現在の国内新車販売において軽自動車は全体の3割以上を占めている。この中でも一番人気が、1700mmを超える車高に後席スライドドアを備えた「スーパーハイトワゴン」と呼ばれるタイプの車で、ホンダの「N-BOX」が絶対王者として君臨している状態だ。

「SD戦争」と言われるように、軽自動車全体の売り上げではスズキとダイハツは激しく首位を競っているが、モデル単体ではホンダ「N-BOX」に及ばない。2社は様々なバリエーションモデルを繰り出して「N-BOX」の追撃態勢に入っていたが、その「N-BOX」が昨年12月にマイナーチェンジを行った。果たしてこれが吉と出たか凶と出たか?一般社団法人 全国軽自動車協会連合会が発表した2021年1月の新車販売における人気車種トップ15を紹介しよう。

2021年軽自動車人気車種、1月トップ15

順位 ブランド通称名 ブランド名 販売台数
1 ホンダ N-BOX 16,369
2 スズキ スペーシア 12,989
3 ダイハツ タント 11,792
4 ダイハツ ムーヴ 8,837
5 日産 ルークス 8,626
6 スズキ ハスラー 7,663
7 ダイハツ ミラ 5,642
8 日産 デイズ 5,586
9 ダイハツ タフト 5,273
10 スズキ アルト 5,104
11 スズキ ワゴンR 4,784
12 ホンダ N-WGN 4,324
13 スズキ ジムニー 3,887
14 三菱 eK 2,581
15 ホンダ N-ONE 2,434

※通称名については同一車名のものを合算して集計(アルト、ミラ、ムーヴ、タント、eK、プレオ、N-BOX、デイズ、ピクシスなど)
例)デイズルークスはデイズとして、2020年3月発売のルークスについてはルークスとして集計

1位:ホンダ「N-BOX」

登録車を含む国内販売台数は4年連続、軽自動車では6年連続でNo.1という、日本で一番売れている車がホンダの「N-BOX」だ。圧倒的な人気を持つスーパーハイトワゴンというジャンルの1台だが、ライバルと異なる最大の特長はホンダの特許技術「センタータンクレイアウト」。これは一般的に後部床下にある燃料タンクを前席床下に配置したもので、ただでさえ広いスーパーハイトワゴンの後席や荷室の上下スペースを極限まで拡大し、簡単に27インチの自転車を積むことも可能にしている。

また、内外装やシートも一クラス上のクオリティが与えられているほか、安全性能も全タイプに先進の「Honda SENSING」を標準装備。小さな軽自動車であっても、今や「N-BOX」はホンダを代表する看板モデル。それに相応しい仕上がりを見せている。

  • ホンダ「N-BOX」

    ホンダ「N-BOX」

2位:スズキ「スペーシア」

ホンダ「N-BOX」に続く2位はスズキのスーパーハイトワゴン「スペーシア」。2017年からの2代目からは、スーツケースをモチーフにした、丸みを持つスクエアなデザインになった。コンセプトが“ザ・かぞくの乗りもの”であるように、使いやすく広いスペース、マイルドハイブリッドによるパワーと省燃費性能、そして「スズキ セーフティ サポート」という先進の安全技術も装備。

ファミリー向けなデザインのベーシックモデルとは一転して、シャープで押し出しの強いフロントグリルを備えた「スペーシア カスタム」や、同社の「ジムニー」や「ハスラー」などのラインに加えられるSUV風の「スペーシア ギア」というバリエーションも加わっている。

3位:ダイハツ「タント」

ダイハツ「タント」は、スーパーハイトワゴンのパイオニアとも言えるモデル。最大の特長は、左側の前後ドア間のピラーを排して大開口とした「ミラクルオープンドア」と、前席ロングスライド機構による「ミラクルウオークスルーパッケージ」など、乗り降りや車内の移動が非常に優れている点だ。

4代目となる現行モデルでは、ダイハツ版の「TNGA」と言える「DNGA」を導入したことで車体性能も大幅に向上。衝突回避支援や運転負荷軽減など、17種類の予防安全機能を備えたスマートアシストも装備している。

  • ダイハツ「タント」

    ダイハツ「タント」

4位:ダイハツ「ムーヴ」

ダイハツの中で長い歴史を持つ「ムーヴ」は、同社のスーパーハイトワゴン「タント」ほどの広大な室内スペースやギミックは持たないものの、デザインや安全性、走行性能など、軽自動車としての基本的なバランスを重視して設計されたスタンダードのトールワゴンだ。

ベーシックモデル以外にも、細部を徹底的に鍛え上げた「ムーヴ カスタム」や、VWバス風で2トーンカラーの愛らしいボディを持つ「ムーヴ キャンバス」もラインアップされている。

  • ダイハツ「ムーヴ キャンバス」

    ダイハツ「ムーヴキャンバス」

5位:日産「ルークス」

売れ筋のスーパーハイトワゴンというジャンルに日産が投入したモデルが「ルークス」。自社のベストセラーミニバン「セレナ」で好評だった「ハンズフリーオートスライドドア」や「スマートシンプルハイブリッド」に加え、「プロパイロット」を始めとした日産の先進技術も装備されている。

「ルークス」に搭載されるエンジンは日産が新設計したノンターボとインタークーラーターボの3気筒で、マイルドハイブリッドを組み合わせてパワーと低燃費性能を向上させている。

マイナーチェンジはひとまず成功した「N-BOX」。強さの秘訣はホンダのDNAにあり!

マイナーチェンジ後も「N-BOX」の強さは健在で、ライバルの「スペーシア」や「タント」に付け入る隙を見せない結果となった。軽自動車を主業とするスズキやダイハツにしてみれば歯がゆいはずだが、同じ軽自動車の規格内で作られた車なのに、なぜ「N-BOX」はここまで支持されるのだろうか?

もともとホンダは戦後に自転車用の発動機「Fカブ」から始まり、オートバイ製造やレース参戦を経て、四輪車に進出した。1960年代からはF1にまで参戦するようになり、二輪・四輪の世界最高峰レースで無敵のメーカーとして認知されるようになった。

その技術は「NSX」や「S2000」などの高性能市販車にフィードバックされた。バブル崩壊以後はスポーツカーを縮小してミニバンや小型車を主軸としたが、ここでも「オデッセイ」や「ステップワゴン」などの名車を生んでいる。レースだけでなく、どんな分野でも創意工夫で勝利することがホンダのDNAであり、この挑戦の歴史で積み重ねたものが小さな「N-BOX」にも活かされているはずだ。

もちろん、ライバルのスズキも高性能のオートバイを作り、軽自動車以外にも優れた小型車を作る実力を持っている。ダイハツも親会社のトヨタにとっては欠かせない技術力がある。しかし、単独でF1に参戦して勝利したり、ロボットやジェット機にまでは手を出していない。あくなき挑戦を続ける企業=ホンダという強いブランドイメージも、ユーザーにとっては大きな魅力なのだろう。