マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の長期金利について解説していただきます。
米国の長期金利(10年物国債利回り)は昨年夏をボトムにジリジリと上昇しています。とりわけ、今年に入ってからの上昇ぶりが目立ちます。コロナ・ウイルスの普及による新規感染者数の抑制、行動制限の緩和、それらを背景とした景気回復への期待が高まっているからでしょう。そして、米国の長期金利に引っ張られる格好で世界各国の長期金利も上昇傾向にあります。そうしたなか、主要中央銀行の対応に差異が出てきました。以下に概観しておきましょう。
まず、米国の長期金利は昨年8月をボトムにジリジリと上昇してきましたが、今年に入っての上昇が顕著です。年初から足もと(3/18時点)までの米長期金利の上昇幅は79bp(ベーシスポイント=1/100%)。同様に英国の長期金利の上昇幅は68bp、ドイツは31bp、日本は9bpです。
ECBは債券購入を加速
ユーロ圏内の長期金利上昇に強い懸念を示したのがECB(欧州中央銀行)です。3月11日のECB理事会では、「金融条件の引き締まり(≑最近の長期金利上昇)を防ぐため」「PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)での債券購入を4-6月期に今年これまでよりも著しく速いペースで行う」と表明されました。また、理事会後の記者会見で、ラガルド総裁は「資金調達を困難にさせるため、時期尚早な市場金利の上昇は望ましくない」と述べました。
FRB、「景気に対する信頼の証し」
2月下旬の議会証言で、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、「(米長期金利の上昇は)景気に対する信頼の証し」と述べ、米長期金利の上昇を許容する姿勢をみせました。3月16-17日に開催されたFRBのFOMC(連邦公開市場委員会)は、金融政策の現状維持を決定。直後の記者会見でパウエル議長は、物価の上振れは一時的、長期金利の上昇を懸念しないなど従来の見解を繰り返しました。
FOMCの結果や議長の記者会見を受けて、米長期金利は低下しました。ただし、FOMCの経済・物価見通しは前回公表された3カ月前に比べて上方修正されました。さらに、少数派ながら、2022年中や2023年末に向けて利上げを想定するFOMC参加者が増えていることも明らかになりました。
今後の景況次第ではありますが、米長期金利には引き続き上昇圧力が加わりやすいとみられます。
BOEも静観の構え!?
BOE(英中銀)は静観の構えです。3月15日のラジオ・インタビューでベイリー総裁は「過去1カ月にいくらかの金利上昇が見られたが、これは景気見通しの変化(改善)に沿ったものと考えている」と述べました。
3月18日のMPC(金融政策委員会)では、金融政策の現状維持が決定されました。議事要旨によると、「(長期金利を含む)金融条件はほとんど変化していない」との判断が示されました。
QE(量的緩和=債券購入)が現行ペースのままだと年内に目標(計8,950億ポンド)に到達するため、今後MPCが増額する可能性はあります。逆に、購入ペースの減速(いわゆるテーパリング)が示唆されるようなら、長期金利の上昇要因となりうるしょう。
BOJは長期金利の許容変動幅を小幅拡大
BOJ(日本銀行)は3月19日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和の「点検」結果を公表。「より効果的な持続的な金融緩和」としてETF(上場投資信託)買い入れの柔軟化や貸出促進付利制度の創設などを発表しました。
長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)は、政策金利「マイナス0.1%」、長期金利「ゼロ%程度」が維持されました。ただ、長期金利の許容変動幅を従来の「上下0.20%程度」から「上下0.25%程度」へ小幅拡大しました。
BOJの発表を受けて、金融市場の反応は限定的でした。冒頭で示したように、これまでの日本の長期金利の変化は非常に小さく、状況に大きな変化は生じないと受け止められたようです。