MUJI HOUSEと独立行政法人都市再生機構(UR)は、2021年度から「団地まるごとリノベーション」など新たな取り組みを開始することを発表した。

  • 「MUJI×URに関する連携協定」協定書に署名した(左から)MUJI HOUSE代表取締役社長の松﨑曉氏、UR都市機構理事長の中島正弘氏

MUJI×URの「こわしすぎず、つくりこみすぎない」リノベ

MUJI×URは、2012年度より関西において団地リノベーションプロジェクトを開始しており、2015年度には全国展開。2020年度に供給戸数1,000戸を達成している。今年度からは協業内容を拡大。外観や屋外広場、商店街区などの共用部分にもリノベーション対象を広げ、地域コミュニティの連携にも取り組んでいく。それにより、団地を中心とした生活圏の活性化を目指すという。

  • ふすまで可変する多目的スペース(MUJI×UR一例)

  • 屋外と繋がる窓向きキッチンがある暮らし(MUJI×UR一例)

  • 押入ワークスペースがある暮らし(MUJI×UR一例)

もともとこのプロジェクトは、高齢化が進む団地に若い世代を入居してもらいたいという課題を抱えていたURと、団地が持っている良い住環境を広い世代に知らせていきたいと感じたMUJIが手を組んで始まったもの。MUJIのファンへのアンケートで86%が選んだ「間取りを自由にできる(自分で改装できる)と良い」を中核にプロジェクトを展開していったという。

団地には古いというネガティブなイメージがあるものの、そこを逆に若い世代にはヴィンテージやレトロといった魅力に映るようなデザインにした。団地には日当たりがよく、風通しが良いという特徴があるので、間仕切りを少なくしてその特徴を生かすように工夫。また、72万戸という大きな戸数を抱えるURだからこそ、新しい暮らしのスタンダードを提案できると考えた。これらを団地の魅力とし、「こわしすぎず、つくりこみすぎない」リノベーションを目指している。

具体的には、木軸や押し入れなどもともとあったものはそのまま活用、団地によくある畳の部屋も麻畳を開発するなどしてイメージを一新させた。壁付けキッチンをカウンターキッチンに変えるなど、変更すべきところは変更し、部屋のレイアウトもMUJIの家具を使って仕切ることで、暮らしに合わせた自由度の高いデザインにした。

  • キッチンとテーブルが同じ高さで組合せが自由なキッチン

  • 圧迫感のない半透明のふすま

  • 家具を置いて洋室のように使うこともできる麻を使った畳

住環境を考える際には、仮説を立ててアンケートを実施し、より評価が高かったものをまずはテストケースとして実現。この循環を大切にすることで、よりニーズに沿ったプロジェクト展開が続けられているのだという。

例えば、団地の広い敷地を利用して、防災について学ぶことができるキャンプの体験イベントや、店舗付き住宅での暮らしの提案、団地に出店している「MUJIcom」をコミュニティスペースとして活用している例などが紹介された。イベントの際も、無印良品が主体となるのではなく、地域コミュニティが主体となっているところに無印良品が参加させてもらうというスタイルを大切にしているのだとか。

「団地まるごとリノベーション」で地域活性化を

MUJI×URが、今年度から新たな取り組みとしてスタートするのが団地まるごとリノベーション。住戸だけではなく、外観、広場、商店街区など共用部分にもリノベーションの手を広げることで、地域を活性化させていく狙いだ。

  • (左から)UR都市機構理事長の中島正弘氏、MUJI HOUSE代表取締役社長の松﨑曉氏、MUJI HOUSE専務取締役の田鎖郁夫氏

1,000戸を供給してきた実績を振り返ってみると、MUJI×URを選んだ人の75%が40代以下となっており、この取り組みが狙い通りに若年層に支持されているプロジェクトと言える。

また、無印良品のSNSやアプリなどで定期的に情報発信されており、年間平均で60件ほどのメディア露出がある。露出に合わせてURサイトへの流入が通常の10倍程度まで増加するなど、URにとっては非常に発信効果が高くなっているそうだ。年間入居契約件数もプロジェクト開始前に比べ12%増加となっており、新たな顧客を獲得していることがわかる。

団地まるごとリノベーションは、大きく4つのテーマで取り組んでいく。これまでも行ってきた「住戸リノベーション」と「情報発信」に加え、共用部にもMUJI×URのデザイン性を取り入れていく「共用部リノベーション」、地域の人々との交流を生んでいく「地域コミュニティ形成」も手掛ける。これらの新たな取り組みによって、若年層の入居を促進し、交流の場を作ることでたくさんの地域関係者とのつながりをもち、団地を拠点とした生活圏を盛り上げていくという。

記者会見では、MUJI HOUSE専務取締役の田鎖郁夫氏を進行役に、MUJI HOUSE代表取締役社長の松﨑曉氏とUR都市機構理事長の中島正弘氏の対談も行われた。

対談の中で、中島理事長は「我々の本来のミッションは、地域社会の問題を解決すること。URの取り組みは、その問題によってやることが変わってくる。MUJIさんはモノを売るだけではなく、いろいろなことに取り組んでいて、それはいわゆる多角化とも違う印象で、そこは共通点に感じている。これからも、いろいろなコラボレーションをしていきたい」と話した。

松﨑社長も「協業により1,000戸を超える提供をできたことは、素直にうれしい」とし、「まだまだ我々にできることがある、社会的な課題を解決できる領域があると考えているが、ひとつひとつ着実に実行し、(主体となるのではなく)巻き込まれる形で取り組んでいきたい。できれば、これまでの半分くらいのスピードで2,000戸を目指したい」と語った。