鮮やかなターコイズブルーから燃えるオレンジへとグラデーションするレインボーIP、そしてマルチカラーのフェイスがキャッチーなG-SHOCK「MTG-B2000PH」が2021年春の新作として発表され、大きな話題となっている。
ベースモデルは、2020年11月に登場したばかりの「MTG-B2000」。カーボンモノコックケースを採用した新しい「デュアルコアガード構造」と、12角形のベゼルがアイコニックなモデルだ。そこで今回は「ブルーフェニックス」をテーマに掲げたこのMTG-B2000PHをレビューする。なお、スマホと連携するモバイルリンク機能、電波時計、トリプルGレジスト(※1)など、外観以外の機能や性能はベースモデルに準じる。価格は143,000円(税込)で5月発売予定だ。
(※1)トリプルGレジスト:普通、時計がもっとも苦手とする「衝撃」「遠心重力」「振動」の3つに耐える性能を持つG-SHOCK独自のタフネス構造
レインボーIPの色の出方を見事にアンダーコントロール!
MTG-B2000PHは、MTG-B2000のCMF(Color<色>、Material<素材>、Finish<仕上げ>)モデルだ。ブルーを基調とした多色のグラデーションが煌めくそのビジュアルには、誰もが目を奪われる。
いまや時計ファンにはすっかりおなじみとなったレインボーIP。これを初採用して「ルナレインボー」(月の虹)を表現した「MTG-B1000RB」(2019年5月発売、現在は製造終了)以来、噴火で起こる雷「火山雷」をイメージした「MTG-B1000VL」(2020年10月発売、現在は製造終了)、そして今回のMTG-B2000PHの「ブルーフェニックス(鳳凰)」と続く。写真を見比べてみると、あることに気付くだろう。
そう、後発になるほどレインボーIPの発色が鮮やかに、絶妙になっているんですよ!
カシオ広報いわく、それを可能にした要素は大きく分けて2つあるとのこと。ひとつは「過去の2作を経て、レインボーIPのノウハウが蓄積されてきた」こと。そしてもうひとつは「ベースモデルのMTG-B2000が、そもそもCMF化を強く意識した設計になっている」こと。
一般にIP(イオン プレーティング)は、蒸発した金属粒子にプラズマでプラスの電荷を与え、一方でパーツ側にはマイナス電荷を与えることで蒸発した金属を付着させ、結果的に強固な蒸着被膜を形成する(※3)。つまり、蒸発金属やガスの成分、被膜を作りやすいパーツの形状、配置など、工夫や調整の余地は限りないといえる。それらについて膨大な試行錯誤を繰り返すことで、より最適解に近付いたということなのだろう。
(※3)実際にはガスの温度なども影響する
以前、本シリーズを手掛けるカシオのデザイナー、池津早人氏にインタビューする機会があった。その際、池津氏が繰り返し難しいと述べていたのが「レインボーIPは出現する色の位置を制御しにくい」ということだった。そこで最初のMTG-B1000RBはこれを逆手に取り「世界中にまったく同じものが存在しない」ことをウリとしたのである。これは確かに魅力的要素だ。
ところが最新のMTG-B2000PHでは、オレンジ色のグラデーション帯をベゼルには縦位置、ケースには横位置にしっかりと固定して配置している。しかも、位置と幅を「G-SHOCK」「SHOCK RESIST」の彫り込みにビシッと合わせているではないか。池津氏によれば、これも蓄積されたノウハウが可能にした技術とのこと。
CMF思想で設計されたベースモデルの実力をいかんなく発揮
今回は前2作と異なり、ベースモデルがMTG-B2000になったことも見逃せない。たとえば、MTG-B1000ではケースとベゼルが一体化しており、ケースの側面も衝撃構造のための樹脂が露出していた。
一方、MTG-B2000はケースとベゼルを別体化、研磨方法や素材を部分ごとに変更できるようになっている。実際に、MTG-B2000PHではベースモデルより一部ミラー面を増やすことでIPの発色を向上させているとのことだし、将来的にSS(ステンレススチール)ケース+カーボンベゼルといったモデル展開も可能だろう。また、別体化はパーツ単位の形状のシンプル化につながり、研磨やIP処理の効率化にも貢献する。
そして、ケース側面がSSケースで覆われたことで、この部分にも金属表現が可能となった。今回、ここにオレンジの帯を配置したのは、そのアピールの意味もありそうだ。
バンドは、ネイビーのスケルトン素材を使用したソフトウレタンバンド。おそらくMTG-B1000VLのバンドと同素材と思われるが、ネイビー顔料の主張が強く、クリア素材という雰囲気はあまりない。
しかしながら、やはりシンプルな黒いウレタンバンドとは異なり、マットな風合いの中に色気がある。また、バンド穴は多めでピッチも狭いので、ちょうどいい位置で手首に固定できるのがうれしい。キツめも緩めもお好みしだいだ。なお、裏側を適度にえぐる形状とすることで、しっかりとした素材ながら柔らかな装着感を実現している。
ベースモデルと同じく、バンドはダブルレバー方式を採用。特別な工具などを用いることなく、ケースからの着脱・交換が可能だ。ただ、MTG-B2000PHはバンド接続部にケース同様のIPを施していたり、ピンクのアクセントカラーパーツを使用していたりと、バンドを含めてトータルでウォッチデザインをしているので、事実上交換バンドを使うという選択肢はなさそう。ただし清掃や洗浄には役立ちそうだ。尾錠には、ボタン類とイメージを合わせたゴールドIPが使用されている。隅々まで手を抜かない「特別感」が所有する喜びを満たしてくれる。
煌めくレインボーIP、キャッチーなマルチカラーのフェイスと、存在感抜群のMTG-B2000PH。ひと目見ただけでは「こんなに派手な時計、一体どこに着けて行くんだ!?」と驚くかもしれない。いやいるだろう。絶対にいる。けれど、それはルナレインボーも火山雷もそうだったし、ブルーフェニックスも例外ではない。
実際に腕に着けてみると、思った以上に腕になじむ。それはマルチカラーゆえどんな色の服にも合うからで、特にシンプルな柄、あるいは柔らかな中間色のシャツなどと相性がいいと思う。ビジネスシーンだって十分イケる。コンサバなスーツに、ちょっとした外し感を演出するアイテムとしても衆目を集めそうだ。
カシオの池津氏によれば「火山雷の中からブルーフェニックスが生まれた」というバックストーリーが存在するという。などと書くと「あら、池津さんてデザイナーでありながら、詩人でもあるんですね」などと勘違いしそうだが、これは製品としての誕生経緯も含めた話になっていると思う。
いま思えば、MTG-B1000RB ルナレインボーは色々な面で試作的意味合いが強かったような気がする。カシオがレインボーIPのCMFプロダクツとして本気で取り組んだのはMTG-B1000VL 火山雷からであり、技術面でもマーケティング面でも「これが実績を上げたからこそMTG-B2000PHが製品化できた」という意味ではないだろうか。だとしたら、ブルーフェニックスからは一体何が生まれるのか……。興味は尽きないが、まずは本作のすばらしさをじっくりとご覧あれ。