2020年は、新型コロナウイルスが日本経済に大きな影響をもたらしました。そんな中、不動産業界にも少なからずコロナウイルスの影響は出ていて、新しい生活様式においては家探しにも工夫が必要です。
今回は、コロナ禍における家探しのコツについて、アットホームラボ株式会社の磐前淳子さんに教えていただきました!
磐前淳子(いわさき・じゅんこ)さん/アットホームラボ・データマーケティング部部長。アットホームに入社後、営業職・企画職などに従事。2019年5月、アットホームのAI開発・データ分析部門より独立発足したアットホームラボの設立に伴い、現職。不動産市場動向や業況の分析などを担当。各種レポートの公表や、講演・執筆などを行う。
コロナ禍で家賃にはどんな変化があった?
――コロナ禍において、首都圏の賃貸マンション・アパートの家賃に何か変化はありましたか?
「首都圏の募集家賃については、コロナから大きな変化は受けておらず、相場の家賃は堅調です。例えば、東京23区の2020年12月の平均家賃指数は、どの広さでも昨年同時期の家賃を概ね上回っている状況で、決して暴落したということはありません。また、2015年と比べても、長期的には上昇傾向にあることがわかります」
「ただ、昨年11月までの5カ月間という短期間で見てみると、30平方メートル以下の『シングル向き』の部屋と、30平方メートルから50平方メートル以下の『カップル向き』の部屋の家賃はコロナの影響もあったと考えられ、下落傾向でした。その短いスパンで考えると家賃が下がっているように見えますが、むしろコロナ禍においても、相場の家賃は堅調だと言えるでしょう」
――なるほど。コロナの影響でシングルやカップル向きの部屋は短期的に下がったけれど、堅調な状態が続いているということですね。
「そうですね。依然として家賃の水準が高い状態です。さらに、ファミリー向けの面積の広い物件に至っては、コロナ禍においても賃料は概ね上昇傾向を維持し続けています。コロナの影響で賃料が大幅に下がったとは言えない現状です」
2021年の家賃動向はどうなる?
――2021年、特にシングル・カップル向けの家賃は、どのような動向になると思われますか?
「不動産業界にとっては、例年3月から4月にかけては、就職や入学を控えた人が家探しをする『トップシーズン』です。今年は、それまでにコロナが収束できるかどうかによって、家賃の動向が変わると考えています。去年のトップシーズンは、コロナの影響が大きく、家探しをする人は減少傾向でした」
「コロナが収束しない限り、学校ではオンライン授業が続き、企業では転勤が減るなどして、単身の引っ越しは減少傾向が続くでしょう。そうなると、シングル向きの物件は空室が増え、入居が決まりにくい物件は、募集家賃を下げなければ人が入らなくなる可能性も。入居者にとっては、入居しやすい環境だと言えるかもしれません」
――そうなると、2021年は賃貸物件を探すいい契機とも考えられそうですか?
「コロナがなかなか収束しなかったとしても、全ての物件の家賃が安くなるとは考えにくいと思います。コロナ以前、都心の賃貸物件は、入居は好調、家賃も上昇傾向でしたが、コロナ禍でも入居が決まりやすい物件については同様の傾向が続いています」
――「入居が決まりにくい物件」という言葉が出てきましたが、コロナ禍でも入居が決まりやすいのは、どのような物件ですか?
「今人気なのは、設備面に力を入れている物件ですね。例えば、インターネット使用料が家賃に含まれていて実質無料だったり、宅配ボックスがあったりと、『非対面』、『非接触』での暮らしが実現できる物件の人気が高まっています。そうした潮流を汲み取って、設備面に力を入れる不動産会社やオーナーさんも増えているので、その観点では、設備面が整ったいい物件に出会うチャンスが増えています」
コロナ禍での家探しのコツは?
――ここまでお話をうかがってきて、コロナ禍は、家探しをするいい機会とも言えるのかなと感じたのですが、やはり不安な気持ちを抱いている人も多いと思います。コロナ禍での家探しは、どのようなことに気をつけるといいでしょうか?
「オンラインツールやサービスを使いながら、窓口での接触時間を減らした家探しがおすすめです。今はオンラインで物件探しがしやすい環境が整ってきています。アットホームでも、申し込みから、契約の手続きまで、ほぼ全ての過程をオンラインで進めることができる『スマートソリューション』というサービスや、お部屋探しアプリ『アットホームであった!』などを展開していて非常にご好評をいただいています」
――物件探しをする人が、不動産会社の店舗に行く前にこうしたツールを使って、自分の希望条件を整理できると良さそうですね。
「そうですね。実際に相談に来ていただくまでに、オンラインで情報収集をしていただき、聞きたい質問事項を事前にまとめておくのもおすすめです。また、メールや電話など、非対面で事前に連絡をとっておけば、当日の対面時間を減らすこともできます。一度も物件を見ずに入居を決める人が増えているという話も聞くので、物件探しのオンライン化は今後ますます進んでいくと思います」
コロナをきっかけに「自分らしい住まい探し」を
――コロナ禍で家探しをしている人たちに対して、磐前さんからアドバイスをいただけますか?
「私たちは、これまで1年以上に渡って自粛生活を続けてきました。まだまだ新型コロナウイルスの完全な収束の目処は立ちませんが、いつまでも我慢して、『住まい探しは後回し』という時期は終わったように感じています」
「また、新しい生活の中では『住まい方の多様化』が顕著になりました。テレワークしやすくなったからといって、全員が郊外に住みたいと思っている訳ではないし、収入が減って家賃を低く抑えたいと思っている訳でもないですよね。通勤時間の制約がなくなり、『書斎やキッチンを広くしたいから、面積の広い家に引っ越したい』と考えて郊外に引っ越す人もいれば、出勤回数が減っても『通勤時間を短くしたいから都心に住む』という人もいます。今は『価値観の分散』が起きていて、どんな生活をしたいかというのが、一人一人違ってきています」
――住まいに関する考え方に多様化がもたらされているんですね。
「2020年12月の家賃動向によると、単身世帯向け(30平方メートル以下)の賃貸物件の家賃は、東京23区内は平均8.9万円です。一方、千葉県内は平均6.1万円で、その差は2.8万円にもなります。東京23区内と千葉県内では、同じ家賃の住居でも、設備や広さに大きな違いが生まれることがわかります。こういった違いをしっかりと認識した上で、自分の考えを整理し直して住まい探しをしてほしいと思います」
――違いを知った上で、自分はどんな住まいで暮らしたいか考えることが大切ですね。
「コロナ禍で、自分が住まいに何を求めるのか、より鮮明になった人も多いと思います。だからこそ、自分の価値観に合った住まいを、設備や価格帯、地域など、さまざまな観点から探してもらいたいです」
「また、家族で住まいの価値観を話し合うきっかけになればいいですよね。家族みんなが納得して、ハッピーになれる。家探しをする中でお互いの価値観を話し合って、それぞれの生活を考え直すこともできると思います。ぜひ、『自分らしい住まい探し』を実現してくださいね!」