ソフトバンクは3月15日、次世代電池の開発について現在の取り組み状況をメディアに公開しました。なぜ、通信事業者であるソフトバンクがバッテリーを開発しているのでしょうか。また一般的な電池とは、どこが違うのでしょうか。ソフトバンクの次世代電池に関する取り組みについて、説明会が行われたので、その内容をお伝えします。

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    ソフトバンクが新しい電池を開発中、その理由とは?

次世代電池開発の狙いは?

説明会の冒頭、ソフトバンク 先端技術本部の西山浩司氏は「DX(デジタルトランスフォーメーション)を担うのは新しいデバイスです。新しいデバイスのために、新しい電池を開発しています」と説明します。

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    先端技術本部 先端技術研究室 室長の西山浩司氏

ここで言う新しいデバイスとは、ドローンや、成層圏の無人航空機から電波を飛ばす「HAPS」などのこと。例えば、いま世界規模でドローンを使った宅配が検討されています。国内でもさまざまな業界が注目していますが、ネックになるのがバッテリーの持ちでした。現在のバッテリー容量では30分ほどしか飛べず、それでは利用可能なエリアが狭すぎます。では、どのくらいあれば実用に足るのでしょう。

西山氏は「目安として60分くらい飛行できれば、ひとつのブレイクスルーになります。離島にも対応できるので、宅配業者も配備網を作れるでしょう」と説明しました。次世代バッテリーを積んだ新たなデバイスを世に出すことで、新しい産業を創出し、また既存産業も進化させていく、というのがソフトバンクのビジョンです。

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    電池開発により、次世代デバイス(ドローンタクシー、HAPS、ドローン配達、ロボット)を早期に実現。新しい産業を創出し、また既存産業を進化させる

次に気になるのが、既存の電池メーカーとの違いです。ソフトバンクが開発する次世代電池は電池メーカーのものと何か違うのでしょうか。

まず一般的な話として、バッテリー開発には「高寿命化」と「高密度化」の2つの観点があります。高寿命化では、バッテリーの充放電を繰り返しても電池が“へたらない”ことを目指します。一方で、高密度化では、バッテリーの小型化・軽量化を図ります(これは大きさを変えずに電池容量を増やすことと同義)。

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    電池の「高寿命化」と「高密度化」

この高寿命化と高密度化は、技術的にトレードオフの関係。そこで既存の電池メーカーではスマートフォンなどの電化製品、また電気自動車(EV)などで広く使われることを目的として、高寿命化の方針をとっています。

しかしソフトバンクが目指すのは、高密度化です。西山氏は「どちらを先に実現させるか、という話になるんですが、我々は一般のセルメーカーとは違う視点で攻めていきます。ソフトバンクにはHAPSがあり、またドローンタクシーなどの産業も創出したい。その出口に向けて、先に高密度化を進めていきます」と説明。HAPSのような技術を実現することで、ベンチャーをはじめ、さまざまなプレイヤーも参画してくれるのでは、と期待感をにじませます。

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    一般的な電池開発とは異なる方向を目指すソフトバンクの電池開発

ちなみに電池の高密度化は、持続可能な社会を目指すSDGsの観点でも貢献できるそう。高密度化により小型化されたバッテリーを家庭に常備し、また街中にも設置することで日常時のエネルギーマネジメント、災害時における長時間の電力供給にも役に立つとしています。

ソフトバンクではすでに、質量エネルギー密度450Wh/kg級の電池を実証しており、ここから長寿命化を目指す方針です。

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    SDGsにも貢献

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    質量エネルギー密度450Wh/kg級の電池を実証

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    次世代バッテリーの進化により、次世代デバイスの利用時間を大幅に延長できる

また2021年6月1日には「次世代電池Lab.」の運用を開始する見込みです。これにより開発のサイクルが速くなることはもちろん、世界中のベンチャーがここで測定することで、ソフトバンクに知見が貯まることにも期待を寄せています。

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    次世代電池Lab.を設立した

なお開発したバッテリーは、単体で販売する方法もあれば、コンソーシアム / アライアンスに提供する選択肢もあるとのこと。西山氏は「ソフトバンクにはHAPSアライアンスがあり、またMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ、トヨタ自動車との合弁会社)もあります。こうしたコンソーシアムを通じて、いろんなサービス、アプリケーションにリーチできるポジションにいるのが強み。これまで培ってきたノウハウを活かして、パートナーと一緒に新しい電池の開発を推進していきます」と述べます。特にHAPSでは2023年に何かしらのサービスを開始したいと考えており、西山氏も「その時間軸はひとつのタイミング」と話していました。

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    今後のロードマップ

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    さまざまな研究機関、大学、企業と協力して開発に取り組んでいる

メディアから「スマートフォンのような小型製品には搭載しないのか」と質問されると、「新しい技術による電池は、既存の製品に搭載してもうまくいかないことが多いんです」と否定的な回答を提示します。

新しいデバイスとの相性が良いので「まずは高密度化を進めて、200~300サイクル(*)の製品を市場に出していきます。HAPSなら200サイクルで半年も持てば良い。その後、数年かけて長寿命化を達成します。そこで携帯電話、EVなどにも技術を持っていけたら」と説明しました。

リサイクルが課題になるのでは、という質問には「電池のリサイクルは、材料によって変わってきます。いまはウォッチングしている段階。既存の無機材料を使った電池のリサイクルは、硫酸を使うなど環境に良くなかったり、コストがかかったりしますが、有機材料を使った新しい電池なら、低温の溶媒で抽出することも考えられます。既存の電池よりはリサイクルしやすい面もあるかもしれません」と回答しました。

(*)バッテリーの充電が0%の状態から100%まで充電して、そこから0%まで放電することを「1サイクル」と数える

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    次世代電池開発における4要素

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    ソフトバンクは6つのキーテクノロジーに着目したそう