「両面提示」という言葉は、営業職の方ならよく耳にしたことがあるかもしれませんが、この言葉の意味と使い方を明確に知っているという方は少ないのではないでしょうか。この両面提示という言葉の意味を知っておくと、交渉をスムーズに進められます。
この記事では「両面提示」の意味と使い方、詳細な使用例などを紹介します。
人間関係で交渉に折り合いをつけたい時や、他人にアピールしたい時、「両面提示」が活用できます。言葉の意味と使い方を学んで、ビジネスや人間関係に活かしていきましょう。
両面提示の意味
「両面提示」とは、相手を説得する時に良い面(メリット)と悪い面(デメリット)の両方を伝えることです。
例えば誰かを食事に誘いたい時、「とても美味しいラーメンだから食べに行きましょう」と、良い面だけを言うのではなく、「少し遠くにあるお店ですが、とても美味しいラーメンです」と、悪い面も伝えます。
物事の両面を伝えると相手は安心します。お店が遠くにあることが後で分かった場合、「先に伝えてほしかった」と思う方もいると想像し、事前に配慮をしましょう。
両面提示と片面提示の違い
「両面提示」とは心理学用語ですが、両面提示に対し「片面提示」という言葉もあります。「片面提示」はメリットかデメリットの一方だけを伝える方法で、交渉する内容や、相手との信頼関係の違いなどによって使い分けるのが有効です。
先程の食事に誘う場合を例にとって考えてみましょう。
例えば、「美味しいラーメだから食べに行きましょう」と、良い面だけを伝えて交渉する場合、お店が遠くにあることを気にしないフットワークの軽い相手や、美味しいラーメンに目がなかったり、すでに信頼関係が構築されていたりする相手であれば問題はないでしょう。
しかし、信頼関係が薄い相手であった場合、良い面しか伝えられていないと信頼度を下げたり、気分を害されたりする可能性があります。
両面提示と片面提示の使い分け
両面提示と片面提示は、使用する内容・場面・相手によって、使い分けるのが有効です。
まず、片面提示が有効なのは次のような時です。
- 相手と信頼関係がある場合
- 相手が対象物に対する知識がない場合
- 相手が直感的な思考の場合
メリットだけを伝える場合、相手が決断しやすい反面、後でデメリットを知ってトラブルになる可能性があります。
次に、両面提示が有効なのは次のような時です。
- 相手との信頼関係がない場合
- 相手が対象物に詳しい場合
- 相手が論理的な思考の場合
ビジネスにおいて両面提示を活用するメリット
ビジネスにおいては、メリットとデメリットの両方を比較検討して最終判断する必要があるので、両面提示の活用が有効です。
ここからは、両面提示を活用するメリットを紹介していきます。具体的なメリットを知り、ビジネスに活かしましょう。
メリット1. 誠実で正直な印象になる
メリットだけを並べて交渉すると、デメリットを隠しているのではないかと、相手は疑いたくなります。
特に交渉の初期、相手との信頼関係が構築されていない段階で、メリットばかり提案されてしまうと、交渉を有利に進めたいだけではないかと警戒されてしまうのです。
デメリットを隠さず伝えることで、誠実で正直な印象になり、相手との信頼関係を築くのに役立ちます。
メリット2. 信頼感や説得力が得られる
こちらにとって不利と思える情報を伝えることで、信頼感を得られます。
伝え方の例を挙げると、「在庫に余裕がありません。厳選した原料を使用しているため、生産数に限りがあるからです」など、デメリットがメリットに繋がっていれば、説得力が増すでしょう。
両面提示を活用してデメリットも伝えることで、信頼感や説得力が得られやすくなるのです。
メリット3. クレームの予防になる
伝えられていなかったデメリットが後から分かると、さほど問題ではないことでも人は損したように感じることがあります。また、それが大きなデメリットであればいつかは必ず大きな問題になるでしょう。
しかし、あらかじめデメリットを知っていて、十分検討した上で導入したのであれば、問題になる可能性は少ないと言えます。デメリットを最初から伝えておくことで、クレームの予防につなげられます。
ビジネスにおいて両面提示を活用した具体例
ここからは、ビジネスで両面提示を活用した具体例を解説します。
中には、両面提示を用いて解説する場面を体験したことがあるという方も多いかもしれませんが、ここから挙げる具体例を通して、「両面提示」をより深く理解しましょう。
家電量販店でのセールストーク
家電量販店で、加湿器を勧める販売員のセールストークの例です。
- A : 「こちらの加湿器は、加湿だけでなく、空気清浄機能とタイマー機能が付いています」
- B : 「こちらの加湿器は1万円ほど価格が高いですが、加湿だけでなく空気清浄機能とタイマー機能が付いています」
Aが片面提示、Bが両面提示です。
機能が増えれば価格が高くなるのは分かっていることですが、先に提示されることで、顧客は納得しやすくなります。
中古品やアウトレット商品についての説明文
中古品ブランド財布の商品説明文を例にします。
- コンパクトなサイズですが、必要な物は収納できる機能的な作りです
- 汚れ、黒ずみ、角スレ、金具スレなど使用感があります
このように、中古品やアウトレット商品の場合、機能だけでなく商品の状態を記載することで顧客も安心感が得られ、信用度も上がるのです。
両面提示の組み立て方
両面提示は、組み立て方によって相手に与える印象が大きく変わります。
ここでは、両面提示の組み立て方を紹介します。シーンに合わせ、より効果的に両面提示を使えるようになりましょう。
デメリットを先に言う
前述した家電量販店でのセールストークのように、両面提示を活用する際は、まずデメリットを先に伝えましょう。メリットを先に伝えてしまうと、デメリットの方が記憶に残りやすくなってしまうため効果的とは言えません。
最後はメリットで締める
デメリットの後でメリットを聞くと、メリットの効果がより高く感じられ、相手に良い印象を残せます。これは「親近効果」というもので、人間が複数の情報を聞いた時、最後に聞いた情報が記憶に残りやすく、影響を受けやすいという心理効果の影響です。
<自己紹介の例>
- 「私は計算が得意で明るい性格ですが、スポーツは苦手です」
- 「私はスポーツが苦手ですが、計算が得意で明るい性格です」
このように、後者の方がポジティブな印象を残せることが分かります。
デメリットとメリットに関連性を持たせる
例えば、「納期に時間がかかる」というデメリットが「品質検査を丁寧に行っているから」というメリットの裏返しになることがあります。これは、デメリットによって品質に信頼感が得られる例です。
このように、デメリットと思える内容がメリットに繋がっていると、信頼感や説得力が得られます。
両面提示の広告事例
ここからは、両面提示の広告事例を紹介します。
広告は商品のメリットを訴えるため一面提示になりがちですが、両面提示を使うことで見る人の安心感や信頼感を得られ、イメージアップにも繋がるのです。
具体的な広告事例を知って、両面提示の理解をより深めましょう。
キューサイ青汁
キューサイの青汁の広告、「まずい、もう一杯」が最初に登場した時、食品を「まずい」とあえて言うことに大きなインパクトがありました。
「まずくても健康のための青汁」という両面提示のメッセージが顧客へ届き知名度が上がったため、青汁は市場に浸透したと言えるでしょう。
ドモホルンリンクル
「初めての方にはお売りできません」という、顧客を選ぶかのような再春館製薬の広告は、誠実な企業姿勢とリンクし、顧客を引き付ける結果となりました。
商品を試してもらって、納得して頂いた顧客にのみ販売する方法は、商品への自信と顧客への誠実な姿勢を裏付けたのです。
デメリットと思える内容を、メリットとして伝えることに成功した広告の例でしょう。
***
ビジネスシーンでは、メリットをアピールする片面提示に限らず、状況に応じて両面提示を取り入れることで、安心感や信頼感を出すことができ、結果的にイメージアップや説得力の向上につなげられます。
両面提示の使い方を理解して、ビジネスに活かしましょう。