コロナ禍で、密を避ける移動手段として注目を浴びている自転車。とはいえ、筆者の暮らす札幌では雪の降り積もる冬に自転車を乗る習慣はなく、それでも自転車で雪道を走っていたと記憶しているのは郵便局の配達員か新聞配達の人くらいでしょうか。
ところが数年前から冬の札幌でも日常的に自転車に乗っている人を見かけるようになり、今年に入ってからは、さらに冬のサイクリストが増えていてビックリ。
果たして雪国の冬に自転車はアリなのか? 市内にある「南風自転車店」で冬の札幌を自転車で巡る観光ツアーを行っていると知り、早速体験してきました。
歩くよりも滑らない
ツアーで使用しているのは、ファットバイクと呼ばれるタイヤ幅が通常の2倍くらい太い自転車。そこにさらにスパイクピンが埋め込まれています。本当にこれだけで雪道を走っても滑らないのでしょうか。
ツアーは朝8時30分に自転車店の前からスタート。当日の気温は氷点下、路面は2月に入って雪解けが進んだところに大雪が降り、それが凍っているのでガタガタ&ツルツル。滑らない冬靴でも気を抜いたら転倒するような状態です。
初めての冬チャリに不安を抱え、恐る恐るペダルをこぎ出してみると、これが驚くほど路面にタイヤの力が加わる、加わる。
夏場に乗るよりもややペダルが重い感じはしますが、歩きだと思わず力が入ってしまう氷の路面でも滑らずにスイスイと進んでいくから不思議です。これ、地味に歩くよりもラクかも。
自転車だと街中を自由に散策できる
店長である有森さんは参加者に合わせて柔軟にツアー内容を企画しており、普段は北海道外や海外からの観光客向けにもう少し一般的な内容ですが、今回は札幌市民が参加ということで、とってもディープに。
札幌に40年近く暮らしている筆者ですが、知らなかったことが続出し、巡るほどに札幌という街がどういう歴史をたどってきたかが浮き彫りになっていきます。
この日巡ったスポットは全部で16ケ所。詳しくはぜひツアーに参加して聞いてもらいたいので割愛しますが、日露戦争や第二次世界大戦の沖縄戦などに北海道から多くの人が出兵していたのは初耳でした。
北海道は明治以降に開拓されたことから歴史が浅いといわれます。ですが、実は今の日本の礎となっている近代史において北海道が担ってきた役割が少なくないことに気付かせてくれるツアーでした。
ちなみに童謡「どんぐりころころ」の作曲者が札幌出身で、すすきのから近い小学校横に歌碑と作曲者の胸像があることも、恥ずかしながら初めて知りました。
そうした知識が広がるだけでなく、自転車なので、住宅街の中道や北海道大学の構内などを自由に駆け巡ることができるのも魅力です。観光スポットを巡りながら、日常の風景も堪能できるので、流れゆく景色がすべて新鮮。
出発からお店の前に戻るまでの約4時間はあっという間に過ぎていきました。
冬の運動不足解消にもうれしい
真っ白な雪道は天気が良い日だと細かな段差が見えにくく、当日は持参した偏光サングラスも大活躍。なによりファットバイクの太いタイヤは15センチくらいの雪の段差でもなんなく乗り越えられて、ちょっとした坂も滑ることなくグングン登っていくのがすごい。
約13kmの小旅行は雪道だというのを忘れるくらいの走りを楽しませてくれて、コロナ禍と冬の出不精で運動不足になっていた体に心地よい疲労感と存分な満足感を味わわせてくれました。
有森さんは熊本出身で、「観光については、自分が札幌に来た時に驚いたことを、北海道に来る人に伝えている感じです。北海道では冬の自転車は危ないからダメという昔からの認識が今も浸透していますが、雪道を走るために設計された自転車があるということをこのツアーを通じて知ってもらい、冬の交通手段として考えてもらえるようになったら」と言います。
滑ったりすることなく、驚くほどの安定感がある雪道での自転車体験。アリか、ナシかでいうと、個人的には断然アリ。来年の冬には、自分のファットバイクを手に入れて、これまで知らなかった冬の札幌を探しに行こうと思います。
取材協力・監修:南風自転車店
札幌市豊平区豊平4条7丁目3-14