スターシップの開発状況

このdearMoonプロジェクトで前澤氏が、そしてもしかしたらこの記事を読んでいるあなたが乗り込むことになるのは、スペースXが開発中の「スターシップ」という新型宇宙船である。

巨大ロケットのスーパー・ヘヴィで打ち上げられ、最大100人の乗組員、もしくは100tの物資を積んで、地球低軌道や月、火星などへ飛行することができる能力をもつ。打ち上げ時の全長は120mにもなり、完成すれば打ち上げ能力も機体の大きさも史上最大となる。

また、スターシップもスーパー・ヘヴィも、機体を何回も繰り返し再使用できるようになっており、打ち上げコストは現在の大型ロケットの約100分の1、およそ200万ドルになるという。

スペースXはこの宇宙船を、月や火星への有人飛行や移住に使うことを目指している。米国航空宇宙局(NASA)も期待を寄せており、NASAを中心とした国際共同による有人月探査計画「アルテミス」の、月着陸船の候補として検討されている。

さらに、現在同社が運用中の「ファルコン9」ロケットや「ファルコン・ヘヴィ」ロケット、そして「クルー・ドラゴン」宇宙船などを代替し、通常の人工衛星の打ち上げや、国際宇宙ステーション(ISS)への飛行にも使うほか、地球上の都市間を結ぶ極超音速旅客機としても使用することも考えられている。

とくに、その巨大な機体から生まれる広大なペイロード・ベイ(衛星の搭載区画)をいかして、これまでは打ち上げが不可能だった、巨大なアンテナをもつ通信衛星や、巨大な宇宙望遠鏡、宇宙太陽光発電など巨大な宇宙建造物のモジュールなどの打ち上げに使えると期待されている。

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    スーパー・ヘヴィで打ち上げられるスターシップの想像図 (C) dearMoonプロジェクト

スペースXは現在、スターシップの試作機の開発、飛行試験を行っている。今回のdearMoonの発表と同日の3月4日には、「SN10」という試作機を使った高高度飛行試験に成功している。

参考:スペースX「スターシップ」試作機、飛行試験に初成功 - 実現に大きなはずみ

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    スターシップの試作機SN10。今回のdearMoonの発表と同日の3月4日に高高度飛行試験に成功した (C) SpaceX

スターシップの開発は「非常に順調」、今後の進捗に注目

スペースXは今後、スターシップと並行してスーパー・ヘヴィの試作機の開発や飛行試験も進めるとし、そして早ければ2021年にも、無人のスターシップを地球周回軌道へ打ち上げる試験を行うことを計画している。

そして2023年に今回のdearMoonの飛行、そして2024年にはNASAのアルテミス計画による月面着陸を行うという流れとなる。

また、マスク氏は昨年12月、「早ければ2024年には無人での火星への飛行を、そして2026年には人類初の有人火星着陸を行いたい」とも語っている。

dearMoonプロジェクトについて、スペースXのCEOを務めるイーロン・マスク氏は「dearMoonミッションは、地球の周回軌道の先に人類を連れていく歴史上初めての民間・商用宇宙旅行になります。(民間人が初めて)月の裏側に、いままでより遥かに遠くに行くことになります。きっとその様子にみんな釘付けになるだろうし、あたかも自分が乗組員かのように熱狂してくれると思います」と語っている。

またスターシップの開発状況については、「非常に順調に進んでいます。スターシップは2023年にまでに何回も軌道に到達しているようになっていると思います。有人での安全性も確保できていると思います」という期待を語った。

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    dearMoonプロジェクトについて語る、スペースXのイーロン・マスクCEO (C) dearMoonプロジェクト

もっとも客観的に見れば、スターシップが予定どおり完成するかどうか、そして2023年にdearMoonプロジェクトが実現できるかどうかは、まだわからない。たしかに試作機を使った飛行試験は着実に成果を出しつつあるが、現時点でまだ宇宙に到達すらしておらず、月への飛行や帰還時の大気圏再突入技術などもまだ実証されていない。

その一方で、すでにスペースXや宇宙旅行代理店のアクシアム・スペースは、クルー・ドラゴンを使った民間人による宇宙飛行を計画しており、早ければ今年末にも飛行する予定とされる。クルー・ドラゴンは最大7人までしか乗れないが、設計上は月へ飛行できる能力もある。

こうした中で、dearMoonプロジェクトも今後、その開発状況によっては、クルー・ドラゴンを使う計画に変更する可能性もあるのだろうか。

この問いに対し、dearMoon PR事務局は「スペースXとイーロン・マスク氏からは、『開発は順調です』と報告を受けており、我々もそれを信じています。したがって、現時点でスターシップ以外の宇宙船で行くことは想定していません」と答えている。

また2019年9月12日には、前澤氏が「2023年のdearMoonよりも前に、1回宇宙に行きます。もう少し近場に行きます。英語やロシア語を勉強します。これについては改めてご報告します」と発表している。このもうひとつの宇宙飛行プロジェクトについては、「現時点では非公表となります。発表をお待ちください」としている。

参考文献

dearMoonクルー8名募集中
【月旅行に8名ご招待】dearMoon 前澤友作&イーロンマスク特別インタビュー - YouTube
SpaceX - Starship
SpaceX - Missions: Mars