起業、転職、社会貢献活動など多くの若手は、動き出す機会を伺ってはいるものの、一歩を踏み出せずにいます。「現状維持」を抜け出すには、とりもなおさず動き出すことが大事、と若者のキャリア研究の最前線に立つリクルートワークス研究所の古屋星斗さんは語ります。では、行動するクセがついていない人が行動できるようになるにはどうしたらいいのか、古屋さんに尋ねてみました。

  • キャリアアップに必要なものは「5つの行動」だ__「現状維持」を抜け出したい若者たちへ  /リクルートワークス研究所・古屋星斗

若者の7割は「会社ぶらさがり人間」

名のある大学を出て、学びの成果は十分なのに、なかなかその成果を行動に移せない。そんな若者の割合は決して少なくありません。私の研究で若手社会人の行動特性を分類し、キャリア分布を整理したものが下図です。

このうち自ら起業したり、組織内外で新しいポジティブな取り組みを始めた人は20.5% に過ぎません。動き出す機会を伺ってはいても、実際にイノベーターとして大きなチャレンジに踏み出す人は限られています。

一方でその対極に位置するイノベーター候補も2割存在します。ある沖縄の中学生は東京の高校でいろんな人と出会って学びたいと、クラウドファンディングを利用して資金を集めて上京、今はベンチャー企業のオフィスで授業を受けています。

このように若くても自分で動ける子は、奨学金さえ自分で調達してしまえるわけです。昔で言えば集団就職で東京に出てくるのではなく、ヒッチハイクで東京に乗り込むというイメージでしょうか。

しかし、昔と圧倒的に違うのはその人に注目とお金が集まることです。そういう人が新時代のモデルの一つになっていくのではないかと私は考えています。

YouTuberの「やってみた」動画がバズる理由

私は若者における「行動」に注目して研究していますが、情報化社会の今だからこそ実際に行動して手に入れた原体験の価値が、飛躍的に高まっていると感じています。

例えば就活の口コミサイトなどでも無料で情報は手に入りますが、それだけに希少価値は低い。逆に行動して自分だけの情報を得た人の付加価値が高まります。

オリジナルな情報があるからこそ、無料の情報の解釈の独自性も増して、発信するメッセージの付加価値がさらに高まるという好循環が起こります。いわゆるYouTuberの「やってみた」動画がバズるのも、このような経験の希少価値のおかげと言えるでしょう。

Z世代と言われる若者たちは、年収の高さや就職する企業の知名度などよりも、こうした行動や実体験が自分にもたらす変化に価値を感じる傾向があるようです。

10年以内に必ず「能力観の革命」がやってくる

いま20代前半のみなさんは、30歳までの間に「能力観の革命」に直面する可能性が高いと考えています。これまでの能力観が一変し、優秀さのバロメーター、尺度の見直しが進むのです。

これを痛感したのは、大手企業の若手の「優秀な」人材が中小企業で副業をした時に、ある人はものすごく活躍する、でも別な人は圧倒的な力不足を感じている、と聞いた時でした。

よく知られる大手企業の似通った部署で働いている同世代の若手でも、いざ力試しをしてみると全然パフォーマンスが異なる状況が生まれているのです。

この時に発揮されている能力が、おそらく「能力観の革命」後の重要なファクターになってくると思います。

そして、私の研究ではその1つが「行動力」、それも会社の上司が「5年後自分がどうなってるか考えて行動したほうがいいよ」と言うようなスピード感ではなくて、いま自分ができる一番小さな行動を状況に合わせて発見できるかどうかがキーになると思います。

スモールステップ実践のための5つの要素とは

では大多数の「行動するクセがついていない人」は、どうしたら行動できるようになるのか? 私の研究では行動につながる以下のような5つの累型が見つかっており、みなさんが1歩踏み出すための参考になるかもしれません。

1.自分のやりたいことをアウトプットしてみる

若手社会人への聞き取り調査では「SNSでカメラマンの仕事を始めたいと発信したら、それがきっかけで撮影スタジオの社長とつながり、クラウドファンディングで機材の調達もできた」といった例があります。しかし、こうした発信は簡単そうで実は多くの人が行っていません。

2.背中を押してもらい、パワーをもらう

新しいアクションには不安がつきまといます。こうした不安状態から一歩踏み出すためのエネルギーを獲得するには、身近に応援団が必要です。そのためにも上記のアウトプットにより、仲間や支援者を得ることが大切です。

3.目的を持って探ってみる

漠然とでもやりたいことが見えてきたら、ボランティアや仕事のマッチングアプリなどを使って共感者や働く場を探してみます。目的を持った探索は、コストゼロでいつでもできる小さな行動です。

4.試しにやってみる

例えば動画づくりやアプリ開発、ショップ経営などやってみて初めて自分の可能性の広さに気づくケースもあります。最近は無料お試しツールの充実や各種ワークショップの開催など自分を試す環境も整備されてきました。

5.体験を自分のものにする

1回のセミナーに参加してもそれがすぐ次の計画につながるとは限りませんし、異業種交流会で名刺交換してもそれっきりということも少なくありません。スモールステップの最後の要素として、試したことを振り返り、内省し、自分のものにする時間が大切です。

自ら求めれば地域起こしやボランティア、アイデアソンなど半歩踏み出す機会は無数にあり、仲間とのマッチングツール、資金調達のツールもこれまでになく充実しています。

動き出すきっかけは「他律」でもかまいません。人に誘われて何かを始める、命令されて始める、でいい。例えば友達に誘われてセミナーに参加する、人事発令で子会社に出向になっても良い機会と捉え新しいネットワークづくりを始めてしまう、といったことです。

日本人の場合、むしろこういう始め方が自然かもしれません。どのような局面であっても、「自分ができる最も小さな行動」を発見することが、これからのキャリアを考えるキーワードなのです。

Just Do it, But Small Step.