「人はパンのみにて生くるにあらず」とは、新約聖書の一節。物質的な満足だけでなく、精神的な満足を得られてこそ充実した人生を送れるということ。
ひらたく言えば、「働きがい」になるだろう。しかし、働きがいのある会社であるかどうかを判断するのは簡単なことではない。
世界約60ケ国で働きがいのある会社のアンケート調査を実施しているGPTW(Great Place to Work)の「2021年度働きがいのある会社ランキング」発表内容を紹介したい。
日本における「働きがいのある会社」に160社を認定
GPTWは米国発のグローバル法人。世界約60ケ国で働きがいのある会社についてのアンケート調査を実施し、結果をランキングとして発表している。
だが、ひと口に「働きがい」と言っても価値観は人それぞれ。感覚の世界をランキングにするのは難しい。この点について、同日本法人の代表である荒川陽子氏がこう説明した。
「GPTWグローバルで統一された評価ガイドラインに則り、厳正なプロセスで実施しています。特徴は、『働きがいのある会社』のモデルを定義し、それに基づく働く人のアンケートと会社のアンケートの2つの側面からランキングの評価を行っていることです」。
実際、同日本法人ではこうした手法のもとでエントリーした462社に対してアンケートを実施。大規模部門(従業員1,000名以上)、中規模部門(従業員100~999名)、小規模部門(従業員25~99名)の3カテゴリーに分け、ランキングと共にベストカンパニー160社を発表した。
内訳は大規模部門で25社、中規模部門で65社、小規模部門で70社になった。
6つの指標によるアンケートでデータの信頼性を担保
まず興味を引かれたのは、このランキングの公平性を担保するエビデンスだ。この点についても、荒川氏が次のように説き明かした。
「昨年度まで働きがいのある会社の定義として、従業員とマネジメントとの間にある『信頼』、会社として大事にしている『価値観』、『リーダーシップの有効性』、『イノベーション』、『財務的成長』の5項目を指標にしていましたが、今年度からさらに『人の潜在価値の最大化』を指標に加えました」。
確かに、すべての働く人にとって会社が働きがいのある場になるためには、従業員1人ひとりが持てる能力をフルに発揮できる環境を用意することも重要なファクターになる。加えて、働く人の声だけでなく、会社に対してエンゲージメントを高めるための取り組みをヒアリングしていることも、データの信頼度を高めていると言える。
大規模部門と小規模部門の会社で、改善傾向に格差
発表会では2020年度と2021年度のデータを比較。コロナ禍における変化についての考察も行われた。
「全体的にスコアは大きく改善しています。特に、大規模部門では87.9%の会社が改善傾向にあると評価されました。一方で、小規模部門では47.1%が改善傾向にあるとされましたが、低下傾向にあるとされた会社も37.1%になりました」(荒川氏)。
原因として考えられるのは、今回のコロナ禍の影響だ。大手企業では比較的に財務基盤がしっかりしていることから、コロナ禍でも数年前から取り組んでいる働き方改革をさらに推し進めることができた。
しかし、小規模部門の会社では業績の悪化を受け、取り組みが後退したということだろう。『寄らば大樹』という考え方も、あながち間違いではないのかもしれない。
さらに、荒川氏は改善内容を細かく分析した。
「改善項目を詳細に見ると、緊急事態宣言によるテレワーク等の推進で、『働く環境』や『労働環境の安全・衛生的』といった設問が向上したほか、コロナ禍で情報発信が積極的に行われたことから『経営・管理者層が重要事項・変化を伝えている』も改善項目のトップ5に入りました」。
「総合的な働きがい」の低下はコミュニケーション不足から
今回の発表で、こうした大規模部門と小規模部門の格差とともに気になったのが、全体的にスコアが大きく改善した一方で、「総合的な働きがい」の設問が低下したことだ。
「『総合的な働きがい』の設問は、全体で-0.2ポイントと今回の調査で唯一マイナスになりました。そこで、この設問の上位群30社と下位群30社のアンケート結果をさらに分析したところ、上位群は経営・管理者層への『信用』と、従業員への配慮ある『尊重』が特に高いことが分かりました」(荒川氏)。
全体的なスコアの改善と「総合的な働きがい」の結果が乖離したのは、経営・管理者層と従業員層とのコミュニケーション不足に原因がありそうだ。コロナ禍による不透明な経営環境の中で、経営・管理者層の考え方がわからず、そのまま働くことに不安を感じた結果だろう。
ともかく、働きがいのある会社で力を発揮したいと思うのは、我々ビジネスパーソン共通の願い。こうした調査ランキングの分析から、自分にとって働きがいとは何なのかを見つめ直し、人生をより充実させるきっかけになれば幸いだ。