給与所得者の所得税を計算するときに、給与等の収入金額全額が課税対象になるわけではありません。まずは給与所得控除を差し引いて給与所得を算出します。しかし、給与等の収入額によって、給与所得控除額の算出式が異なりますので、戸惑ってしまう人も多いでしょう。
給与所得控除の金額や給与所得額などを算出するための手続きは、通常は給与所得者なら年末調整で手続きが可能です。ただし、年末調整で手続きできない場合は、確定申告することで、さまざまな控除を受けられます。
本記事では、「そもそも給与所得控除とは何なのか」という点から、実際の手続き方法についても紹介します。そのほか、給与所得控除以外の控除についても紹介しますので、年末調整・確定申告の際の参考にしてください。
給与所得控除とは
給与所得控除とは、会社員や公務員などの給与所得者を対象に適用される控除のこと。控除額は収入額に応じて変動し、収入が増えるにつれ、控除額が増加しますが、ある一定の金額で控除額の上限が設けられています。
給与所得者の所得税や住民税を求めるにあたっては、給与等の収入額から、これを控除したものが課税対象になります。
給与所得の計算方法
源泉徴収される前の収入金額から、給与所得控除額を引いたものを「給与所得」といいます(※1)。
<給与所得の計算式>
- 給与所得の金額=収入金額(源泉徴収される前の金額)-給与所得控除額
先ほど給与所得控除額は収入額に応じて変動すると書きましたが、令和2年分以降の控除額は以下の表をもとに算出できます(※2)。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
---|---|
162万5,000円まで | 55万円 |
162万5,001円~180万円まで | 収入金額×40%-10万円 |
180万1円~360万円まで | 収入金額×30%+8万円 |
360万1円~660万円まで | 収入金額×20%+44万円 |
660万1円~850万円まで | 収入金額×10%+110万円 |
850万1円以上 | 195万円(上限) |
ただし、給与等の収入金額が660万円未満の場合には、上記の表にかかわらず、「所得税法 別表第五(年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表)(※3)」によって給与所得控除額を算出します。
これは、給与等の収入金額を当てはめると、計算せずとも給与所得控除後の金額を出すことができる表です。そのため、上記の表で算出した金額とは若干の違いが生ずる場合があります。
「給与所得の計算方法」については、この記事でくわしく説明しています。
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給与所得者に認められる「特定支出控除」とは
給与所得者が下記の費用のうち一定の要件を満たす特定支出をし、かつそれが給与所得控除額の2分の1を超える場合には、確定申告を行うことで、超過金額を給与所得控除後の金額から差し引くことができます(※4)。
これを、給与所得者の特定支出控除といいます。
<特定支出の対象となる7つの費用>
- 通勤費
- 職務上の旅費
- 転居費
- 研修費
- 資格取得費
- 単身赴任者の帰宅旅費
- 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等、上限65万円)
なお、特定支出控除の申告には領収書などの明細書が必要です。
給与所得控除と所得控除の違いは?
給与所得控除と所得控除は名前が似ているため混乱しやすいですが、両者は異なるものです。
給与所得控除が、無条件に年収から差し引かれる控除であるのに対し、所得控除は、一定の条件下において、納税者の個人的な事情を加味して税負担を調整するものとなります。
なお、所得控除の種類は以下の通り(※5)。
<所得控除の種類>
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦(寡夫)控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
給与所得控除の手続き方法
基本的に、給与所得控除の手続きは年末調整で行いますが、下記に当てはまる場合には確定申告が必要です。
<給与所得者が確定申告を行うべきケース(※6)>
- 給与の年間収入金額が2,000万円超の場合
- 1カ所から給与をもらっていて、給与所得・退職所得以外の所得合計額が20万円超の場合
- 2カ所以上から給与をもらっていて、給与のすべてが源泉徴収の対象であり、年末調整されなかった給与の収入金額と給与所得・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円超の場合
上記の場合には、確定申告することで納税額が確定しますので、忘れずに対応しましょう。
1. 年末調整で手続きする場合
給与所得者は通常、年末調整で「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」を提出することで、手続きを行います。記入例は下記の通りです。
基礎控除や配偶者控除など他にも記入が必要な部分がありますので、当てはまるものは必ず記入し提出してください(※7)。
2. 確定申告で手続きする場合
副業をしている場合など、給与所得者でも確定申告が必要な場合には、必ず確定申告を行いましょう。記入例は下記の通りです。
確定申告はe-Tax(※8)でも手続きできますので、自宅からでも申告できます。詳しい手順については「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」を確認して、必要な内容を申告してください。
確定申告書AとBの違い
確定申告を書面で行う場合、確定申告書AとBとがあり、慣れていないとどちらを使えばいいのかわかりません。違いを簡単に紹介します。
-
確定申告書A
給与所得や公的年金等・その他の雑所得、総合課税の配当所得、一時所得のみ -
確定申告書B
所得の種類を問わない
自分の所得の内容に合う確定申告書を選んで申告しましょう。
年末調整や確定申告で同時に申告しておきたい所得控除の概要
所得控除の要件に当てはまる場合、給与所得など各種所得の合計額から所得控除の額の合計額を差し引くことが認められています。
所得税額は、所得控除後の金額を基礎として計算しますので、該当する所得控除があれば必ず申告しておきましょう。代表的な所得控除を紹介していきます。
基礎控除
基礎控除は所得税額の計算をする場合、総所得金額などから差し引ける控除です。合計所得金額によって控除額が異なります(※9)。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
令和2年分から金額が変更になっていますので、間違えないよう注意してください。
配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除
扶養家族がいる場合には、配偶者控除(※10)や配偶者特別控除(※11)、扶養控除(※12)などの申告も行いましょう。
配偶者控除・配偶者特別控除に関しては、本人や配偶者の年齢や所得によって、控除額が異なります。また、扶養親族に該当する範囲も、納税者と生計をともにすることなどの規定がありますので、該当範囲を確認して申告しましょう。
生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛け金控除
保険料や共済掛け金などを支払っている場合、保険料控除をうけられます。生命保険料控除と地震保険料控除には控除額の上限がありますが、社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除の控除額は、その年に支払った掛金の全額です(※13)(※14)。
合計するとかなり大きい金額になりますので、忘れずに申告しましょう。
その他の控除
それ以外の控除を利用する場合、基本的には確定申告が必要です。しかし、ふるさと納税で「ふるさと納税ワンストップ特例」の申請書を提出している場合など例外もあります(※15)。控除の種類によって必要な手続きや書類が異なるので、よく確認して手続きしてください。
給与所得控除関連の令和2年分からの変更点
法改正があったことで、令和2年分から給与所得控除関連でいくつかの変更点が発生していますので、主な変更点を紹介します(※16)。
給与所得控除が引き下げられた
給与所得控除の金額は、令和2年分から減額されています。これまでは給与の収入金額に応じて65万円から220万円だったのが、55万円から195万円に変更されました。ほとんどの所得で10万円引き下げられている点が最大の違いです。
基礎控除が引き上げられた
給与所得控除が引き下げられた代わりに、基礎控除は38万円から48万円へ引き上げられています。ただし、年間の合計所得金額によっては減額されています。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 控除なし |
所得が多い人ほど控除は少なくなるよう制度が変更されました。
所得金額調整控除が創設された
子ども・特別障害者等を有する給与所得者に対して、所得金額調整控除が新設されました。その年の給与の収入金額が850万円を超える人が対象で、下記のいずれかに当てはまる場合が対象です。
- 所得者本人が特別障害者
- 同一生計配偶者が特別障害者
- 扶養親族が特別障害者
- 扶養親族が年齢23歳未満(平成10年1月2日以後生)
控除額は(給与の収入金額-850万円)×10% で、最高15万円です。
提出書類が変わった
控除される金額や内容が変わったことから、年末調整で提出する書類が変更されました。新設された書類は「給与所得者の基礎控除申告書」「所得金額調整控除申告書」の2種類で、その年最後の給料日の前日までに、雇用主に提出することが必要となっています。
配偶者控除・扶養控除などの要件が変更になった
配偶者控除・扶養控除など、親族を扶養に入れるための所得要件が変更になり、10万円引き上げられました。また、配偶者特別控除の対象となる配偶者の所得要件も変更になっています。申告し忘れやすい点なので、注意しましょう。
令和2年分から変更になった給与所得控除について理解して正確に申告しましょう
給与所得者がその年の所得を把握するうえで、給与所得控除の金額は押さえておきたいポイントのひとつです。
給与所得控除の金額は55万円から195万円までであり、給与等の収入金額によって計算式が異なります。年末調整で手続きする場合、申告の様式も変更になっていますので、書き方に注意しましょう。
また、一定の要件を満たす特定支出をした場合には確定申告により給与所得控除後の金額から超過金額を差し引けるようになりました。さらに、基礎控除の金額や配偶者控除の要件など、令和2年分から変更になっている点が多いですので、年末調整や確定申告で間違えないよう注意することが大切です。
変更になっていることから確定申告や年末調整で戸惑うかもしれませんが、疑問点は一つひとつ解消しながら、正確に申告していきましょう。
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参照 :
(※1)国税庁「No.1400 給与所得」
(※2)国税庁「No.1410 給与所得控除」
(※3)e-Gov「所得税法 別表第五(年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表)」
(※4)国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」
(※5)国税庁「No.1100 所得控除のあらまし」
(※6)国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
(※7)e-Tax(国税電子申告・納税システム)
(※8)国税庁「年末調整がよくわかるページ」
(※9)国税庁「No.1199 基礎控除」
(※10)国税庁「No.1191 配偶者控除」
(※11)国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
(※12)国税庁「No.1180 扶養控除」
(※13)国税庁「令和2年分 給与所得者の保険料控除申告書」
(※14)国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」
(※15)国税庁「「ふるさと納税ワンストップ特例」の申請書を提出された方へ」
(※16)国税庁「昨年から変わった点」