年末調整や確定申告時に計算する「生命保険料控除」。生命保険や医療保険などに支払った金額に対して所得が軽減される仕組みをしっかり理解しておくことは、節税につながります。
本記事では生命保険料控除の計算方法や制度などについてくわしく紹介していきます。
生命保険料控除制度の基本
生命保険料控除制度は、納税者が生命保険料・介護医療保険料及び個人年金保険料を支払った場合に一定金額の所得控除を受けることができる制度です。生命保険料控除制度の基本についてみていきましょう。
生命保険料控除は「一般生命保険料」「個人年金保険料」「介護医療保険料」の3種類
生命保険料控除の対象となるのは「一般生命保険料」「個人年金保険料」「介護医療保険料」の3種類です。ただし、加入期間が5年未満の生命保険などには控除の対象とならないものもあるため注意しましょう。
また、最近では死亡保障や介護・医療保障がひとつの主契約または特約に組み込まれているタイプの生命保険もありますが、このような生命保険は法令にもとづき、一定の条件を満たす場合に「介護医療保険料控除」の対象となり、該当しない場合には「一般生命保険料控除」となります。
【生命保険料控除の対象保険料】
一般生命保険料 | 生存または死亡に基因して支払われる保険金・その他給付金にかかわる保険料、学資保険料など |
個人生命保険料 | 個人年金保険料税制適格特約を付加した個人年金保険保険料など |
介護医療保険料 | 医療保険(特約)・がん保険(特約)・介護保険(特約)など、入院通院などにともなう給付に係る保険料など ※平成24年に新設 |
生命保険の契約年で控除額が異なる! 「旧制度」と「新制度」とは
平成22年度の税制改正により、生命保険料控除制度は平成24年度の所得税(平成25年度の住民税) 以降より改正されました。
おもな新制度と旧制度の相違点は下記の通りです(※1)。
【おもな生命保険料控除の新制度・旧制度の相違点】
変更点 | 詳細 |
---|---|
新制度から「介護医療保険料控除」を追加 | 一般生命保険料控除・個人年金保険料控除に加え「介護医療保険料控除」を新設 |
各控除区分の適用限度額・制度全体での適用限度額変更 |
一般生命保険料控除・個人年金保険料控除の適用限度額 【所得税】 【住民税】 |
生命保険控除の対象外となる特約などの取り扱い | 傷害特約や災害割増特約などの保険料は、新制度では生命保険料控除の対象になりません |
平成24年1月1日を起点としてそれ以降に締結した保険契約などに基づく保険料の控除を「新制度」、それ以前に締結した保険料に基づく保険料の控除が「旧制度」で、それぞれ取り扱いが異なります。また同じ保険商品であっても、新制度と旧制度では控除額が異なります。
なお、新制度の施行以前(平成23年12月31日以前)に締結した保険契約であっても、平成24年1月1日以降に「主契約・特約更新」「各控除区分に該当する特約中途付加」をおこなった場合は、異動日以降の契約全体(主契約+特約)に対する保険料は新制度の控除区分が適用されます。
生命保険料控除の適用限度額は?
新制度における生命保険料控除の適用限度額は下記のとおりです。
【新制度の生命保険料控除の適用限度額】
旧制度 | 新制度 | |
---|---|---|
全体の所得控除限度額 | 所得税 : 10万円 住民税 : 7万円 |
所得税 : 12万円 住民税 : 7万円 |
一般生命保険料 控除限度額 |
所得税 : 5万円 住民税 : 3万5,000円 |
所得税 : 4万円 住民税 : 2万8,000円 |
個人年金保険料 控除限度額 |
所得税 : 5万円 住民税 : 3万5,000円 |
所得税 : 4万円 住民税 : 2万8,000円 |
介護医療保険料 控除限度額 |
対象外 | 所得税 : 4万円 住民税 : 2万8,000円 |
その他の保険料(生命保険料控除対象外となる特約など) | 対象外 |
生命保険料控除の計算方法
それでは、具体的な生命保険料控除の計算方法についてみていきましょう。前述のとおり旧制度と新制度では制度が異なるため、計算方法にも違いがあります。
所得税の生命保険料控除額の計算方法
所得税の生命保険料控除額の計算方法は下記のとおりです。
【旧制度】合計で10万円が適用限度です。
年間支払保険料など | 控除額 |
---|---|
2万5,000円以下 | 支払保険料などの全額 |
2万5,001円~ 5万円以下 | 支払保険料など×1/2 +1万2,500円 |
5万1円~ 10万円以下 | 支払保険料など×1/4 +2万5,000円 |
10万円超 | 一律5万円 |
【新制度】合計で12万円が適用限度です。
年間支払保険料など | 控除額 |
---|---|
2万円以下 | 支払保険料などの全額 |
2万1円~ 4万円以下 | 支払保険料など×1/2 +1万円 |
4万1円~ 8万円以下 | 支払保険料など×1/4 +2万円 |
8万円超 | 一律4万円 |
個人住民税の生命保険料控除額の計算方法
次に個人住民税の生命保険料金控除額の計算方法を説明します。新制度では一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の所得控除限度額はそれぞれ2.8万円ですが、合計した場合は7万円が限度額となります。
【旧制度】合計で7万円が適用限度です。
年間支払保険料など | 控除額 |
---|---|
1万5,000円以下 | 支払保険料などの全額 |
1万2,001円~ 4万円以下 | 支払保険料など×1/2 + 7,500円 |
4万1円~7万円以下 | 支払保険料など×1/4 +1万7,500円 |
7万円超 | 一律3万5,000円 |
【新制度】合計で7万円が適用限度です。
年間支払保険料など | 控除額 |
---|---|
1万2,000円以下 | 支払保険料などの全額 |
1万2,001円~ 3万2,000円以下 | 支払保険料など×1/2 +6,000円 |
3万2,001円~ 5万6,000円以下 | 支払保険料など×1/4 +1万4,000円 |
5万6,000円超 | 一律2万8,000円 |
新旧制度両方の生命保険が混在する場合は?
旧契約と新契約の両方の契約があり、それぞれ生命保険料控除または個人年金保険料控除の適用を受ける場合は、下記いずれかの有利なものを選ぶことができます。
【所得税の生命保険料控除額の場合】
- 新契約に該当する控除額(4万円限度)
- 旧契約に該当する控除額(5万円限度)
- 新契約と旧契約両方について適用を受ける場合の控除額(4万円限度)
【個人住民税の生命保険料控除額の場合】
- 新契約に該当する控除額(2万8,000円限度)
- 旧契約に該当する控除額(3万5,000円限度)
- 新契約と旧契約両方について適用を受ける場合の控除額(2万8,000円限度)
生命保険料控除手続き方法は?
生命保険料控除の具体的な手続き方法をご説明しましょう。生命保険料控除の適用を受けるためには、それぞれその年に支払い済みの保険料額を契約保険会社が証明する「生命保険料控除証明書」が必要です。生命保険料控除証明書は10月頃に郵送されてきますので、保管しておきましょう。紛失した場合は、保険会社へ依頼をすれば再発行が可能です。
会社員は年末調整で
会社員や公務員など、給与所得を得ている人は勤務先の「年末調整」で生命保険料控除の手続きをします。
勤務先によって異なりますが、一般的には勤務先から年末調整用の書類が渡され、自分で必要事項を記入していきます。生命保険会社が発行した「生命保険料控除証明書」を参照して必要事項を記入していきましょう。なお国税庁のホームページでは、そのままパソコン上で入力できるフォーマットもあります。
一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料分野別の保険に分かれています。生命保険料は書類の左側ですので、必要事項を記入後、書類の下部にある計算式を参考に金額を記入しましょう。勤務先の総務部など担当部署に、書類と生命保険料控除証明書を添付して提出します。なお旧契約で年間保険料が9,000円以下の場合、控除証明書の添付は不要です。
自営業者は確定申告で
自営業や会社経営者は、2月中旬から3月中旬の「確定申告」時に控除の手続きをします。
確定申告書の生命保険料控除の欄に、控除額を計算して記入します。確定申告書と生命保険料控除証明書を税務署に提出します。
生命保険料控除の計算をマスターして、年末調整をスムーズに
生命保険料控除の計算はシンプルなので、計算式さえわかれば誰でも簡単に算出することができます。また新旧制度両方の生命保険が混在する場合は、限度額以下であれば控除額が大きなものを選ぶことが可能です。
生命保険料控除の基本と計算をしっかりマスターして、年末調整を有利かつスムーズにすすめましょう。
参照 :
(※1)国税庁「No.1140 生命保険料控除」