野村萬斎主演、アガサ・クリスティー原作、三谷幸喜脚本のフジテレビ系スペシャルドラマ第3弾『死との約束』(6日21:00~23:40)。1938年に発表されたイギリスの長編小説を原作に、舞台を“巡礼の道”として世界遺産にも登録されている熊野古道に、時代設定を昭和30年に置き換えている。

この世界観を作る大きな要素であるスタジオセットを手がけたのは、萬斎×クリスティー×三谷の『オリエント急行殺人事件』(2015年)、『黒井戸殺し』(18年)も担当した美術デザイナーの柳川和央氏。そのこだわりや、コロナ禍における工夫などを聞いた――。

  • 『死との約束』の舞台となる「黒門ホテル」のラウンジ

    『死との約束』の舞台となる「黒門ホテル」のラウンジ

■洋風建築に“和”を取り入れる遊び心

今作では都内のスタジオに、物語の舞台となる「和歌山県天狗村」にある「黒門ホテル」のセットを設営。城宝秀則監督から「前回(『黒井戸殺し』富豪・黒井戸の屋敷)とは違うものを」というオーダーを受け、デザインに着手した。

時代設定が昭和30年であることから、昭和初期に建設されたホテルとイメージ。ここで考えたのが、随所に“和のテイスト”を入れるということだ。

具体的には、ロビーとラウンジを仕切る欄間(らんま)に障子を入れ込んだり、階段の小上がりの部分に外国人が喜びそうな床飾りを設置したり、各所に和の飾りを施したりし、ロビーのフロントにあるカウンターは木の彫り物でデザインした。

「明治の洋館はヨーロッパから入ってきたコテコテのクラシック建築が多いんですが、1920年代くらいからどんどん日本的な建築に変わっていくんです。柱や打ちものがいっぱいある感じだったのが、そういうものがなくてスッキリして、木材を大事に使う。例えば、取り壊されたホテルオークラ東京は典型ですね。そんなイメージから、自分なりに遊びを入れようと考え、“和”を取り入れるということをしました」(柳川氏、以下同)

クリスティー×三谷作品の美術セットを手がけるにあたっては、「時代考証的なものをそんなに意識しなくてもいいので、楽しいんです」とのこと。例えば『オリエント急行殺人事件』は、原作では列車から地面まで階段で降車するヨーロッパ式の駅だが、日本式の大きなプラットホームのセットを作った。

海外文学が原作だと、ある種のファンタジーで想像を膨らませることができるそうで、それは、柳川氏が手がけたディーン・フジオカ主演の『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(18年)、『シャーロック』(19年)にも共通する点だという。

さらに、今回のような洋館のセットは「わりと描きやすい」という。「学校とか病院とかだと決まっているものが多いので、いくら考えても同じになっちゃうんです。洋館だと案外、デザイナーとしては遊びやすいんですよね」と腕が鳴った。

■三谷幸喜も「そうですよね!」と納得の2階

外観は、愛知県の蒲郡クラシックホテルで撮影。当初は、ロビー周辺もそこで撮る予定だったが、「セットを作ることが決まっていたラウンジとのつながりがおかしくなるし、スペシャル感もなくなるから、それだったら『ロビーも作りますよ』と僕から言ったんです」と提案した。

また、脚本に1階と2階で会話するシーンがあったことから、実際に2階部分も設営。1階からカメラを上に振って2階を撮れるようにした図面を見た三谷も「そうですよね!」と納得したそうだ。2階までしっかり作り込んだセットは、最近のテレビドラマではあまり見られない大規模なもので、通常の建て込みが3日間程度であるのに対し、今回は5日間もかけている。

そして、より規模感を出すため、ところどころに様々な工夫が施された。一例としては、客室のセットを2つ作っているが、中の配置や一部を入れ替えることで、映像上では4部屋あるように見せている。

さらに、デザインの腕でクオリティをカバー。「監督がすごく素材にこだわる人なので、『今回は質感よりスケール感で見せますから』と話しました。それは、十分にできたのかなと思います」と手応えを語った。