APS-Cサイズのイメージセンサーを搭載したミラーレスを展開する富士フイルムのXシリーズ。APS-Cフォーマットのメリットのひとつといえば、フルサイズのカメラや対応するレンズと比較して小型軽量化が容易なことです。今回紹介する「XF70-300mm F4-5.6 R LM OIS WR」も、超望遠域をカバーする4.2倍の望遠ズームながら、コンパクトに仕上がった交換レンズです。加えて、最大5.5段分の補正効果が得られる光学式手ブレ補正機構の搭載と、防塵防滴耐低温仕様としているのも本レンズのポイントとなります。

  • 3月18日に販売が始まった富士フイルムの望遠ズームレンズ「XF70-300mm F4-5.6 R LM OIS WR」。同社直販サイトでの価格は税込み108,900円

コンパクトな設計ながらスキのない描写を見せる

XF70-300mm F4-5.6 R LM OIS WRは、最大径φ75mm、全長はもっとも短いワイド端時で132.5mm、もっとも長いテレ端時で205.5mm、質量については580gとしています。フルサイズ判換算で107~457mm相当の画角をカバーするレンズとしては、きわめてコンパクトと述べてよいでしょう。今回、同社の最新ミラーレス「X-T4」で本レンズのトライアルを行いましたが、望遠ズームとして絶妙な重量的バランスで扱いやすく感じることが多かったように思えます。なお、フィルター径はφ67mmとしています。

  • ワイド端70mm(左)とテレ端300m(右)のレンズ繰り出しの比較。テレ端時の鏡筒全長は205.5mm。35mm判換算で457mm相当の画角ながらこの長さに収まったのは、APS-Cフォーマットならでは

レンズ構成は12群17枚。このなかには、非球面レンズ1枚とEDレンズ2枚が含まれます。同社の交換レンズはクラスや価格にかかわらず、いずれも高次元で優れた写りをするものばかりですが、本レンズも例外ではありません。写りの詳細については掲載した作例を見てもらえれば分かるとおり、絞り開放からエッジが立ちコントラストも上々。画面周辺部の写りについても、ズーム全域でしっかり結像しており、スキを感じさせない描写です。赤バッジを付ける上位クラスのモデルとそん色ない写りが楽しめるといっても過言ではないでしょう。

  • フードが付属します。ロックボタン式ではないものの、着脱はスムーズ。深いフードであるため、PLフィルター用の操作窓があってもよかったかもしれません

  • 絞りリングは絞り値の表示のない仕様。カメラを首や肩から下げたときなどに不用意にズームが繰り出さないよう、ズームロックスイッチを備えています

テレコンバーターに対応しているところも見逃せないところ。1.4倍の「XF1.4× TC WR」、2倍の「XF2× TC WR」のどちらにも対応しており、1.4倍のテレ端の場合420mm(35mm判換算640mm相当)、2倍の場合で600mm(同914mm相当)の撮影が楽しめます。強力な光学式の手ブレ補正機構により、どの焦点距離でも手持ちでの撮影を容易としているところも心強く感じられます。

  • ズームおよびテレコンバーターを装着したときの画角となります。左よりワイド端70mm(35m判換算107mm相当)、テレ端300mm(同457mm相当)、1.4倍テレコンバーター装着時のテレ端420mm(同640mm相当)、2倍テレコンバーター装着時のテレ端600mm(同914mm相当)

強力な手ブレ補正と優れた近接撮影も注目

手ブレ補正機構は、前述のとおり補正効果は5.5段分としています。Xシリーズのミラーレスのなかには、センサーシフト方式のボディ内手ブレ補正機構を搭載するX-T4やX-S10などがありますが、シリーズ全体から見ればまだまだ少数派。そのようなことを考慮すると、光学式の手ブレ補正機構の搭載は当然のことでしょう。まして、超望遠域をカバーするレンズであれば、今やマストと言わざるを得ません。もちろん、センサーシフト方式の手ブレ補正機構を搭載する前述のカメラであれば、より強力で安定した補正効果が得られることも特徴です。

近接撮影もこのレンズの得意分野です。最短撮影距離はズーム全域で0.83m。テレ端では約0.33倍としており、間近にいる野鳥や水面に浮かぶハスの花など、寄ることが難しい被写体でもテレマクロレンズとして大きく引き寄せることができます。レンズ鏡筒は、このレンズの名称に付く“WR”でも分かる通り、防塵防滴で耐低温仕様としています。要所にシーリングが施され、雨天時での撮影でもためらうことなく撮影に臨めるのはたいへんありがたく感じられます。ちなみに、本レンズの焦点距離をワイド寄りに振ったXマウントの望遠ズームとして「XF55-200mm F3.5-4.8 R LM OIS」が以前から存在していますが、WRの称号は付かないので、気象条件等を問わない撮影が多いようであれば迷わず本レンズを選択するのがベストでしょう。

得られる画角を改めて考えると、テレ端457mm相当の画角はたいへん魅力的に感じられます。しかもテレコンバーターを使えば、これまで手の届かなかったような領域の画角も手軽に得られ、スポーツや野鳥、鉄道など、超望遠レンズを必要とすることの多い被写体の撮影では重宝すること請け合いです。実売価格は税込み108,900円。筆者個人としては、焦点距離や写りなど考慮すると決して高くないように思えますが、この記事を読んだ皆さんはいかがでしょうか。

  • テレ端300mm、絞りは開放で撮影。半逆光での撮影ですが、ピントの合った部分はコントラストが高く、キレのよい写り。フレアの発生も見受けられません。玉ボケも含め、ズームレンズとしてはボケ味も悪くない感じです X-T4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/450秒)・WBオート・ISO400・JPEG・焦点距離300mm

  • 2倍テレコンバーター「XF2× TC WR」を装着して撮影しています。焦点距離は600mm。絞りは開放ながら解像感、コントラストも良好で、細かな部分もしっかりと再現しています。手ブレ補正もよく効いており、キレのよい写りが得られました X-T4・絞り優先AE(絞りF11・1/450秒)・WBオート・ISO3200・JPEG・XF2×TC WR・焦点距離600mm

  • 絞り開放でも解像感が高くキレのよい写りが得られますが、少し絞るとさらに写りは向上します。手ブレも、同補正機構によりよく抑えられています。見慣れた都市風景も望遠ズームで大胆に切り出すと、また違った印象の写真に X-T4・絞り優先AE(絞りF8・1/850秒)・WBオート・ISO160・JPEG・焦点距離178mm

  • ワイド端70mmで、ほぼ最短撮影距離での撮影。こちらも半逆光ですが、フレアの発生などなく、ピントの合った部分のコントラストも高く感じられます。鏡筒には三脚座は備わっていませんが、軽量なレンズゆえ、さほど気になることはありませんでした X-T4・絞り優先AE(絞りF4・1/240秒)・WBオート・ISO160・JPEG・焦点距離70mm

  • 狭い画角によって強い圧縮効果を得ることも容易です。そのような超望遠域をカバーする望遠ズームながら、比較的コンパクトに仕上がっているので、街歩きのような撮影でも苦になるようなことは少ないように思えます X-T4・絞り優先AE(絞りF8・1/1250秒)・WBオート・ISO160・JPEG・焦点距離258mm

  • ピントの合った部分(青い屋根)のほかに、画面四隅の写りにも注目。絞りは開放から1/3段ほど絞っていますが、合焦部のシャープネスはきわめて高いうえ、画面周辺部も結像が甘かったり色のにじみの発生がなく、すっきりとした写りとしています X-T4・絞り優先AE(絞りF5・1/850秒)・WBオート・ISO160・JPEG・焦点距離153mm

  • 土手沿いを歩いていたら、後ろからサイクリストが追い越していったので、即カメラを構えてシャッターを切りました。オートフォーカスは速く、ストレスなく狙った被写体にピントを合わせることができました。前ボケも不自然な感じはしません X-T4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/1600秒)・WBオート・ISO160・JPEG・焦点距離300mm

  • この場所で見るモノレールにいつも惹かれます。独特の走行音を響かせながらトンネルに潜っていく様子は、一般的な鉄道にはない魅力といえます。カメラの性能に依存するところもありますが、AF-Cでの被写体捕捉性能は高く感じられます X-T4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/1250秒)・WBオート・ISO160・JPEG・焦点距離300mm

  • こちらもAF-Cで撮影。撮影中ズーミングするとデフォーカスとなる現象がしばしば発生し、さらにこの写真に限っていえば画面左隅に光量低下が見受けられます。発生の要因がカメラによるものなのかレンズによるものなのか、ちょっと気になるところです X-T4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/3200秒)・WBオート・ISO160・JPEG・焦点距離223mm

  • 5.5段の手ブレ補正は、たいへん心強いものです。遠くにあるビルの窓枠ひとつひとつを鮮明に再現しています。描写特性も優れており、赤バッジをつけるXマウントレンズに迫る写りが得られます。Xユーザーとして、私自身も欲しいレンズです X-T4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/140秒)・WBオート・ISO400・JPEG・焦点距離136mm