所得税算出の基準となる給与所得控除後の金額は、給与収入から給与所得控除額を差し引いた金額です。明細を見ても給料と所得に記載されている金額が違っており、違いが何なのかよく知らない人もいると思います。本記事では、給与所得控除後の金額について紹介していきます。
「給与所得控除後の金額」とは
「給与所得控除後の金額」とは、給与収入から給与所得控除額を差し引いたものになります。
会社勤めをしている給与所得者は、勤務に伴う必要経費の概算控除として、給与等の収入金額に応じて「給与所得控除」が認められています。それぞれの金額は、勤務先から交付される「給与所得の源泉徴収票」で確認できます。
「給与所得の源泉徴収票」で自分の年収や所得、所得控除の内容など、支給額や所得税に関わる内容が確認できます。一つずつ詳しくみていきましょう。
■給与所得
給与所得とは、勤務先から受ける給料や賞与などの収入金額から給与所得控除を差し引いた金額です。給与収入からは事業所得などのように必要経費を差し引くことができない代わりに、所得税法で定められた給与所得控除額を給与等の収入金額から差し引いて算出されます。支給されている手当も、原則として給与所得に含まれます。
例えば、以下が給与所得に含まれます。
- 残業手当
- 休日出勤手当
- 職務手当
- 地域手当
- 住宅手当
- 家族手当
ただし、一定金額以下の通勤手当や必要経費としての出張旅費、一定額以下の宿直手当など非課税になる手当もあります。
■支払金額
支払金額とは、支給された給料や賞与、手当などの合計額のことで、年収にあたる金額のことです。商品を低価格で譲り受けたり、不動産を低価格で借りたり、金銭を低利息で借りたりした場合の経済的利益も現物給与として収入に含まれますが、課税上の給料とは取扱が異なります。
■給与所得控除
給与所得控除とは給与等の収入額から給与所得を算出するときに、収入金額に応じて差し引かれる金額のことです。
この給与所得控除額の計算式は給与等の収入金額によって異なり、令和2年分以降は下記の表で算出できます。
税制改正が多いため、給与所得控除の計算式は年により異なる場合があります。令和2年分からは給与所得控除額が減額になっています。これまでに比べると給与所得控除は減額されていますが、所得によっては基礎控除が増額になっており、所得による税負担の差が大きくなりました。
■特定支出控除
給与所得者の特定支出控除とは、特定支出が多い給与所得者の事情を考慮してくれる制度です。特定支出とは、次のような支出を指します。
- 通勤費
- 職務上の旅費
- 転居費
- 研修費
- 資格取得費
- 単身赴任者の帰宅旅費
- 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費など、上限65万円)
給与所得者が特定支出をした場合、その年の特定支出の合計額が「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えると、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引けます。
なお、特定支出控除額の適用判定の基準となる金額は、平成28年以降は年間給与所得控除額の2分の1となっています。
令和2年(2020年)からの給与所得控除・所得控除関連の変更点
所得税に関して法改正があり、令和2年分からはさまざまな変更点があります。詳しくご紹介していきます。
(1)給与所得控除額
令和2年分から給与所得控除額の計算式が変更されました。ほとんどの収入金額において10万円(給与収入が多いと最高25万円)が引き下げられるようになったのです。
例えば、給与の収入金額が162万5,000円以下の場合、これまでは給与所得控除として65万円控除されていましたが、令和2年分からの控除額は55万円です。
令和2年分の正確な給与所得控除額は給与の金額によって細かく区分されているため、国税庁の「令和2年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を参照するとわかります。
これまでより所得控除が引き下げられ、これまでと同じ年収でも所得は高額になります。
(2)基礎控除
令和2年分から基礎控除額が変更になり、年収により段階的に引き下げられるようになりました。基礎控除額は下記の通りです。
合計所得金額 | 基礎控除額 | |
改正後 | 改正前 | |
2,400万円以下 | 48万円 | 38万円(所得制限なし) |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 | |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 | |
2,500万円超 | 0 |
これまでは一律38万円で所得制限もありませんでしたので、年収を問わず一律で控除されていましたが、法改正により高額所得者の基礎控除は少なくなりました。これに伴い、所得が多い人は所得税の負担がより大きくなります。
(3)所得金額調整控除
令和2年分より、障害者や子育てなどをしている人を対象に「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」が導入されています。
年収850万円を超える所得者かつ、下記要件のいずれかに該当する場合に、給与の収入金額(その給与の収入金額が1,000万円を超える場合には1,000万円)から850万円を控除した金額の10% 相当額を、給与所得の金額から控除できます。
- 所得者本人が特別障害者
- 同一生計配偶者が特別障害者
- 扶養親族が特別障害者
- 扶養親族が年齢23歳未満(平成10年1月2日以後生)
最高で15万円が控除の対象となり、結果的に所得税の負担が少なくすみます。
(4)配偶者控除
令和2年分から配偶者控除や配偶者特別控除を受けるための要件の改正があり、下記のような要件が加えられました。
- 配偶者控除の対象となる配偶者の合計所得金額が48万円以下
- 配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下
申告書の様式も変更され、「給与所得者の配偶者控除等申告書」は、「給与所得者の基礎控除申告書」および「所得金額調整控除申告書」との兼用様式となりましたので、漏れのないように注意してください。
(5)扶養控除
扶養控除とは、納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合、一定の所得控除が受けられる制度です。控除対象扶養親族となる要件が変更になっており、下記すべてに該当する場合に対象となります。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)または都道府県知事から養育を委託された児童または市町村長から養護を委託された老人
- 生計をともにしている
- 年間の合計所得金額が48万円以下
- 青色申告者の事業専従者としてその年に給与の支払いを受けていないまたは白色申告者の事業専従者でない
年間の合計所得が引き上げられている点に注意して申告しましょう。
(6)扶養親族の合計所得金額・勤労学生の合計所得金額
配偶者控除や扶養控除以外にも、各種所得控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件などが改正されています。納税者自身が勤労学生である場合に、一定の所得控除を受けられます。
- 源泉控除対象配偶者 合計所得金額要件85万円から95万円へ
- 勤労学生 本人の合計所得金額要件65万円から75万円へ
令和2年分より要件が緩和されていることから、控除を受けやすくなっています。
(7)寡婦控除
寡婦とは、その年の12月31日時点で、いわゆる「ひとり親」に該当せず下記のいずれかに当てはまる人のことで、寡婦控除の対象となります。
- 夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいて合計所得金額が500万円以下
- 夫と死別した後婚姻をしていないか夫の生死が明らかでない場合で、合計所得金額が500万円以下
上記の要件に当てはまると、一律27万円の控除を受けられます。
所得控除の種類
所得税額を計算するときには各納税者の個人的事情を加味するために、所得控除の制度が設けられています。それぞれの所得控除の要件に当てはまると、所得の合計額から各種所得控除の合計額が差し引かれ、その金額が所得税額の計算のもとです。所得控除の種類と概要は下記の通りです。
雑損控除 | 災害・盗難・横領などにより、資産について損害を受けた場合/要確定申告 |
医療費控除 | その年に支払った医療費が一定額を超える場合/要確定申告 |
社会保険料控除 | 自分や生計をともにする配偶者、その他の親族が負担すべき社会保険料を支払った(全額控除) |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金などを支払った(全額控除) |
生命保険料控除 | 生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った |
地震保険料控除 | 地震による損害を補償する損害保険の保険料や掛金を支払った |
寄附金控除 | ふるさと納税など「特定寄附金」を支出した/原則として確定申告が必要 |
障害者控除 | 本人・同一生計配偶者・扶養親族のいずれかが所得税法上の障害者 |
寡婦控除 | 納税者本人が寡婦である |
ひとり親控除 | 納税者本人がひとり親である |
勤労学生控除 | 納税者自身が勤労学生である |
配偶者控除 配偶者特別控除 |
納税者本人や配偶者の所得要件による |
扶養控除 | 所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる |
基礎控除 | 納税者本人の総所得金額などから差し引くことができる |
このように、控除として認められる項目は意外と多いです。また、年末調整で手続きできる控除もありますが、確定申告が必要な控除もあります。 所得税の負担をできるだけ少なくするためにも、忘れずに申告しましょう。
必ず確定申告が必要な控除
会社勤めをしている人の大半は、控除を受けるための手続きを年末調整で行えます。しかし、下記の控除は年末調整では手続きができないので、確定申告が必要です。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 寄附金控除(ふるさと納税の「ワンストップ特例」など例外あり)
- 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)(初年度のみ確定申告が必要)
住宅借入金等特別控除は、2年目以降は確定申告不要です。該当する人は確定申告を行いましょう。
年末調整で証明書の提出が必要な控除も多い
年末調整で控除を受けるためには、証明書の提出が必要なケースも多いです。
例えば生命保険料控除を受けるには、支払保険料や控除を受けられることを証明する書類(控除証明書)、または電子証明書などに記録された情報の内容とその内容が記録された2次元コードが付された出力書面などの提出が必要です。
これまでは書面での提出が必要でしたが、データでの提出も可能になっています。 また、確定申告をe-Taxで行う場合には社会保険料控除の証明書など省略可能な証明書も多いです。自分の状況に合わせて、必要な書類をそろえて提出しましょう。
「源泉徴収税額」とは
「給与所得の源泉徴収票」には、「源泉徴収税額」という項目があり、金額も記載されています。給与、報酬などの支払者が所得の支払いする際、所定の方法によって所得税額を計算し、支払金額からその所得税額を差し引いて国に納付する制度が源泉徴収制度です。
源泉徴収税は給料や賞与から天引きされ、金額は「源泉徴収税額表」を用いて算出。源泉徴収税額表には月額表と日額表、賞与、退職所得などいくつかの種類があります。
例えば、社会保険料などを控除後の給与額が29万円で扶養家族がいない場合、その月の源泉徴収税額は8,040円です。
給料や賞与から天引きされた源泉徴収税額とその年の控除額をもとに年末調整を行ったものが、源泉徴収票に記載されている源泉徴収税額となります。
2カ所以上から源泉徴収票をもらっている場合の対処法
会社役員や副業を行っていたり、2カ所以上の会社から給与をもらっていたりする場合は、主たる給与と従たる給与とを定めておきます。
主たる給与については会社で年末調整の対象となりますが、従たる給与については年末調整が行えません。従たる給与について、源泉徴収ですでに納めた所得税を精算したい場合は、所得者本人による確定申告が必要です。
主たる給与を支払う場合の源泉徴収税額は、「源泉徴収税額表」の「甲欄」で求めますが、従たる給与については「乙欄」で求め、かなり高額になります。
例えば、社会保険料などを控除後の給与の金額が29万円で扶養家族がいない場合、その月の源泉徴収税額は甲欄を基準に算出すると8,040円ですが、乙欄を基準にすると50,900円です。
確定申告すれば還付金を受け取れることも多いので、忘れずに確定申告を行いましょう。
年の途中で転職した場合の対処法
年の途中で転職した場合、12月31日時点で所属している会社で年末調整し、源泉徴収税額の精算を行います。転職前の会社から交付を受けた「給与所得の源泉徴収票」を現在所属している会社に提出して手続きを行いましょう。
中途退職して新たに就職をしていない場合は年末調整を受けられませんが、翌年に確定申告した結果、所得税を納めすぎていれば還付を受けられます。自分の状況に合わせて、適切な手続きを行いましょう。
年末調整が終わったら受け取る「給与所得の源泉徴収票」には、さまざまな金額が書き込まれており、何を意味する金額なのか、よくわからず悩んでしまう人もいるでしょう。
その中のひとつである「給与所得控除後の金額」とは、給与等の収入金額(年収)から給与所得控除額を差し引いた金額のことです。給与所得控除の算出方法は、給与等の収入金額により異なり、55万円から195万円までの間です。
給与所得者が受けられる所得控除には、基礎控除や配偶者控除、生命保険料控除や寄附金控除など種類が多く、中には控除を受けるために確定申告が必要な場合もあるので注意してください。