「メラビアンの法則」という言葉を聞いたことがなくても、「人は見た目が9割」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。メラビアンの法則とは、会話の印象を決める要因の9割は視覚・聴覚情報である、という法則です。
本記事では、メラビアンの法則について、具体例を交えつつ解説します。実際のビジネスシーンで活用できるよう、しっかり学ぶことが大切です。また、メラビアンの法則の成り立ちや歴史についても知って、知識の幅を広げましょう。
メラビアンの法則とは
メラビアンの法則とは、会話やコミュニケーションの際に相手に与える印象を、言語情報・聴覚情報・視覚情報の3つの要素を数値で表したものです。
本法則では、言語情報が7% 、聴覚情報が38% 、視覚情報が55% の割合で、相手の印象に影響を与えるとされていることから、別名「7-38-55ルール」とも言われています。
また、聴覚情報と視覚情報は「非言語コミュニケーション」とも言われています。つまり、メラビアンの法則は「相手への印象は、非言語コミュニケーション(93%)が大きく影響する」という法則であるといえるでしょう。
メラビアンの法則はいつ提唱された?
メラビアンの法則は、1971年にアメリカの心理学者アルバート・メラビアン氏によって提唱されました。
同氏の『Silent messages(非言語コミュニケーション)』というタイトルの著書では、言語によるメッセージと非言語メッセージのどちらがより重要であるか、その実験と調査結果が記されています。
メラビアンは、会話やコミュニケーションにおいて、「会話の内容」だけでなく、「しぐさ」や「表情」の重要性に着目し、それを証明した人物なのです。
メラビアンの法則の3つの要素
メラビアンの法則では言語情報・聴覚情報・視覚情報の3つの要素を数値で表します。メラビアンの法則を活用するためには、これらがどのような要素であるかを把握しておく必要があります。
コミュニケーションの中で、どれがどの情報であるか、しっかりと区別できるようになりましょう。
言語情報
言語情報とは、話し手が会話で発する言葉や、会話によって得られる情報のことを指します。いうなれば「言葉の内容」です。
このような言語情報によってコミュニケーションを取ることを言語コミュニケーションやバーバル・コミュニケーションといいます。
また、会話だけでなく、メールや手紙などの文字で言葉を伝えた場合のコミュニケーションもこれらの言語コミュニケーションとなります。
視覚情報
視覚情報とは、会話をしているときの態度やしぐさ、表情や目線など、目で確認できる情報のことを指します。
視覚情報は言葉で情報を与えないコミュニケーション方法なので、非言語コミュニケーションやノンバーバルコミュニケーションといえます。
ボディランゲージなども視覚情報のみの非言語コミュニケーションであり、言葉が通じないときなどに役立ちます。
聴覚情報
聴覚情報とは、話し手の声のボリュームやトーン、速度や言葉遣いなどのことを指します。これらは言葉から得られる情報ではありますが、言葉自体の内容ではなく、その言葉がどのような使われ方をされているか、という情報です。
そのため、聴覚情報は視覚情報と同様に非言語コミュニケーションとなります。
言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションの違い
メラビアンの法則を構成する要素は、言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションに分けられます。言語情報が言語コミュニケーション、視覚情報と聴覚情報が非言語コミュニケーションです。
言語コミュニケーションは「言葉の内容」、非言語コミュニケーションは「それ以外(しぐさ、表情、声音など)」と覚えましょう。
また、非言語コミュニケーションである視覚情報と聴覚情報によって、相手への印象に与える影響は93% という結果がでています。そのため、コミュニケーションでは非言語コミュニケーションが非常に重要といえるでしょう。
メラビアンの法則の実験内容
メラビアンの法則の実験では、話し手が言語情報・視覚情報・聴覚情報の3つの要素で矛盾を発生させ、聞き手がどの情報を重要視するのかを調べました。
はじめに「好意」「中立」「嫌悪」というカテゴリで「相手への印象」を分けます。そして、「君はまったく悪くないよ」という「好意」的な言語情報を、「中立」のイメージで録音し、「嫌悪」の表情の写真を組み合わせます。
このように、「話の内容」と「声のトーン」や「表情」が矛盾している場合、聞き手はどのような印象を受け取るのか、という実験をしました。
実験の結果、視覚情報と聴覚情報が93%、言語情報が7%という割合であるがわかりました。つまり、「君はまったく悪くないよ」と言葉で伝えても、声や表情が「嫌悪」であると、相手はネガティブに受け止めてしまう、ということが分かりました。
メラビアンの法則の具体例
メラビアンの法則の実験では、3つの要素に矛盾が発生した場合、非言語コミュニケーションの印象が相手へ最も影響を与える、ということが分かりました。
ここからは、3つの要素が矛盾している場合の具体例をあげて紹介します。それぞれのシーンを参考にして、メラビアンの法則についてより理解を深めましょう。
不満そうな表情で褒める
相手に不満があるような表情をして褒めることは、言語情報では褒めるというポジティブな印象を与え、視覚情報でネガティブな印象を与えるという矛盾が発生します。
このような場合は、視覚情報の方が聞き手に与える影響が大きいので、ネガティブな印象が強くなってしまいます。
そのため、どんなに言葉で褒めても、相手は「褒められた」と実感しにくい状況が発生します。
笑った顔で叱る
笑いながら叱るということは、視覚情報でポジティブな印象を与え、言語情報でネガティブな印象を与えることになります。
この場合も、叱られた内容よりも、ポジティブな笑顔の印象が強くなります。
そのため、相手に「本気で叱られていない」と誤解されてしまう可能性があります。
誤解されがちなメラビアンの法則の意味
メラビアンの法則では、非言語コミュニケーションである視覚情報と聴覚情報が非常に重要とされています。
そのため、メラビアンの法則のことを知った方の中には、会話では見た目の印象や話し方が重要であり、会話の内容は重要視する必要がないと思ってしまう方もいるでしょう。
しかし、メラビアンの法則の実験で言語情報があまり優先されなかったのは、あくまで「極端な条件下において」の話です。
日常生活の中では、このような極端な状況になることは少ないです。そのため、「非言語コミュニケーションさえ重視していれば、他人に良い印象が与えられる」というのはメラビアンの法則の誤った解釈となりますので、注意しましょう。
ビジネスでのメラビアンの法則の活用方法
メラビアンの法則を理解しておけば、どのような要素が、どのような影響を相手に与えるのかを把握できるようになります。
そのため、相手からの印象が重要となる場面が多いビジネスシーンでは、メラビアンの法則がとても役立ちます。ビジネスシーンでメラビアンの法則をうまく活用するために、ここから使い方の例を紹介していきます。
営業やプレゼン
営業やプレゼンでは、声のボリュームやトーンや早さ、表情やしぐさなどが言葉の内容と矛盾がないように調整しましょう。もし、言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションに矛盾が生じた場合、相手に真意や意図が伝わりにくくなります。
資料を読み上げることに気を取られ、表情や声のトーンがネガティブなものにならないように気をつけましょう。
社内でのコミュニケーション
社内でのコミュニケーションの場合は、相手の話をしっかりと聞き、相手と目線を合わせたり、柔らかい表情で接したりすることを意識しましょう。非言語コミュニケーションを重視した接し方をすれば、好印象や、相手からの信頼が獲得しやすくなります。
多忙で返事がおざなりになりがちな方や、面と向かって相手を褒めることに慣れていない方は、特に非言語コミュニケーションに注意してみましょう。
面接
就職活動や転職活動などもビジネスシーンのひとつです。就職活動や転職活動では主に面接によって選考が進んでいきます。面接では初対面の面接官に、短時間で好印象を持ってもらう必要があります。
そのため、非言語コミュニケーションを意識して、話し方や表情、服装などで第一印象をより良くしましょう。面接では話の内容も大切ですが、緊張して無表情で話したり、声が小さくなってしまったりしないように注意が必要です。
メラビアンの法則活用のコツ
ここまでメラビアンの法則について具体例を交えて紹介しました。しかし、実際に自分で使うとなると何から気をつければいいのかと、難しく感じる方も多いのではないでしょうか。
ここから、実際にメラビアンの法則を活用する際のコツを解説していきます。気をつけるポイントなどを把握して、ビジネスシーンで上手に活用しましょう。
視覚以外の言語・聴覚情報にもしっかり目を向ける
メラビアンの法則では3つの要素の中でも視覚情報が相手に対して与える影響が大きいと言われています。しかし、視覚情報が重要だからと、表情やしぐさにばかり意識を集中してしまわないように注意しましょう。
自分が相手の話を聞く場合は、視覚情報だけに気を取られずに、言語・聴覚情報にも着目しましょう。
メラビアンの法則は、相手の情報を正しく読み取る際にも活用できる法則です。
相手に伝わりやすい言葉を選ぶ
メラビアンの法則では、言語情報が相手に与える影響は少ないとされています。しかし、言葉の意味や会話の内容が相手に伝わらないとコミュニケーションは成立しません。言葉の意味や会話の内容が相手に伝わりにくければ、相手は誤った理解をしてしまう可能性もあります。
そのため、相手に伝わりやすい言葉を選ぶことが大切です。もし、言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションの矛盾が発生していて、さらに言葉まで分かりにくいと、相手に非常に伝わりづらい状況が発生します。
回りくどい言葉や表現などは避けるようにしましょう。
電話の場合のメラビアンの法則活用術
メラビアンの法則では視覚情報の重要性が高いとされています。そのため、相手の姿が見えない電話でのやりとりでは、メラビアンの法則を活用できないと思ってしまう方もいます。
しかし、視覚情報を相手に与えられなくても、聴覚情報と言語情報は相手に与えられるため、電話でもメラビアンの法則を活用できます。
ここからは、メラビアンの法則を電話で活用する際のポイントを紹介します。ビジネスでは電話を使うシーンはよく見られるため、メラビアンの法則を活用し、上手に電話応対しましょう。
声の抑揚やトーンを意識
電話の場合はお互いの姿が見えないので、声が相手からの印象に大きな影響を与えます。声で良い印象を与えるためには、姿が見えない分、普段よりも少し明るめのトーンで話しましょう。また、声に抑揚をつけて、相手に自分の感情を伝えることが大切です。
スピードや言葉遣いに注意
電話は相手の様子が分からないため、つい早口になってしまいがちです。しかし、早口になってしまうと相手は言葉を聞き取れず、誤解してしまう可能性があります。
また、言葉遣いを正しくすることも重要です。知らず知らずのうちに勘違いして使っている用語などがあると、相手が誤解してしまっても、それに気づかず誤解が解けないまま話が進んでしまう場合もあります。
視覚情報があれば、相手が納得してない様子などが分かりますが、電話ではそれが確認できません。自分の伝えたいことばかりに集中するのではなく、相手の様子も確認しながら会話を進めましょう。
同調や大きめなリアクションも効果的
電話では相手の姿が見えないので、視覚情報を与えられません。そのため、視覚情報を補うためにも、声の抑揚やトーンに意識して、自分の感情や表情などの見えない部分をなるべく伝えることが重要となります。
また、こちらの感情や表情などを相手に想像してもらいやすいように、相手の言葉に同調したり、大きめのリアクションを取ったりすることなども効果的です。
メラビアンの法則を理解してビジネスに活かそう
メラビアンの法則は、非言語コミュニケーションが相手に大きく影響を与える、という法則です。しかし、決して言語コミュニケーションをないがしろにしていいわけではありません。会話の土台は言葉であることをしっかり念頭に置きましょう。
また、メラビアンの法則は自分の言葉を伝える方法だけでなく、相手からの意図を正しく汲み取るためにも有効です。相手の言葉の内容と表情が矛盾しても、非言語コミュニケーションの印象ばかりに気を取られないことがポイントです。
メラビアンの法則について正しく理解し、ビジネスシーンで積極的に活かしていきましょう。