の役割を重視し、画を主張し過ぎないことにも寄与しました。ボリュメトリックビデオ撮影によって画全体をぼかすことができました。

――撮影はどこで行われたのでしょうか。

柿本:ボリュメトリック専門のスタジオで撮影しました。

――鳥の目線は何を表していますか?

柿本:鳥からはじまるのはすべての生命のはじまりをイメージしています。最初、佐藤直紀さんのテーマ曲を聞いたとき、清らかな鳥のさえずりのようなものから始まる、のびやかな美しいメロディに、ダイナミックで雄大な景色が浮かんできたので、生命のはじまりが羽ばたいていくようなものを意識しました。

――ミュージカルのようにした理由を教えてください。

柿本:今回、視聴者の方々をいい意味で裏切りたいと思いました。それは渋沢の生き方にも通じているように思ったからです。大河でミュージカルという意外性が、今回、踊るように生きた渋沢の人生を表現するのにしっくりきました。実は、タイトルバックのなかで、吉沢亮さんだけ踊っていません。ほかの方々は皆、ダンサーさんでミュージカルのように踊っていますが、渋沢さんだけはあくまで“渋沢栄一”として存在してもらうことで、ダンサーとのコントラストがでました。撮影のとき、いまはこの時代でこういう気持ちで渋沢を演じてくださいとその都度説明しながら演じていただきました。おそらく、実際のミュージカル公演を、このような360度視点で撮影したことはこれまでないのではないでしょうか。そういう意味でも極めてチャレンジングな企画だと思っています。

――渋沢の生き方の魅力とは?

松木:渋沢栄一といえば、有名な著書『論語と算盤』で語られるように、道徳と経済を両立させた人物です。彼の人生を紐解いていくと、矛盾にぶち当たります。農民から侍になろうとしたり、幕府をぶっ潰すと言いながら一橋家の家臣になったり、外国人を殺すテロを企てたかと思えば、パリに行って外国の言葉とシステムを学んできたり。彼のなかには常に相反するものがあり、あっち行ったりこっち行ったりしながら、両極端なものをうまく組み合わせて最大限のアウトプットをし続ける。そういう能力に長けている気がしますし、それこそが渋沢の魅力だと思います。栄一が、日本に資本主義をもってくることができたのも、もともと彼がもっている特性なのでしょう。ドラマもそんな栄一の魅力を描こうとしています。

――吉沢さんの魅力はどう感じていますか?

松木:吉沢さんは、目が美しいですよね。凛として前を見てブレない。叩いても、水をかけても、ドロをぶっかけても、何をやってもブレずにそこにいる安定感と芯の強さが魅力だと思います。

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