セルフメディケーション税制は、医薬品を買ったときに利用できる制度です。しかし、名前を聞いたことがあっても、どんな医薬品が対象になるのか、また利用するための条件はあるのか、いまいちわかっていない方も多いのはないでしょうか。

そこで今回は、セルフメディケーション税制の対象となる医薬品とその見分け方、そして制度を利用する際の条件や節税が可能かどうかを解説します。

  • セルフメディケーション税制の対象になる医薬品・条件は?

    セルフメディケーション税制の対象になる医薬品・条件は?

セルフメディケーション税制の仕組みとは

セルフメディケーション税制とは、健康維持や疾病の予防のために一定の取り組みを行う人が薬局やドラッグストアで「スイッチOTC医薬品」を1年間に1万2,000円以上購入した場合、1万2,000円を超えた金額が最大88,000円まで所得控除できるというものです。いわゆる医療費控除の特例になります(※1)

セルフメディケーション税制の対象となるのは、1月1日から12月31日までの1年間に購入したスイッチOTC医薬品です。この特例は所得控除になるので、利用した際はその年の所得税の一部が還付され、翌年の住民税が安くなります。お得な制度なので、該当する場合は申請することをおすすめします。

また、セルフメディケーション税制は2017年1月1日から始まり、当初は2021年12月31日に終了する予定でした。しかし、令和3年度税制改正にて5年間延長されることになり2020年12月21日に閣議決定されました(※2)

セルフメディケーション税制を受ける際は確定申告をします。その際、年間10万円以上医療費を支払った場合に受けられる医療費控除との併用はできません。

セルフメディケーション税制の対象になる医薬品

セルフメディケーション税制の対象となる薬品は「スイッチOTC医薬品」ですが、これは医師によって処方される医療用医薬品として使われている成分を含む市販薬のことです。2020年9月30日現在で1,830品目の市販薬が指定されています(※1)

その一部をご紹介しましょう。

  • ロートクリア(目薬)
  • エスタックイブ(総合風邪薬)
  • パブロンSせき止め(鎮咳去痰薬)
  • サロンパスEX(鎮痛消炎剤)
  • 大正胃腸薬S(胃腸薬)
  • ベンザブロックL錠(風邪薬)
  • ニコレット(禁煙サポート)……等

より詳しくは、厚生労働省がセルフメディケーション税制の対象となる市販薬一覧を紹介していますので、そちらをご確認ください。

参照 : 厚生労働省「セルフメディケーション税制対象医薬品 品目一覧(全体版)

対象となる医薬品の見分け方

対象となる市販薬「スイッチOTC医薬品」は、どうやって見分ければいいのでしょうか? その方法は簡単です。薬局やドラッグストアの店頭でもすぐにわかる方法があります。その方法は、共通識別マークの有無です。対象となる市販薬の多くのものには、パッケージに次のような共通識別マークが記載されています(※3)。(マークがない場合もあります)

また、対象のスイッチOTC医薬品の場合、購入した際に受け取るレシートには、たとえば「★」「◆」「セ」といったマークが品名の頭に記載されます。マーク入りのレシートは確定申告に必要ですので、必ず保管しておきましょう(※4)

セルフメディケーション税制の対象となる条件

セルフメディケーション税制は、対象となる市販薬を購入するだけでは利用できません。手続きをするためには、申請する本人もセルフメディケーション税制の対象となる4つの条件を満たしている必要があります。

では、セルフメディケーション税制の対象となる条件を見ていきましょう。

【条件その1】所得税・住民税を納めていること

セルフメディケーション税制は所得控除になる制度です。そのため、実際に所得税や住民税を納めている人が手続きをしないと税制優遇は受けられません。ただ、生計を共にする家族が購入した市販薬も対象になるので、税金を納めている人が代表して申告しましょう。

【条件その2】対象の健康診断等を受けていること

厚生労働省は、セルフメディケーション税制の対象者として「健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人」と定めています。この「一定の取組」とは、以下のものが該当します(※5)

  • 特定健康診査(メタボ検診)
  • 特定保健指導(保健師や管理栄養士が行う生活習慣病予防のサポート)
  • 予防接種、定期接種(インフルエンザ予防接種など。子どもの予防接種は対象外)
  • 勤務先が実施する定期健康診断
  • 健康組合や市区町村が実施する健康診査
  • 市区町村が実施するがん検診や健康診査

以上の取り組みを申請者本人が受けている必要があります。

【条件その3】1年間に購入したスイッチOTC医薬品の合計額が1万2,000円を超えている

1月から12月までの1年間に、対象の市販薬を購入するため実際に支払った金額の合計額が1万2,000円以上である場合、セルフメディケーション税制を受けることができます。その際、合計するのは税込み価格です。

【条件その4】スイッチOTC医薬品を購入したレシートや領収書が保管してあること

セルフメディケーション税制を利用するには確定申告が必要ですが、その際、購入したレシートや領収書を証明書類として使います。また、レシートや領収書には次のような記載が必要です。

  • 商品名
  • 金額
  • 対象の医薬品である旨(★や◆の印など、対象品である記載があること)
  • 販売店名
  • 購入日

対象となる医薬品を購入したときは、常にレシートを保管するようにしましょう。

セルフメディケーション税制による節税は可能か

セルフメディケーション税制は所得控除が受けられる制度です。所得控除とは、ある要件に該当する場合に、年収から必要経費(会社員なら給与所得控除など)を差引いた所得(課税所得といいます)から一定の金額を差引くことができる制度です。

セルフメディケーション税制は、対象の市販薬を1万2,000円以上購入した際、1万2,000円を超える金額が所得控除となって、課税所得から差引くことができます。課税所得は所得税や住民税を計算する際の元となる金額なので、その額を減らすことができれば所得税や住民税を安くすることができるのです。

また、所得税の場合は確定申告をすると、セルフメディケーション税制で所得控除となる金額に相当する税額が還付されます。

確定申告の際には金融機関の口座を記載するので、その口座に振り込まれます。住民税の場合は翌年の6月から反映されるので、セルフメディケーション税制で計算した所得控除に相当する税額分、翌年の住民税が安くなります。

たとえば、東京都在住で年収500万円の人が対象の医薬品を1年間に3万円購入したとします。これでセルフメディケーション税制の計算をしてみましょう。

注)以下はあくまでも目安です。

  • 年収500万円の所得税率 : 20%
  • 住民税率 : 10%
  • 所得税 : (3万円-1万2,000円)×20% =3,600円
    ⇒その年の所得税が3,600円還付されます。
  • 住民税 : (3万円-1万2,000円)×10% =1,800円
    ⇒翌年の住民税が1,800円安くなります。

まとめ

セルフメディケーション税制は、1月1日から12月31日の1年間に、特定の成分を含むスイッチOTC医薬品を薬局やドラッグストアで1万2,000円以上購入した場合、1万2,000円を超す金額が最大8万8,000円まで所得控除される制度です。

ただし、この制度を利用するには、健康診断や予防接種など一定の取り組みをしていることや、購入したレシートや領収書をきちんと保管していること、所得税や住民税の納税者であることなどが条件となっています。

また、利用するには確定申告が必要となり、医療に関するもう1つの制度、医療費控除を同時に利用することはできません。確定申告が必要だというと面倒に思うかもしれませんが、この制度を利用することで所得税の一部が戻ってきますし、翌年の住民税が安くなります。節税効果のある制度なので、該当する場合はぜひ利用しましょう。

参照 :
(※1)厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
(※2)厚生労働省「第1回セルフメディケーション推進に関する有識者検討会 - 議事次第 -
(※3)第一三共ヘルスケア「対象となるOTC医薬品はどこを見れば分かる?
(※4)日本一般用医薬品連合会「知ってトク! するセルフメディケーション税制
(※5)国税庁「No.1134 取組を行ったことを明らかにする書類の具体例