ホンダはコンパクトSUV「ヴェゼル」をフルモデルチェンジして2021年4月に発売する。新型ヴェゼルの事前取材で驚いたのは、見た目からして大幅な変更が加えられていることだった。いまだに毎月数千台が売れているヴェゼルだけに、キープコンセプトもあり得るのではないかと思ったのだが、なぜホンダはヴェゼルの大変身に踏み切ったのだろうか。
あえての大幅刷新、その理由とは
「今回は、あえてベースモデル(現行型ヴェゼル)のフルモデルチェンジであるというところは意識せず、今の世の中で、世界中のお客様に喜んでもらう商品にするためには、どうあるべきかを考えた」。新型ヴェゼルの開発責任者を務めたホンダ 四輪事業本部 岡部宏二郎さんは事前取材でこう語った。安くて優れた商品があふれる今の時代、機能やスペックだけを追い求めてもユーザーに選んでもらうのは難しいとの観点から、新型ヴェゼルではホンダのブランド価値を再確認し、ユニーク、カジュアル、スマート、素朴、誠実といったイメージを同社のヘリテージと位置づけ、そこに先進安全や環境性能などの新しさをプラスしてクルマ作りを進めたという。
新型ヴェゼルのターゲットユーザーには「ジェネレーションC」を設定。岡部さんによればC世代は年代や性別で区切るのではなく、今の時代にふさわしい新しい価値観を持ったユーザー層を想定しているとのことだった。
グレードは「G」「X」「Z」「PLaY」(プレイ)の4種類。Gはガソリンエンジン車(1.5L)で、ほかは2モーターのハイブリッドシステム「e:HEV」を搭載する。XとZの差としては、Zのほうにハンズフリーのパワーテールゲート(荷物を積む際に開閉するリアゲートが電動)、シーケンシャルターンシグナル、後席の居住性が高まるリアのUSB/エアコンが標準装備となるそうだ。e:HEVではDレンジ、Bレンジ、減速セレクターでアクセルオフ時の減速の強さを調整できるとのこと。先進の安全運転支援システム「Honda Sensing」(ホンダセンシング)は全グレードで標準装備となる。
時代の先を行くのが「ヴェゼル」の身上
外観も中身も大きく変わったヴェゼル。とはいえ、現行型は2019年に国内SUV販売台数No.1に輝いた人気車種だし、大きく変えるとファンが離れてしまうという不安もありそうなものだ。そのあたりをホンダはどう考えているのか。商品ブランド部の池田祐介さんに聞いてみた。
――ヴェゼルはいまだに売れていると思うのですが、思い切ったモデルチェンジですね?
池田さん:現行型は今でも月間2,600台くらい売れているので、発売から7年が経っていることを考えると、まだまだご好評をいただけていると思います。
――だとすると、キープコンセプトというやり方もあったと思うのですが。
池田さん:確かに、デザインを含め新型ヴェゼルは大きく変わっています。
その理由のひとつは、SUV市場の特性です。SUV市場は急速に販売台数を伸ばしていますが、そのお客様には新しいものがお好きな方が多く、メーカー間の乗り換えも盛んなんです。
現行型ヴェゼルも発売当初はかなり新しくて、「何これ?」と思われた方もいらっしゃったはずです。新型についても、ボディと同色のグリルを採用するなど「何だこれ?」と思われる部分はあるかもしれませんが、評判がいいからといって現行型を踏襲してしまうと、1年後、半年後には「古い」と思われてもおかしくありません。新型ヴェゼルでは時代の先をゆく新しさを目指し、グリルやシルエットなどを刷新しました。
ただ、デザインは現行型に比べ変わっていますが、取り回しのしやすいサイズ感であるにもかかわらず、室内空間は同クラスだと他社を圧倒しているという現行型の強みはしっかりと踏襲しています。スタイルと室内空間は通常、相反する要素なのですが、それらを高次元で両立しているのがヴェゼルの強みです。
――2モーターのハイブリッド「e:HEV」は、小型車「フィット」などで好評を得ているものを搭載したんですね。
池田さん:現行型もガソリンエンジンとハイブリッドをラインアップしていますが、e:HEVを積むのはヴェゼルとしては今回が初めてです。ただ、フィットのシステムをそのまま載せているのではなく、新型ヴェゼルに最適化しています。
――ハイブリッドではアクセルオフ時の減速の強さが調整できるそうですね。
池田さん:現時点でどこまでお話ししていいのか難しいのですが、いわゆる「ワンペダルライク」なブレーキについては、かなりいいものに仕上がっています。セレクターで減速力を細かく調整できますし、フィットよりもさらに進化している部分だと思います。
――現行型ヴェゼルが発売となった2013年と今では、市場環境が大きく変わっています。市場自体のボリュームは大幅に拡大していると思いますが、ライバルも増えました。
池田さん:現行型の発売当時、ライバルとしては日産自動車さんの「ジューク」があったくらいでした。トヨタ自動車さんの「ヤリスクロス」はもちろん、「C-HR」もなかったんです。ただ、ヴェゼルのポテンシャルは十分にありますので、現行型と同等、ないしはそれ以上のご好評をいただければと思います。
――まだ発表になっていませんが、価格も重要だと思います。このセグメントでは、変な値段を付けてしまうと購入検討リストにも入れてもらえないという仕儀に陥りかねないので。
池田さん:おっしゃる通りです。売価競争力は現行型の強みだったと思っていますので、新型では2モーター化やホンダ センシングの標準化などがありますが、同じくらいといいますか、きちんとお客様に納得していただけるような設定にしたいと思っています。