リモートワークの浸透によって、スーツ離れが加速しているそうだ。しかし、いくらダウントレンドとは言え、スーツが消滅することはありえない。身だしなみとしての必要性はこの先も変わらないし、むしろ着る機会が減ったからこそ、"ここぞ"というときはスーツでビシッと決めたいところだ。

そして春目前のこの時期は、スーツを新調するには最適である。ということで、一度試してみたかったオンラインでのオーダースーツにチャレンジ。今回、利用したのは「スマホで注文できる紳士服オーダーサービス」を提供する三越伊勢丹発の「Hi TAILOR(ハイ・テーラー)」だ。

"密"を避けながら、スマホでスーツなど本当にオーダーできるのだろうか。ちょっとスリリングなその顛末をご報告しよう。

スマホでポチッとオーダー。そのプロセスは……

オーダースーツというと、かつてはなかなか敷居の高いサービスだった。

しかし、最近では紳士服の量販店もオーダースーツに注力し始め、既製品とそう変わらない価格でオーダースーツが作れる時代に変化しつつある。そして、このコロナ禍を克服すべく、オンラインでのオーダーに力を入れるブランドも出始めている。「Hi TAILOR」もそのひとつだ。

トップページからスーツのオーダーページに飛ぶと、「生地から選ぶ」「目的から選ぶ」と選択できる画面に遷移する。今回はビジネスシーンを意識したスーツということは決めているので、ここは「生地から選ぶ」を選択してみよう。

もっとも安価なスーツであれば、3万8500円で仕立てられるらしい。上質生地のオーダーメイドでこの価格であれば、すでにコスパの高さがうかがえるというものだ。

ヒットした生地の種類は87点。かなり広い選択肢のなかから選べそうだ。ずらーっと見てみると、どれも良さそうでなかなか絞れない。ということで「絞り込み検索」をポチッ。予算を6万円台までと決め、カラーをグレーに絞ってみる。

グレーを選んだのは、すでにブラック、ネイビーのスーツを持っているから……という理由と、映画『007』で6代目ジェームズ・ボンドを演じるダニエル・クレイグがカッコよくグレースーツを着こなしているのがとても印象深かったから。

僭越ながら、ダニエル・クレイグのスーツ姿を画像検索でググりつつ、自分にもギリギリ似合いそうな色を見極めていく。……よし、このチャコールグレーに決めた。

そして「パーツをカスタマイズ」ボタンを押すと、肩パッドの有無や襟の形状、ボタンの数、ポケットのタイプ、裏地のカラー、パンツのタックや裾処理などなど、とにかく細かく選ぶことができる。それぞれ「Hi TAILORのイチオシはこれ!」のような目印もついているので、迷ったらそれに従うのもよし。フィット感や着丈などの好みもオーダーできる。

続いてはスマホで自分自身の体型を撮影。これが、「Hi TAILOR」の掲げる「スマホで注文できる紳士服オーダーサービス」の面白さだ。自分自身の身長や体重などのデータは予め入力するので、そのデータとカメラを通じてみた全身のサイズ感を照合し、詳しい数字を導き出すのだろう。写真は、可能であれば親や友人、配偶者などに撮影してもらい、それが難しければ棚や三脚にスマホを設置し、タイマーを使うべし。

初の経験に少しドキドキしながら、何度かの撮り直しを経て完了。特に難しいことはない。

そのほか、気になる点があれば"中の人"(テーラー)に相談もできるのだが、今回はこのまま委ねてみることに。さて、どんなスーツが届くかな。

いざ届いたスーツを着てみた結果は……

期待を不安を抱きながら約3週間後、ついにオーダーメイドのスーツが到着。さっそく着てみると、概ね問題なかった。

ただ、袖の長さだけはちょっと無視できない。拳が隠れるほど袖が長いのだ。裾もやや長いかもしれない。だが、こうした誤差にも配慮してくれているようで、初回のお直しサービスは無料で利用できるようになっている。

一発で完璧なサイジングになれば、もちろんそれが一番いい。しかし、そう簡単にいくのであれば、テーラーたちはみんな廃業である。とりあえず、ハイテーラーの"中の人"に「サイズの修正をお願いします」と連絡を入れてみることに。

返信はすぐにいただけた。丁寧な謝罪とともに、着用写真を送ってほしいとの旨が事細かに書かれている。「ジャケット・スラックスともボタンを留めた状態で、気をつけの姿勢で正面から1枚、側面から1枚、背面から1枚〜」といった具体的な指示に従って撮影し、送信すると……

・ジャケットバスト 2.0センチ大きくします
・ジャケットウエスト 2.0センチ大きくします
・ジャケット袖丈 6.0センチ短くします
・スラックスウエスト 2.0センチ大きくします
・スラックスヒップ 2.0センチ大きくします
・スラックス股下 3.0センチ短くします

と、きめ細やかな回答が送られてきた。さらに、「ウエスト自体もゆとりが多い方がお好みでしたら、ウエストは3.0センチ大きくします」と好みに応じた提案もしてくれている。

せっかくなので、「アームホールは少し大きめでもいいかもしれません。バスト部分も3センチくらい大きくてもいいような印象です。ウエストもゆったりめで、3.0センチ大きくしていただけるとありがたいです」と返信。こうしてスーツを送り返し、再び3週間後……。

なぜ!? 修正後のサイズがピッタリ過ぎる!

調整後のスーツを受け取り、「今度こそ頼むぞ」と祈りつつドキドキしながら実際に着てみると……

ピッタリでビックリ。

袖や裾はもちろん、肩周りや腰回りも以前より体に馴染んでいる。

なぜこんなに上手い具合に修正できたのだろう。"中の人"に尋ねてみると……

「パンツやジャケットボタンを留めたときのシワの入り方、丈の長さなどで、『お直しする箇所』を見極め、『何センチ大きく/小さくするか』は長く店頭でお客さまにサイズ提案をしてきたスタッフが在籍、その知見を体系化し算出しています」

……とのことである。「スマホで注文できる紳士服オーダーサービス」ではあるが、当然、その中にはベテランのテーラーさんたちがいて、彼らの知恵と経験が存分に活かされているのである。

既製品と変わらない値段で、しかも自宅で簡単にオーダーメイドできるのだからとても便利だ。ただし、今回のように修正手続きを経る場合は、最初のオーダーから完成まで6週間くらいはかかるので、時間的な余裕を確保したうえで利用することをオススメしたい。それでも、最初からしっかり"中の人"と細かくサイズ感のすり合わせをしておけば、いきなりジャストフィットのスーツを作ることだってできるのだろう。

人との接触を避けながら、スマホ1台で利用できるハイテーラーのオーダーメイドサービス。スーツの新調を考えているなら、選択肢のひとつとして検討してはいかが?