先日、桜美林大学のオンライン大学祭を取材することができた。PCメーカーのマウスコンピューターが、この大学祭を支援するデジタル環境を手配したというツテで、大学祭の実行委員の方々に直接話を伺うことができたというものだ。このコロナ禍に、世界中の様々な人々が様々な活動で自粛や転換の必要性に直面しているが、今回は、大学祭というものが大きく姿を変えつつある実態を垣間見ることができた。

  • 桜美林大学が昨年開催した「オンライン」の大学祭

    桜美林大学が昨年開催した「オンライン」の大学祭

桜美林大学がオンライン大学祭、リアルとの違いは?

桜美林大学の本部は東京都の町田市にあり、都内の複数個所にキャンパスを擁している。今回取材した2020年度の大学祭では、オンライン形式での開催をするにあたり、企画・イベントなどはキャンパスからインターネット配信をするかたちをとったそうだ。まず、今回のオンライン大学祭が、普段の大学祭とはどのように違う、どういった催しになったのかを、取材に対応してくれた桜美林大学の職員として学生支援を担当する石田さん、そして現役学生から大学祭 新宿キャンパス委員長 齋藤さん、同 町田キャンパス委員長 三浦さんの3名に訊いた。

  • コロナ禍という状況を踏まえ、関係者の皆さんからはオンラインでお話を伺っている

三浦さん: 配信は町田キャンパスから行いました。サークルダンスなど、これまでのリアル開催の大学祭で実施していたイベントを、オンラインで見やすいようにやり方を工夫して配信しています。他にも子どもでも参加できるようなクイズ大会や、工作教室、ユーチューバーのようなネタ企画なども行いました。子どもから大人まで楽しめるようなイベントを目指しました。

齋藤さん: オンラインなので、普段の大学祭よりも多くの人に見てもらえる内容にしようと。ただ、初めてのことなので、そもそもどこから手を付けたらいいのかわからない、というところからの準備で、とても苦労しました。

  • 普段の学園祭で実施していたステージイベントなども、オンラインで見やすいように工夫して配信した

-- オンラインで来場者のターゲットも変えてみたんですね。実際に開催してみて、オンラインならではで、年齢や地域が幅広いとか、普段の大学祭とは来場者の傾向が違ったりしたのですか?

齋藤さん: トークショウの企画では20代や10代の女性が多いとか、環境問題をテーマにすると大人の参加者が多くなるとか、そういったデータは見えました。

三浦さん: 来場者のターゲットは幅広いというより、(大学を知りたい高校生など)絞ったターゲットを考えていました。地域は意識していなかったのですが、来場者のデータを見てみたら、近隣だけでなく全国の高校から来てくれていたという結果もわかりました。

三浦さん: オンライン大学祭では、この「データがとれる」というのが面白いです。ただ、当たりはずれがデータで確実に出てしまうので、それはちょっと怖かった(笑)。「この企画はこんなに人が来たのに、私のはさっぱり」などがつきつけられるわけです。

  • オンライン大学祭では、「データがとれる」というのが面白い

-- 準備で苦労したという話もありました。コロナ禍で、しかも初めてのオンライン開催です。実際に経験してみて、具体的にはどのあたりが大変でしたか?

三浦さん: 普段の大学祭であれば、準備するメンバーみんなで集まって色々なことをするわけですが、今回は集まることができない。会議もすべてオンライン。すると、普段であればあったはずの「大学祭をチームで一緒につくっているんだ」という意識、実感が持ちづらくて、やりづらいということに気づきました。

三浦さん: 「大学祭をオンラインに」という話を切り出したのもオンラインだったのですが、オンラインだとリアクション、機微もわかりづらくて、「本当はみんなはどう思っているんだろう」と大変だった感覚もあります。正直、「リアルに感じられない」というは想像以上に難しかったです。

齋藤さん: コミュニケーションがすべてオンラインで、リアルに集まることができないというのは、だいぶ普段と勝手が違います。SlackやLINEを使って会話していても、自分から動かないと話がどんどん進んで行って、進行に追いつかなくなっていくといったことも多々ありました。

-- もう慣れるしかないのでしょうが、実際に会うのとオンラインでは、コミュニケーションのルールが違ってくるというのは、よく色んな現場で聞く話ですね。ほかにも準備と実施を振り返って、課題や次回に活かせそうな気づきはありましたか?

三浦さん: 宣伝力はすごく大事だと思いました。ネット上では、当日告知を流すとリアルタイムに反応があって、その日の内に人が来てくれたりします。あとはTwitterで言えばリツイートとかですが、拡散力も大事。大学祭のSNSのアカウントがあるのですが、オンライン大学祭で4,000人もフォロワーが増えたのですが、フォロワーが多ければ見てもらえるというわけではなく、フォロワーが少ないときでも上手く拡散できれば多くの人に見てもらえたなど、単純な数ではないんだという実感がありました。もっとちゃんと「マーケティング」ができたらよかったと気づきました。これはリアルでも活かせるのではないでしょうか。

齋藤さん: リアルの開催だと、電車で行ける範囲とか、来場者は近隣の人が多いのですが、オンラインの開催だと北海道から沖縄まで全国、どころか海外からも来てもらえることがわかりました。仮に事態が終息して、リアルのキャンパスを会場とした大学祭を開催できるようになっても、オンライン大学祭を併設する意味があるのだと思います。

実は「ゲーミングPC」を使って配信してました

-- ところで、今回はマウスコンピューターさんの紹介で取材させてもらっているという都合でもないんですが(笑)、オンライン大学祭を実施するにあたってどういった機材が必要だったのかにも興味があります。マウスさんはずいぶんハイスペックな機材を提供したと自慢(?)していたので(笑)。

三浦さん: PC機材をつかってイベントや企画のオンライン配信をしたのですが、まず、全てが生配信ではなくて、事前収録をして、編集してから配信したというものも多かったです。なかには何時間もある容量の大きな動画ファイルもあって、それを高速に読み込めて編集できたのはすごく助かりました。生配信でも長時間の配信で負荷がかなりかかったと思いますが、重くなることもなく快適でした。USBなど外部インタフェースが多めだったのは、編集や配信でとても助かりました。あと、キーボードが光ったのでテンションが上がった(笑)。

-- 光るキーボード(笑)。たしかに作業中のテンション維持は大事です! 今回の協力機材はゲーミングPCだったのですか?

マウスコンピューター担当者: うちも大学祭への機材協力というのは今回が初めてだったので、どのくらいのPCが良いのかは見極めきれなくて、作業として見えていた配信や編集の要望に十分対応できるスペックのPCを用意しようということで、G-TuneブランドのゲーミングPCを提供させていただきました。

  • 当日の機材はキーボードのきらびやかに光る「G-Tune」ゲーミングPC。性能を考慮すれば意外でもない?

-- 今時のゲーミングPCの高いスペックはゲーム以外にも万能ですからね。

齋藤さん: 配信では、パソコン1台に、ディスプレイモニタを3台つなぐ環境を用意しました。YouTubeでの配信を表示しながら、別のモニタでタイムラインを確認するなど、複数のタスクを並列してこなせます。好き放題に使ってみたのですが、負荷でシステムが落ちるといったトラブルもなく、性能は大事だなと。やっぱりスペックが高いのはとても安心できました。

-- ゲーミングPCでオンライン大学祭ですか……。もう環境だけ見ると大学祭でeスポーツ大会とかやっても良さそうですね。

齋藤さん: 実はeスポーツイベントは今回やりました。プロスピ(野球ゲームのプロ野球スピリッツ)の高校生大会。参加するだけでなく試合の配信もしたのですが、結構盛り上がりました。

-- ゲーミングPCで正解でしたね(笑)。

-- PC機材についてもう少し。良いところはわかりましたが、不満は何かなかったのですか? 「もっとこうだったら良いのに」は、せっかくだからメーカーさんに伝えておいた方が世のため人のためです。

齋藤さん: スペックはまったく問題なかったのですが、使う側の大学生の課題として、PCが得意な人と不得意な人の差が激しいというのがありました。あるタスクを行うにあたって、デスクトップとノートのどっちを使うのがいいのか、よくわからないというくらい。なので、使い方のサポート窓口、アドバイスをしてくれるような窓口がもっと欲しいとは感じました。

齋藤さん: あとは、ディスプレイモニタを繋ぐ付属のHDMIケーブルが一般的なものだったので、今回のようなマルチモニタ環境も使う用途ではもっと長い、ロングケーブルなんかも選べると助かったかなと思います。

石田さん: 大学側の職員としてPC機材の調達の直接の窓口を担当した立場としては、機材の動作の安定性にはまったく問題がなかったのですが、強いて言うならばオンライン配信をするにあたって、カメラの台数を増やしたりするのに、USB端子の数はもっと多いと良かったです。

齋藤さん: 場合によっては拡張ボードが挿せるように、マザーボードの拡張スロットには空きがあった方が良いですよね。

マウスコンピューター担当者: 保証外の拡張もあるので注意いただきたいですが(笑)、拡張スロットの空きの有無は、事前に確認できるように製品の仕様書を公開しているので、ぜひ活用してください。

  • リアルタイムに複数のタスクを処理する今回の様な事例では、マルチモニタ環境がとても効率的で便利だったそうだ

コロナ禍で大学生活はどうですか?

-- さて、今回は大学祭についてお訊きしたのですが、せっかくなので今の学校生活についても少しリアルなところが知りたいです。授業のオンライン化が進んでいるものの、上手くいっている話と上手くいっていない話、両方とも耳にします。情報機器が不足しているとか、オンライン環境の整備が追い付かないだとか、インフラ面の課題も良く聞きますが、桜美林大学ではどうですか?

三浦さん: 桜美林では、希望する学生には大学がPCを手配してくれます。必要な人には行き渡っているようなので、台数は問題ないと思います。ただ……、(大学側の)石田さんの前では少し言い難いんですが、スペックが足りない(笑)。授業のZoomが落ちる、資料のパワポを開いたら落ちる、なんて話がよくありまして、スペック不足がとっても困る。

齋藤さん: 欲張りかなとは思いつつ、ポケットWi-Fiとか、モバイルのネットワーク環境も欲しいなぁ、なんて。

石田さん: オンラインで授業が受けられる環境を学生が100%持っている状態を目指して、通信費込みでなるべく予算を抑えて整備しています。学生向けに個別に環境を用意するにあたって難しいのは、学生のPCリテラシがかなりバラバラということがあり、授業のためだけに特化して使う分には問題ないのですが、必要な周辺機器やアプリケーションの追加、利用時のバックグラウンドの作業の負荷なんかは学生によってまちまちになってしまうので、その差が最適なスペックを見極めるのを難しくしている部分はあります。

-- 値段と性能の問題はPCメーカーさんに頑張ってもらいましょう(笑)。

次回は100周年の大学祭、もっとオンラインのメリットを

-- 最後に、将来のお話を伺いたいのですが、さっき齋藤さんが「リアル大学祭にオンライン大学祭を併設する」という展望を話してくれてましたが、ここ、もう少し話したいです。コロナ禍で変わってしまったことに、大変なことは多くありますが、良かったこともたくさんあると思います。全てをコロナ前に戻そうとするのは違うと思うのですが。

三浦さん: 大学の大学祭には、OBやOGの方たちが参加したいとうニーズがあったことがわかりました。これまでは、卒業して大学から遠方に引っ越してしまったりして、参加できなかったりしていた。それが今回は「オンラインだったので参加できた」と言ってくれるOBOGがたくさん居たのです。大学祭はそのキャンパスが立地する地域のもの、という固定概念は今回で薄れました。

齋藤さん: オンラインでのコミュニケーションは課題でしたが、ツールがとても便利であることは間違いありません。まだ使い方に慣れていないだけで、使い続けていればコミュニケーションの課題は解決するように思います。

三浦さん: 大学祭への企業協賛がオンラインで変わっていくのも勉強になりました。これまでは例えば食品の実物の提供といった協賛が多かったのですが、オンラインでは協賛企画のひろがりがあって、今回は例えばeスポーツ大会にゲームメーカーが協賛してくれたりしました。

-- 来てくれる人がオンラインとリアルで結構違いますからね。企画の方向性も、協賛してくれる企業も、今までと変わってきそうですね。

齋藤さん: はい。ところで私たちの桜美林学園は2021年に100周年を迎えることになりました。100周年世代ということで、2021年の大学祭は今年以上に力を入れて取り組み始めています。色んな人が参加出来て、楽しめる大学祭になるよう、企画を練っているので、次回も期待して欲しいです。

マウスコンピューター担当者: 今回の大学祭での学生への機材協力は、弊社にとってもとても貴重な経験、ノウハウになっています。もっとご意見をいただきたいですね。次回もぜひ協力させて欲しいです。出来る限り力になりますよ。

  • この非日常が終わっても、この経験は「新しい日常」にきっと役立つ。2021年の桜美林大学祭はなかなか楽しみである

-- 皆さん、ありがとうございます。今は大変な状況には違いないですが、大学祭の話だけでも、進化というか、より良いものへ進んでいけそうな希望もそこら中にあるのだなと思いました。桜美林100周年の大学祭、楽しみですね。マウスさんの言質もとれたので(笑)、もっと豪華なシステム環境で、でっかく開催しましょう。