「もったいないから続けよう」「せっかくここまで続けたんだから、最後までやろう」。
日常生活、およびビジネスシーンで時折、上記のような考え・発言がなされます。しかし、その判断は果たして合理的なのでしょうか? その一見合理的に思える判断には知らずのうちに「サンクコスト効果」が影響しているかも……。
本記事では、人の意思決定に影響を与える「サンクコスト効果」について紹介します。ビジネスシーンや日常生活で活用できる知識であるため、これを機に、この効果についての知識を深めておきましょう。
サンクコスト効果とは
「サンクコスト」とは「埋没費用」とも呼ばれる、過去に支払ってしまいどのようなことをしても取り返すことのできないコストのことです。そして、「サンクコスト効果」とは、損失する可能性が高いとわかっていても、過去に投資したコストの価値を引きずってしまい、やめられないという心理的傾向を表します。
サンクコスト効果とコンコルド効果の違いは?
サンクコスト効果と同じ意味を持つのが「コンコルド効果」です。ビジネスシーンでは時折用いられる言葉であるため、こちらの方が聞き馴染みがあるという方もいることでしょう。
コンコルド効果という名前の由来は、1962年に作られた旅客機「コンコルド」にあります。コンコルドは約4,000億円をかけて開発されましたが、開発途中、同プロジェクトを継続しても黒字転換ができないという試算がなされました。しかし、それまでの投資を惜しんで運用を続け、最終的には数兆円という莫大な赤字を出す結果に――。
このことを指して、結果が目に見えているのに、それまでにかけた費用に対する執着が捨てられないという状況を「コンコルド効果」と表現するようになりました。これはサンクコスト効果の事例として有名です。
サンクコスト効果の具体例
サンクコスト効果は、日常やビジネスシーンにおいて多くの場面で見られます。実際に身近で起こるサンクコスト効果の具体的な例を見ていきましょう。
例1. 多額の費用を投じた新規事業
新しい事業を始める時は、多くのお金や時間を費やします。
しかし、始めた事業がうまく行かずに赤字ばかりという場合には、事業の撤退も視野に入れるのが合理的な判断です。しかし、この判断に立ちふさがるのがサンクコスト効果です。
「元を取るまで続けなければ」「続けていれば収益を得られる日が来るかもしれない」という考えが強くなるため、中止や撤退を決定するのがとても難しくなるのです。
例2. 洋服整理
しばらく着ていない洋服を処分しようと思った時、「もう何年も着ていないけれど、高い値段で買ったから捨てるのはもったいない」と考えた経験は、多くの方にあることかと思います。
その服を何年も着ておらず、かつその服が収納スペースを圧迫してしまっているような場合には、「捨てる」という判断が妥当ですが、洋服を買った時に出したお金が無駄になることを惜しみ、捨てられないという判断にはサンクコスト効果が影響しています。
サンクコスト効果はマーケティング領域で活用されている
人の意思決定に影響を及ぼす「サンクコスト効果」ですが、マーケティングではこの効果を活かして消費活動を促すことができます。ここからは、実際にサンクコスト効果がマーケティングで活用されている例を紹介します。
継続利用・購入金額などによるランク付け
継続利用・購入金額により、会員ランクがシルバー会員、ゴールド会員と上がっていき会員特典が増える――、というサービスを利用したことはありませんか?
この手法にはサンクコスト効果が活用されています。ヘビーユーザーに対して高いステータスを付与することで、ユーザーには「もうすぐゴールド会員だから利用を続けよう」「あと1万円の利用をすれば特典が受けられるから、欲しいものがないか探してみよう」といった考えが生まれます。
その結果、継続利用者の増加、さらにはサービス利用回数の向上などが期待できます。
パートワーク誌
パートワーク誌とは「分冊百科」とも呼ばれ、1つの内容を数冊に分けて完結させるタイプの雑誌です。
例えば、プラモデル誌では毎号1つのパーツが付録としてついており、「1年購入を続けるとすべてのパーツが集まって1つのプラモデルが完成する」という方式がよく見られます。
分冊として出版することで、「途中で購入を止めると今まで買ってきた分が無駄になってしまう、最後まで購入したい」という感情が働きます。
サンクコスト効果を理解するための「機会費用」とは
サンクコスト効果によって合理的な判断ができない状況では、「機会費用」に目を向けることが重要です。「機会費用」とは、選択をすることで失った価値のことです。
例えば、先述のパートワーク誌において、「途中で購入を止めるなんてもったいない」と考え、結局プラモデルが完成するまで購読を続けたケースを考えましょう。この際の機会費用は「購読料、およびプラモデルを作った時間」です。
この「機会費用」を考えたうえで、本当に購読を辞めることが「もったいないことなのか」を合理的に判断することが重要なのです。その購読料、およびプラモデルを作った時間といったコストを別のものに割いた方が自分のためになると考えられれば、それまでの投資コストが無駄になるのも惜しくないと思えることでしょう。
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本記事では、サンクコスト効果およびその他の心理的作用について紹介してきました。「サンクコスト効果」を理解することで、コストを有益に使うことやマーケティングに活用していくことが可能になります。
物事を決定する時にはサンクコストに依存しすぎないようにして、適切な選択ができるように心がけましょう。もしも心当たりがあるという方は、「機会費用」について改めて考えてみることをおすすめします。