定年を迎える前に退職する「早期退職」。そのうちの「早期優遇退職制度」は、退職金が割り増しで支給されるなど、メリットと思える面もあります。では、定年まで勤めるよりも、早期退職は得なのでしょうか。早期退職の種類やメリット・デメリット、早期退職を決めるポイントなどを解説します。
早期退職の種類とその違い
早期退職とは、定年退職を待たずして退職することを言います。また、「早期優遇退職制度」は、定年前の社員を対象に、退職金を優遇するなどして退職者を募集する制度です。この早期優遇退職制度はさらに2種類に分けられ、1つは「(早期)希望退職制度」と呼ばれています。
希望退職制度は、会社の業績悪化を理由に構造改革の一環として行われるもので、期間と人数を限定して早期退職者を募集します。多くの場合、退職金の割り増しや再就職のあっせんなどの優遇措置が取られます。
なお、希望退職制度は一定年齢以上の社員を対象に募集されることが多く、応募が募集人数に達しない場合、企業側から社員へ退職を促す、複数回募集するというケースもあります。
もう1つは、「選択定年制度」です。こちらは人事制度として設けられているもので、「50歳以上」「55歳以上」など一定年齢に達した社員が早期退職するかどうか自ら決めることのできる制度です。
選択定年制度は、企業の業績には関係なく、組織の若返りや従業員の独立や転職など主体的なキャリア選択を後押しする目的で導入されています。選択定年制度を利用して早期退職した場合も、退職金の割り増しなど優遇を受けることができます。一方、会社に残ることを選択すると、管理職から外れたり給与が減額したりする場合もあります。
注意したいのは、希望退職制度によって早期退職した場合は「会社都合」の退職と見なされるのに対し、選択定年制度によって早期退職した場合は退職者の「自己都合」と見なされる点です。
会社都合と自己都合では、雇用保険の基本手当、いわゆる失業給付金が給付される条件が異なります。会社都合で退職すると、受給資格決定(離職日の翌日)から7日間の待期期間の後1か月ほどで給付金が振り込まれ、給付日数も長くなっています。
一方、自己都合で退職すると、受給までには7日+2か月の待期期間があり、会社都合と比べて給付日数は短くなります。
早期退職のメリット・デメリット
早期退職を決めるポイントは、「定年よりも早く仕事が辞められる」というだけではありません。早期退職の良い面、悪い面をよく見比べたうえで、自身のケースに当てはめて考えることが必要です。早期退職には、どのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
<メリット>
■割り増し退職金がもらえる
一般的に、早期優遇退職制度を利用して早期退職すると、退職金が上乗せして受け取れます。割り増し退職金の金額や算出方法は企業によって様々ですが、主な方法としては、
(1)年齢に応じた絶対額(例:50~55歳なら500万円)
(2)基本給の月数(例:40歳以上最大30か月分)
(3)年齢に応じた退職金の割り増し率(例:54~55歳100%、56~59歳90%)
(4)年収ベース(例:最大年収×2)
などの方法があります。厚生労働省の「平成30年 就労条件総合調査の概況 退職給付(一時金・年金)の支給実態」によると、退職理由別の退職給付の平均額(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者、大卒)は、自己都合退職では1,519万円、それに対し、早期優遇退職の場合は2,326万円と800万円以上の差があります。
■早めに自由な時間が手に入る
定年前に退職することで、気力・体力ともに充実しているうちから自由な時間を持つことができます。その時間を、起業の準備やセカンドキャリアに向けての勉強、転職活動などに使えるでしょう。また、家族とゆっくり過ごし、生活資金に不足がなければ、そのまま引退生活に入ることも可能です。
<デメリット>
■再就職後の収入が増えるとは限らない
早期退職後、再就職で収入アップを目指したものの、うまくいかず逆に収入が減ってしまうケースもあります。そもそも、再就職できる保証もありません。
ただし、会社に残る選択をしても、これまでの収入が維持できない、または、整理解雇(リストラ)の対象になることもあり得ます。早期退職するかどうかの見極めは、慎重を期す必要があります。
■将来の年金が減る可能性がある
早期退職により、離職期間が長くなったり、再就職先で収入が減ったりすると、将来の年金受取額が減少する可能性があります。老齢厚生年金は報酬比例であり、加入期間のほか、現役時代の賃金水準が年金の受取額に反映されるためです。退職金の割り増し分だけにとらわれず、老後のことも考え退職のタイミングを考えましょう。
早期退職は得?
これらのメリットやデメリットを総合的に考えると、退職金が割り増しになるからといって「早期退職は得」と一概には言えないでしょう。たとえば、早く退職して自由な生活を送ることを優先する人にとっては、金銭的なデメリットが少し大きくても、早期退職は得になるかもしれません。
ただし、金銭面だけで損得を考えるなら、現在の収入と再就職後の収入の差額分と、退職金の上乗せ分を比較してみることです。たとえば、再就職することで今より収入が下がっても、その分を割り増し退職金で補える、または割り増し分が上回るなら、早期退職を検討してもいいことになります。
とはいえ先述のように、将来の年金受取額が下がる可能性がある点には注意しましょう。また、再就職先は退職後、失業給付金が支給されているうちに決めたいものです。
いざという時のための備えを
今年は新型コロナウイルスの影響で、希望退職者を募る企業が増加しています。来年以降も、募集する会社が増加傾向となるかもしれません。早期退職をする、しないにかかわらず、いざという時に困らないよう、しっかり貯金をするなどして備えておきましょう。