マツダ初の量産電気自動車(EV)「MX-30」は一体、どんな仕上がりになっているのか。テスラやホンダなどのEVに比べると派手さは少ないが、どのあたりが見どころなのか。なぜバッテリー容量と価格帯が「Honda e」(ホンダe)と一緒なのか。初めてのEVにSUVというボディタイプを選んだ理由は。いろいろと気になったので、実車に試乗して開発陣に話を聞いてみた。

  • マツダの電気自動車「MX-30 EVモデル」

    マツダが2021年1月28日に日本で発売した「MX-30 EVモデル」。いろいろと気になるクルマだ

違和感なく乗れるEV

「MX-30」はマツダのコンパクトSUVで、日本では2020年10月にマイルドハイブリッド(MHEV)モデルが発売となっている。欧州では2020年9月にEVモデルを発売し、これまでに1万台超を販売したそうだ。日本で売るEVモデルのグレードは3種類。価格は「EV」が451万円、「EV Basic Set」が458.7万円、「EV Highest Set」が495万円となる。ちなみに、MHEVモデルの価格は242万円から。HPに載っている最も高価なグレード「Highest Set -Modern Confidence-」(4輪駆動モデル)は305.2万円となっている(特別仕様車をのぞく)。

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    「MX-30 EVモデル」のボディサイズは全長4,395mm、全幅1,795mm、全高1,565mm、ホイールベース2,655mm。MHEVモデルと比べると全高が15mm高い

これまでに、国内外のさまざまなEVに乗る機会を得たが、それぞれのモデルに特徴があり、印象的でとがったクルマが多かった。例えばテスラ「モデル3」ではワープするようなモーターの加速に驚いたし、ホンダeではポップなデザイン、小回りのよさ、先進的な車内のディスプレイなどが気に入った。では、MX-30はどうか。

実車を見て、実際に運転した印象からいくと、MX-30はエンジンを積むクルマから乗り換えても、それほど違和感なく走らせることができるEVなのではないかと感じた。高速道路も都市部の一般道も走ってみたが、小一時間ほどの試乗を終えるころには、MX-30が自分になじんでいるような感じがした。人馬一体の運転感覚を追求してきたマツダだけあって、EVを開発するうえでも疲れなくて楽しいクルマを目指したのだろう。そんな感想だ。

ただ、気になる点もある。例えば、MHEVモデルとEVモデルにほとんど内外観の違いがなく、EVの特別感を演出していないところや、フル充電での航続可能距離が200キロ台というバッテリー容量などだ。そんな気になるポイントについて、開発陣に聞いてみた。

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    「MX-30 EVモデル」はモーター駆動のスムーズな加速や走行中も静かな室内といったEVならではの魅力が楽しめるクルマに仕上がっていた

主査に聞くEV開発の考え方

――いろいろなEVに乗ってきたのですが、MX-30は最もなじみやすいEVなのではないかと感じました。ただ、ホンダeの先進性であったり、テスラの驚くような加速であったりといった、とがった部分は少なかったようにも思いました。MX-30は量産初のEVということで、マツダのEV開発に関する考え方を知るうえで試金石のようなクルマかと思うのですが、どんな思いで開発に臨まれたのでしょうか。

MX-30の開発で主査を務めた商品本部の竹内都美子さん:量産EVの第一歩ということで、ここから進化させていかなければならないと考えています。開発中は、お客様に心地よい空間で心地よい時間を過ごしてもらうこと、純粋に楽しい走りを届けたいということ、大きくいえばこの2つを重視しました。これらが目指したい「通過点」です。

EVの技術をソリューションとして活用し、本体やバッテリーなどの特徴をいかしながら、その通過点を目指しました。ですから、「EVだからこうしよう」とか、「EVだからこうすべき」といった議論よりも、「より純粋で楽しい走りというものに、EVの特徴をいかして近づけよう」という話をしてきたんです。

――EVだからといっていきなり別の味を出すのではなく、もともとマツダとして目指していたところに、EVの技術を使ってどう近づくか。そんな観点でしょうか。

竹内さん:モーターだからできることや、バッテリーだからできることがあります。例えば、より緻密な制御であったり、モーターペダル(エンジンを積んだクルマにとってのアクセルペダルのこと)を戻したときの制御であったりといった要素なのですが、それらを活用しながら、あくまで純粋に楽しい走りを追求しました。

――ガソリンエンジンやディーゼルエンジンで目指していたことを、EVになったことで、より深く追求できるようになったといえますか。

竹内さん:人の感覚とクルマの反応の緻密な「合わせ込み」の部分などでは、EVだからこそできた精密さはあると思います。

――MX-30にはMHEVモデルもあるので、EV専用のクルマとしては作れなかったのではないかと思うのですが、これがEV専用であれば、もっとこうできなのに、みたいなところはありますか。

竹内さん:確かにMHEVモデルもありますが、開発の早い段階から「電動化技術搭載100%モデル」だということは決めていました(MX-30にエンジンだけで走る純内燃機関車はない)。

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    「MX-30 EVモデル」は駆動用バッテリーとして35.5kWhのリチウムイオン電池を搭載。フル充電での航続可能距離は256キロ(WLTCモード)だ。動力性能は最高出力107kW(145ps)、最大トルク270Nm

――MX-30のバッテリー容量(35.5kWh)と価格のレンジ(451万円~495万円)は、ホンダeと全く同じです。その設定に何か意図はありますか。

竹内さん:EVのラインアップがそろってきている中で、バッテリー容量が価格の物差しの1つにはなっていると思います。通常の内燃機関車だと「セグメント」(Bセグ、Cセグなどに分けるクルマの区分)で価格帯が分かれますが、EVは今、ひとくくりで見られている部分がありますから、バッテリー容量を物差しとして使ったのは間違いありません。

EVとはいってもパッケージや大きさは各モデルで違うので、どんな価格設定にするかについては社内でも議論がありました。お客様の声なども聞きながら、価格のレンジができていくのではないかと思います。

――日本市場におけるEVモデルの販売目標として年間500台という数字が出ています。これは生産能力から導き出した数字でしょうか、それとも、ただの数値目標なんでしょうか。例えば、年間500台以上の注文が入っても作れますか。

竹内さん:数値目標として置かせてもらったもので、生産のキャパシティからきた数字ではありません。

――EVの生産ではバッテリーの調達が大変だとよく耳にします。

竹内さん:もちろん、バッテリーセルの製造というのは世界中で大変な状況ですが、正直にいいますと、マツダのボリュームであれば、まだ十分に供給できる数です。

――35.5kWhというバッテリー容量は「LCA評価」(燃料の採掘からリサイクルに至る商品のライフサイクル全体で環境負荷を定量的に把握し、影響を評価すること)の観点から決められたようですが、MX-30はSUVですし、もっと大きな電池を積んで航続距離を伸ばしたかったのでは?

竹内さん:バッテリー製造の際のCO2排出や発電の際のCO2排出などを抑制する技術は今後、劇的に進化していきます。それに合わせて、今後は電池の容量を拡大しながら、お客様のライフスタイル、クルマの使い方に対応していきたいと思っています。今回はマツダにとって、EV量産の第一歩ということで、開発の早い段階でバッテリー容量と電池を搭載する手法を決めて、それ以降は性能、品質、安全面などで万全を期すことに注力してきました。

欧州を中心に、幅広いお客様にマツダブランドに入ってもらいたいという思いもあります。EVを手に取ってもらうための戦略的な価格も考慮して、35.5kWhという容量は早い段階で決定しました。

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    「MX-30」は輸入車を含む他社ブランドからの乗り換えが多いクルマであるとのこと

――バッテリー容量を最初に決めて、それからクルマとしての造り込みを進めていったということですが、遠出にも使えるクルマにするのであれば、バッテリーはもう少し大きくてもよさそうな気がします。

パワートレイン開発本部の新畑耕一さん:いろんな議論があったのですが、この商品は、日本市場でいえば高速道路をどんどん走ったり、何泊かするような旅行に使ったりといったお客様というよりも、普段の街乗り、買い物、通勤などに1日単位で繰り返し使うお客様に焦点を当てて、市街地から郊外までの使い方を想定して開発しました。

――その使い方であれば、コンパクトカーにしてもよかったのでは?

新畑さん:例えば「MAZDA2」のような、ですか?

――都市型コミューターを志向するホンダeはコンパクトカーですよね。

新畑さん:その点についても、開発初期にはいろんな議論があったと思いますが、まず、マツダにとって初めてのEVなので開発費も結構かかる中、限られた投資に収めるという要件からいいますと、何かベースの車両を見立てて、そのうえでEVを商品化しようと考えました。その時のベースとして、最も近かったのが「CX-30」(コンパクトSUV)でした。

なぜMAZDA2や「CX-3」など、もっと小さなクルマを選ばなかったかということなのですが、MAZDA2やCX-3は1世代前のプラットフォームを使った商品なので、電気関係のシステムも1世代前のものなんです。EVでやりたいこと、できることを考えたとき、正直にいいますと、MAZDA2などでは整合を取るうえでハードルが上がってしまいますし、トラブルが起こってもいけないので、トータルで考えてこのサイズ、この車体のEV化ということに落ち着きました。

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    「MX-30 EVモデル」はステアリングの裏側にあるパドルでモーターペダルから足を離した時の減速の強さを調整できる。調整幅は5段階。減速の強さに合わせて、ペダルを踏んだときの加速度も変化するのがMX-30の特徴だ

――MX-30に奇抜で目立つ装備を付けなかった理由はありますか? 例えばホンダeやアウディ「e-tron」だと、サイドミラーがカメラになったりしています。MX-30の場合、MHEVとEVの違いはガソリンで走るか電気で走るかくらいしか見当たりませんが、EVモデルにとがった演出を施すおつもりはなかったのでしょうか。

竹内さん:これは(MHEVとEVを差別化しなかった点は)、日本市場でお客様からお声をいただいたうえでの反省点だと思っています。日本はMX-30のMHEVモデルとEVモデルが併存する数少ない市場なのですが、100万円以上の価格差があるにもかかわらず、EVであることが識別しにくいというところは、お客様が商品を選ぶ際に、少し残念に感じてしまうポイントになってしまったと真摯に受け止めています。

なぜ全く同じデザインで、同じ装備なのかについてですが、EVの主要な市場は欧州で、欧州ではMX-30をEVモデルだけで販売しています。なので、欧州では逆に、このEVモデルがスタンダードなデザインであり、装備なんです。

EVの主要市場が欧州で、MHEVの主要市場が日本というのは、このソリューションを適材適所で導入していくにあたっての最初の構想でした。ただ、日本市場でもEVのニーズが急速に高まっている中で、一般のお客さまにもEVモデルをお届けすることを想定して、デザインや装備をまだまだ考えなければならなかったと思っています。

  • マツダの電気自動車「MX-30 EVモデル」
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  • MHEVモデルに対するEVモデルの外観上の違いは、「ELECTRIC」のロゴ(左)、「e-SKYACTIV」のバッジ(中央)、ガソリンの給油口よりも大きい充電口(右)といったところだ