喜怒哀楽は、「彼は喜怒哀楽が激しい」「喜怒哀楽のない平坦な人だ」など、日常会話の中でも使われることが多い表現ですが、ビジネスシーンにおいては使い方を間違えてしまうと相手の気分を害してしまう可能性がある言葉です。
本稿では、喜怒哀楽の意味やビジネスシーンにおいての使用方法、また類語や英語表現を解説します。それぞれの意味をしっかりと理解して使い分けることで、表現力の幅を広げましょう。
「喜怒哀楽」の意味とは
喜怒哀楽とは、人間が持っている様々な感情を表す四字熟語です。喜は喜び、怒は怒り、哀は悲しみ、楽は楽しみをそれぞれ意味しており、これらは人間が基本的に持っている感情であるとされています。
「喜怒哀楽」の語源
喜怒哀楽の語源は、中国の思想・学問である儒学の経典である「中庸」の一説に由来します。この中庸にある、「喜怒哀楽を未だ発せざる、これを中(ちゅう)という。発して皆が節にあたる、これを和(か)という。」という文言が喜怒哀楽の語源です。
中庸では、人間は喜怒哀楽の感情が過剰になったり不足してしまったりすることがあるが、これらの感情を節度を持って保つことが重要であると説いています。
「喜怒哀楽」の「喜」と「楽」の違い
喜怒哀楽の「喜」と「楽」は、両者ともポジティブな感情を表現していますが、それぞれの漢字が意味する感情には微妙な違いがあります。
「喜」は、喜びや嬉しい感情、お祝い事、自分や他者の成功や幸せな経験をした際に伴う感情を指します。「楽」は、人間の欲求が満たされている状態から発生する感情で、心が満たされている状態という意味では「喜」と同じですが、「楽」は愉快な様子を指す漢字です。
「喜怒哀楽」の漢字に「哀」が使われる理由
「哀」という漢字が悲しみを表現する際に使われるのは、「哀」が「悲」という漢字よりも、より強い悲しみを表す意味を持っているからです。「哀」も「悲」も心が痛み泣ける様子を指しますが、漢字の成り立ちに違いがあります。
「悲」は、1つの心が離れ離れになる様子を表すのに対し、「哀」は死者が身につける服の襟に口をつけて泣く様子を表しています。そのため、「哀」の方が人の死などより深い悲しみを表す時に適しています。
読み方は「きどあいらく」
「喜怒哀楽」の読み方は「きどあいらく」です。難しい読み方ではないので、一度見聞きすれば間違えることもないでしょう。読み方を覚えるだけでなく、漢字で書けるようにしておくとより役立ちます。
「喜怒哀楽」の使い方と例文
ここからは、ビジネスシーンにおける喜怒哀楽の使い方や例文を紹介します。喜怒哀楽は人の感情の動きを表す熟語ですので、使い方次第では相手の気分を害してしまう可能性があります。正しい使い方を知りビジネスシーンで活用しましょう。
喜怒哀楽が激しい
「喜怒哀楽が激しい」という表現は、感情面が豊かであること、喜びや悲しみなど自分の気持ちを表現できる人という印象を与えます。その一方で、感情的になり冷静な判断ができない、感情をコントロールできない、子どもっぽいというイメージも抱かれてしまう言葉です。
そのため、「彼は喜怒哀楽が激しい」というような使い方をすると相手を不快な気持ちにさせてしまう可能性があるため、使用する場面には注意しましょう。
喜怒哀楽を出さない
「喜怒哀楽を出さない」という表現は、感情的にならずに判断ができる、物事を客観的に捉えられるという印象を与えます。
一方で、喜怒哀楽を出さないという文で人物を表現すると、何を考えているかわからない人、自分の気持ちを表現できない人という印象を与えてしまう可能性があります。ビジネスシーンで使用する際は、「彼は喜怒哀楽を出さずに冷静な判断ができる」というように、文章を補足するようにしましょう。
喜怒哀楽を見逃さない
「喜怒哀楽を見逃さない」という表現は、相手の感情の動きに機敏に反応できる様子を表します。相手の表情や言動から、考えていることを読み取れる様子を表す場合に使用しましょう。
<例文>
- 仕事において、顧客の喜怒哀楽を見逃さないスキルを身につけることが重要だ
- 彼は、相手の喜怒哀楽を見逃さない鋭さがある
「喜怒哀楽」の類語
喜怒哀楽には様々な類語があります。喜怒哀楽とは他の言い方をすることで、表現を和らげ、会話する相手に良い印象をもたらします。とはいえ類語といっても、それぞれニュアンスが微妙に異なるので、シーンに合わせて使えるように正しい意味を知っておきましょう。
苦楽
苦楽(くらく)はその漢字の意味する通り、「苦しみと楽しみ」を表す言葉です。辛いことや喜びを共有することを「苦楽を共にする」とは言いますが、「喜怒哀楽を共にする」というような使い方はしません。
このことから、喜怒哀楽は主観的な個人の感情の動きを指す言葉であり、苦楽はより客観的で誰かと共有できる事象を表していることがわかります。
哀歓
哀歓(あいかん)は、「哀しみと歓び」を表す言葉です。哀歓も苦楽と同じく、「哀歓を共にした人生」といったように哀しみと歓びを自分以外の誰かと共有する際に使用します。
感情
感情は、人や動物が物事に対して起こる心のあらゆる動きを表す言葉です。喜怒哀楽も感情に含まれます。感情というと、喜怒哀楽よりもより広い意味で人の心の動きを指す表現となりますので、ビジネスシーンでは喜怒哀楽よりも使い勝手が良い言葉です。
例えば、「喜怒哀楽が激しい人」と言うと角が立ってしまう場でも「感情が豊かな人」と言い換えることで表現が和らぎます。
「喜怒哀楽」と似た意味を持つ四字熟語
喜怒哀楽と似た意味を持つ四字熟語を紹介します。日常的に聞き慣れないものもありますが、適切に使い分けられるようになりましょう。
悲喜交々
悲喜交々(ひきこもごも)は、人間の心の中で喜びと悲しみが交じり合っている様子を表す四字熟語です。
喜んでいる人と悲しく辛い思いをしている人が交じり合っている様子ではなく、「昨年は愛犬の死や娘の誕生など、悲喜交々の1年であった」というように、個人の感情の動きを表現するのが正しい使用方法なので注意しましょう。
嬉笑怒罵
嬉笑怒罵(きしょうどば)は、喜び笑うこと、怒り罵ることを表す四字熟語です。怒り罵るという意味が強いこの四字熟語は、喜怒哀楽よりも激しい感情の動きを表しているといえます。
機嫌気褄
機嫌気褄(きげんきづま)は、機嫌と気褄という人間の気分を意味する言葉を並べた四字熟語です。人の気分を表すという点では喜怒哀楽に近い意味がありますが、その用法が異なります。
「機嫌気褄を取る」というように使用されることが多く、相手の気分をうかがう、ご機嫌を取るという意味があります。自分の感情の動きを表している喜怒哀楽とは異なり、相手の感情の動きをうかがう言葉と言えます。
「喜怒哀楽」の英語表現
喜怒哀楽を英語で表現する際に使用できる単語や、その用法について例文を交えて紹介します。日本語の喜怒哀楽と全く同じ意味の英単語はありませんが、それに近い表現がありますので覚えておきましょう。
emotions
「emotions」は、心を揺さぶるような感情や感激を表す表現です。喜怒哀楽のように字から連想できる表現ではありませんが、激しい感情を意味するという点では共通するものがあります。
また、英語で表現する時は名詞の「emotions」よりも、形容詞の「emotional」を使用することが多いです。
<例文>
- He is very emotional person. 彼は喜怒哀楽が激しい人だ。
feelings
「feelings」も「emotions」と同様に感情や気持ちを表す名詞です。「emotions」とは異なり、感覚や印象を意味する英語表現でもあります。
「emotions」は心が揺さぶられるほどの強い感情を表すのに対して、「feelings」はそのニュアンスが異なり、あまり強くなく、より一般的な意味での気持ちを表す表現です。
<例文>
- I hurt his feelings. 私は彼の気持ちを傷つけた。
mood
「mood」は、機嫌や気分、その時の気持ちや雰囲気を表す英語表現です。機嫌や気分といった人間の心の動きを表すという意味で「emotions」や「feelings」との共通点はありますが、「mood」は一時的な気分や雰囲気といった限定的な意味で使われることが多いのが特徴です。
<例文>
- She is in a good mood today. 彼女は今日、機嫌がいい。
「喜怒哀楽」の意味や使い方を理解しよう
今回は、喜怒哀楽の意味や用法を類語や英語表現も含めて紹介しました。喜怒哀楽は幅広く使われている言葉ですが、ビジネスシーンで使用する際は、用法によっては相手の気分を害してしまうことがあるので注意が必要です。
喜怒哀楽の正しい意味や用法を理解した上で、ビジネスシーンでのコミュニケーションをより円滑なものにしましょう。