「で、結局何が言いたいの?」――この言葉、上司や先輩、時には取引先に言われるとかなり辛いワードだ。自分のなかでは筋が通っているはずなのに、なぜわかってもらえないんだ! ともどかしい気持ちを抱えた経験のある方も多いだろう。
この悩みを改善する方法はないものか、『「お前の言うことはわけがわからん!」と言わせないロジカルな話し方超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)を執筆した別所栄吾先生に、「ロジカルな話し方」のコツを聞いた。
別所 栄吾先生
BCL 代表取締役、産業カウンセラー、国際ディベート学会公認ディベートトレーナー、公益財団法人関西生産性本部 パートナーコンサルタント。大手企業や自治体、学校等で、ロジカルシンキングやマネジメントの研修を年間180日以上行っている。
【パターン1】話が長すぎて「何を言ってるんだ?」
――別所先生、よろしくお願いします! 上司に仕事の企画を提案しても、なんだか上手く伝わらないのが悩みで……「もっとロジカルに話せ!」と言われて困っています。
「話し方がわからない」理由はいくつかあります。まず自分がどのタイプか把握してみましょうか。人に道案内をするつもりで、下の地図で「駅から病院への行き方」を説明してください。
――病院ですか。えーと、駅からまっすぐ行くと……あ、ファミレスの横にある橋は近道なんですよ。でも細い道だからわかりにくいかも……やっぱり駅からまっすぐ行って、最初の信号は直進、2つ目の信号で右折してください。しばらく歩くと左手にコンビニ、右手に公園があります。その先の信号を今度は……。
もしかすると、あなたの場合は「詳しすぎる」ことが、伝わらない理由のひとつかもしれません。この場合「2回曲がれば着きます。この道を突き当たったら右です。次も突き当たりまで行ってください。2回目の突き当りは左へ、すると病院が見えるはずです」とシンプルに説明できますね。
――途中の建物の説明がなくてもたどり着けますね。
話す側はたくさんの情報を持ってますが、伝えるときは全部の情報が必要なわけではありません。つい細部まで話しがちですが、説明をする前に情報を整理して「必要最低限の情報だけ」伝えるようにするのがコツです。
ただ逆に「説明が短すぎて伝わらない」パターンもあります。まずは「話が長すぎて伝わらないのか、短すぎて伝わらないか」をチェックしてみましょう。
――自分の話が長いか短いか、どっちのタイプか気づくにはどうすればいいですか?
話をしたあと、聞き手の人に「今の話わかりました?」と聞いてみましょう。きちんと伝わっていれば「こういうことだよね」と返してもらえますし、「たくさん言ってたよね……」と言われたら、長すぎるタイプかもしれません。
【パターン2】事実と理由づけが足りなくて「何を言ってるんだ!?」
――説明が短すぎる場合は、どうすればよいのですか?
人に物事を伝えるときは、「主張」「事実」「理由づけ」の「三角ロジック」を作りましょう。短すぎて伝わらない場合、「事実」や「理由づけ」が抜けているのかもしれません。
次の会話を見てください。「明日は第2水曜日だ(事実)。明日はPCの動作が遅くなる(主張)」と言っています。
――え、突然そう言われても納得できないですよ。なんで第2水曜日にPCの動作が遅くなるのか……。
この図でも「お前の言うことは、わけがわからん」と聞き手は疑問に思っていますね。これは納得するための「理由づけ」が足りないからです。
この場合、「理由づけ」として「Windows Updateの配信日」であることを添えましょう。「第2水曜日はWindows Updateが定期的に更新される日だから、バックグラウンドでダウンロードなどが進んでPCが遅くなる」と伝えれば相手も納得するはずです。
同じ職場の仲間や家族と話すとき、「理由づけ」などが省略されても「わけがわからん」とはなりません。一緒に過ごしている時間が多ければ、聞き手が足りない部分を推測しながら理解してくれるからです。
一方、関係が薄い相手は、この「足りない部分」を埋められません。そうなると「お前の言うことは、わけがわからん」と指摘されてしまいます。そういった相手は、事実とともに、丁寧に理由づけする必要があります。とはいえ理由がたくさんあり過ぎても、結論が見つからなくて「どういうこと?」となるので注意しましょう。
――きちんと理由を提示してもらうと納得できますね。今まで「何が言いたいの?」って言われると、「何で伝わらないんだ!」と悩んでいたんですが、「事実」や「理由づけ」が足りなかったのかも……。
そうそう、言われてしまったら、自分の伝え方に何が足りなかったのかを考えてみてください。主張がなければ主張を、理由がなければ理由を足しましょう。
【パターン3】話が飛躍して「何を言ってるんだ!?」
――人の話を聞いていて、「なんでその結論になるの?」と思うこともあります。
話の筋道が飛躍しているパターンですね。話が長い人も、短い人も起こりがちな伝わらない理由です。これを防ぐコツは「前の文のキーワードを、次の文の先頭に置く」ことです。一度話す内容を書き出してみると気づけますよ。
ストーリーがあると記憶に残りやすいんです。断片的に何を話したのか忘れても、頭とお尻を覚えていれば、間の抜けてしまった記憶を思い出しやすくなります。感覚で話すのではなくて、「前の文のキーワードを、次の文の先頭に置く」このルールに従いましょう。
――話をつなげると、冗長になっちゃいませんか?
もちろん、【パターン1】のように自分が持つ情報を全部伝えるのはよい説明とは言えません。慣れてきたら、お互い前提とする部分は省略しよう……といったように、端折ってもよい部分がわかってきます。でもその前に、まずは話をつなげる意識をしてください。
話が飛躍してしまうパターンは、仕事のできる人がやってしまいがちです。後輩に仕事を教えるときも、「あたり前のことだから」と端折って伝えてしまうんですよね。仕事が覚えられず苦労してきた人のほうが、教えることは上手かもしれません。
ロジカルな話し方を身につけるコツは?
――ここまでで「情報を整理する」「理由を丁寧に説明する」「言葉をつなげる」と3つのヒントを教えてもらいました。でも、いざ実践となるとなかなかうまく話せません。
もしかすると、【パターン2】の「三角ロジック」の考えを埋めるとき、どこかが足りないのかもしれません。三角ロジックで作った「主張」「事実」「理由」がなぜそうなっているのか、さらに三角ロジックをつなげていって、論理が飛躍していたり、実現できないところがなかったりしていないかを探しましょう。
例えば、下の図は「路上喫煙を禁止して罰金を科す(事実)と、観光客が増加する(主張)」と伝えたいようですね。
――どうして罰金を科すと、観光客が増えるんでしょう……?
まず「路上をすべて禁煙にして、罰金を科す」。すると、どうなりますか?
――罰金は嫌だから、みんながルールを守りそうですね。
そう、ルールを守ると、街がきれいになります。「するとどうなるの?」と考えると、犯罪が減ります。では「どうしてそうなるの?」と言われたら、ゴミだらけの街よりもきれいな街の方が治安が良いから……。
――治安が良いと、街のイメージが良くなって、だから観光客が増えると。
「するとどうなるの?」で主張を、「どうしてそうなるの?」で理由を確認して、話をつなげていきましょう。また、理由が足りない部分を見破るコツですが、「○○すれば」「○○したら」のようなレバタラや仮説が説明に出てきたら、怪しいと思ってください。
――普段話すときは、なんとなく考えていました。考えるクセをつける練習をするうちに、慣れてきそうです。
身につけるもうひとつのコツは、社会問題などで考えて鍛えてみることです。例えば「レジ袋は有料・無料どっちがよいのか」とか「歩きスマホは法律で禁止すべきか否か」でも構いません。賛成派・反対派それぞれの「主張・事実・理由づけ」を書き出して、どんどん三角ロジックを組み合わせていく練習をしてみましょう。
「ロジカルな話し方」を身につけるコツ
1)三角ロジックを組み合わせて、話がつながっているか確認しよう
2)身近なことを考えて鍛えてみよう
――最後に、これから「ロジカルな話し方」にチャレンジしたい方に、アドバイスをお願いします。
まずは「ロジカルな話し方をしているな」と思う人のマネをしてみてください。あなたの周りには、説明がわかりやすい人や、説得力のある人がいると思います。そういう人が説明する様子を観察して、マネするところから始めましょう。また、理論をインプットするだけではなく、アウトプットをすると身につきます。
もうひとつは、話すだけではなく、三角ロジックや言葉のつながりは手で書き出して整理しましょう。頭で理解したことが腑に落ちるのは手で描いた瞬間です。どんどん手書きで図を書いていってください。
「ロジカルな話し方」の始め方
1)周りの「説明の上手い人・説得力のある人」をマネする
2)とにかく手で図を書いてみる
「お前の言うことは訳が分からん」と言われても、100点を目指さず、まずは60点くらいを目標にチャレンジしてみてください。そして「理論は習慣に負ける」という言葉も伝えたいです。本を読んで理論はわかっても、普段仕事のなかで意識して使うのは難しいんです。聞いてよしで終わりにせず、まずは一歩踏み出してみてくださいね。
――別所先生、ありがとうございました!
参考書籍:『「お前の言うことはわけがわからん!」と言わせないロジカルな話し方超入門』
ディスカヴァー・トゥエンティワン刊・税別1200円
「ロジカルシンキング」に苦手意識があるすべての人に贈る、どんな相手にも言いたいことを確実に伝える69のコツを完全図解。見開きにひとつのトピックが短い解説と図解でまとまっており、パラパラ見るだけでも分かりやすい構成の一冊だ。