許斐剛氏による大ヒット漫画『テニスの王子様』(通称『テニプリ』)の続編である『新テニスの王子様』が舞台化され、現在上演されている。『テニプリ』の舞台化作品であるミュージカル『テニスの王子様』(通称『テニミュ』)は、現代エンタメの中でも一大ジャンルに成長した2.5次元ミュージカルの元祖とも言われており、若手俳優の登竜門。今回、初めてテニミュの続編が舞台化されるとあり、多くの注目を集めている。
現在18年目となる『テニミュ』は、全42巻にわたる原作の展開を「〇〇公演」と区切り、中学テニスの全国大会までを数年かけて連作上演することで1シーズンを終え、その間にキャストたちも代替わりする、という仕組み。さらに演出や楽曲の改変、キャストの刷新を行いながらそのサイクルを繰り返し、現在3rdシーズンまで終了している。今回の『新テニミュ』は、いわば『テニミュ』の先にある物語で、U-17(アンダーセブンティーン)日本代表合宿に参加した越前リョーマら中学生たちと、強者揃いの高校生たちの姿を描く。満を持しての上演には『テニミュ』3rdシーズンから続投のキャストや、グランドミュージカルで活躍するキャスト、そして『テニミュ』OBキャストも名を連ねた。
今回は、ミュージカル『新テニスの王子様』The First Stageで、2月の東京凱旋公演から新たに入江奏多役(Wキャスト・泰江和明)を務める相葉裕樹にインタビュー。1stシーズンで青学(せいがく:青春学園)2・3代目の不二周助を務め、テレビアニメ『新テニスの王子様』では入江奏多の声優も担当、現在はグランドミュージカルを中心に活躍する相葉が、今改めて『新テニミュ』に出演する心境などについて話を聞いた。
■予想されることを、いい意味で裏切っていきたい
——『新テニミュ』の企画、出演を聞いた時の感想はいかがでしたか?
『新テニミュ』という新しい企画があって、さらに僕はアニメ『新テニスの王子様』でも入江奏多の声を務めていたので、こうした形で舞台に出演できることになって、嬉しかったです。2.5次元ミュージカルから10年以上離れていたので、まさかまた自分自身が携わると思っていなかったと同時に、戻れるとしたら『テニミュ』しかないとも思っていたので、感慨深いところもあります。今の自分がまた『テニスの王子様』に戻った時に、どういうパフォーマンスができるのかという点も僕自身楽しみですし、昔から応援してくださっているファンの方々にも観ていただけるいい機会になって、本当にありがたいなと思いました。
——周囲やファンの方からはどんな反応がありましたか?
驚いていました。まさか『テニスの王子様』に戻るという発想は誰も持っていなかったんじゃないかな? でも、皆がやると思っていないものをやった方が面白いという気持ちがあり、だからこそ、やる意味があるような気もしているんです。予想されることを、いい意味で裏切っていきたいから、このタイミングでミュージカル『新テニスの王子様』に携わるのは、とても良かったと思います。
コロナ禍で舞台に立つこともなかなか難しくなり、ステージがあるということもありがたいですし、皆さんがエンタメを欲していることもひしひしと感じています。僕自身も先日、約半年ぶりに舞台に立ち(現代能楽集Ⅹ『幸福論』)、エンタメで心の癒しや安らぎ、娯楽をどこかで求めている事に気づきました。『新テニミュ』のような作品で、観た方が勇気をもらったり、モチベーションがあがったり、楽しい気持ちになって帰ってくれれば嬉しいです。エンタメには力があります。特に2.5次元ミュージカルはキラキラとしていて、誰しもが楽しめるので、こういう時代だからこそ、やる意味があるんじゃないかなと思います。
——相葉さんがミュージカルもストレートプレイも2.5次元も幅広く出られるんだなと驚きました。
2020年は現代能楽集Ⅹ『幸福論』に出演し、シアタートラムでストレートの芝居をやって、他にも立ちたい劇場も増えました。『新テニミュ』も含め、やりたいことはどんどん増えますね。
——時代の変化も肌で感じているところはありますか?
感じます。あまり形式にこだわる必要はないのかなと思います。
■先輩としての意地も感じる
——実際にミュージカル『新テニスの王子様』を観られたということですが、感想はいかがでしたか?
東京公演を観させていただきました。みんなキラキラしていて、お客さまもすごく楽しそうで、「また新しい『テニミュ』が始まるんだ」という感覚がありました。きっと、お客さまも同じように感じていて、ここから新たな一歩を踏み出すんだろうな、と思いました。観てくださった方も、一歩踏み出す勇気をもらって帰れるような作品になっているんじゃないかな。それくらい活力のある作品だったので、自分が東京凱旋公演で参加する時には、入江奏多としてしっかりパフォーマンスを見せていけたらと思います。
——そこに相葉さんが入るのが楽しみという意見も多いかと思います。
それはそれで、期待値がどんどん上がっている気がしていて(笑)。声優を務めさせていただいたこともありますし、俳優としてのキャリアを経ての参加ということもあって、今まで感じたことのない、先輩としてのプレッシャーがあるんです。U17(アンダーセブンティーン)の中で1番年上ということにも驚きですし……。最初は、もっと楽な気持ちで参加できるのかなと思っていたのですが、今、めちゃくちゃドキドキしています(笑)。
今回改めて「先輩って大変なんだな」と感じました。役者の世界でそう感じるのはまだ早いのかもしれませんが、先輩方もこう感じているんだと、『新テニミュ』で実感しています。
——今回コーチの三船入道役で出演される岸祐二さんもすごい歌声で劇場を揺らしていますよね。
もはやグランドミュージカルでしたよね(笑)。『新テニミュ』は全体的にクオリティが高いと思います。僕も観に行った時に、岸さんが色々とアドバイスをされているのを見たんです。全体を底上げしようとして引っ張られているのがすごいですし、若いキャストにとっても岸さんから直接アドバイスいただけるのは、とてもありがたいことだろうと感じました。
僕が思うに、最近は「この作品が俳優デビューです」という時に、歌えたり踊れたりするキャストが本当に多いんです! 僕らの時代の時の『テニミュ』ともまた違う感覚で、今はみんなできるところからのスタートなので、うかうかしてられないですし、先輩としての意地もあるので、不思議です(笑)。
■「原作以外全部出てる」と話題
——相葉さんといえば青学(せいがく)2代目から続けて3代目を務めたり、その後も不二役として出演されたりと、頼りにされているところがあるのかな? とも思います。
『テニミュ』に関してはなぜかそういうポジションが多いですね。特に2代目から3代目になった時はリーダーのポジションをやっていたけど、本来リーダー気質でもなく、末っ子気質で甘えん坊なので甘えていきたいんです(笑)。立場があると不思議と変わっていくもので、役割を全うしようという気持ちが生まれるのかもしれません。ただ、今回は引っ張るというよりも、短い稽古の中で教わることの方が多くて。舞台は積み上げてこそだと思うので、みんなの熱量に早く追いつきたいです。
——今回の相葉さんの出演が発表された時には、「『テニスの王子様』の原作以外は大体出てるんじゃないか」と話題にもなっていました。
そんな反応があるんですね!(笑) ありがたいことに、ミュージカル『テニスの王子様』、『実写映画 テニスの王子様』、アニメ『新テニスの王子様』、ゲーム『新テニスの王子様 RisingBeat』、ミュージカル『新テニスの王子様』と、様々なコンテンツに参加させていただいて……。でも原作に関しては、許斐先生次第になってくるので、ぜひ許斐先生にお願いしたいです(笑)。僕としては、ここまで一つの作品でいろいろなジャンルに携わることはないし、『テニスの王子様』に出会っていなかったら、俳優として活動もしていないので、頭が上がらないです。
デビューがミュージカル『テニスの王子様』で、そこから16年俳優としてやってきているので、『テニスの王子様』を語らずして相葉を語れない、くらいの存在です。基盤になってるし、原点というか。右も左もわからないところから育てていただいた作品だと思っています。
——そんな相葉さんから見て、Wキャストの泰江さんの印象はいかがですか?
カズ、と呼ばせてもらってるんですけど、ものすごくいい子で、僕の中では「令和始まって以来のいい子」だと感じてます(笑)。こんなにいい子がいるんだ! という感じです。真面目で、研究熱心で、役に対してのリスペクトもあるし、僕に対しても丁寧に接してくれるんです。ニコニコしてるし……かわいいですよね(笑)。カズの入江奏多を初めて観た時に「完璧な入江だ!」と感じて、東京凱旋で出演する時に、僕が出る意味を見出さないといけないと思いました。ものすごく良かったんです、カズの入江が! だから、カズの入江を受け継いで、僕自身も良い風に作用できたらいいな。いいアイディアをもらいつつ、挑めたらいいなと思っています。
——相葉さんはアニメ『新テニスの王子様』でも入江役なので、同じシーンを今度はミュージカルで演じるということにもなるわけですが、どういう感覚なんですか?
アニメと舞台だとどうしても見せ方が違いますし、同じ尺でセリフを言えなかったりするんです。アニメだと5秒使えていたところが、舞台だと3秒のラリー音の中でセリフを入れないといけないとか……そうなると若干ニュアンスも変えないといけない。その上で、ミュージカルだからこそできる、キャラから逸れない中での身体的な表現の自由さも感じているので、本当に楽しみです。
——最後に、2021年はどんな年にされたいですか?
2020年は思いもよらぬ情勢に陥ってしまい、誰しもが思うようにいかなかった年なんじゃないかなと思います。ただ、僕自身はその中でもいろいろと挑戦させていただいたので、2021年はそれを生かして、蓄えていた力を発揮する年にしたいです。また2022年、2023年にもつながるものを出していけたらいいなと思います。
■相葉裕樹
2004年映画デビュー、ミュージカル『テニスの王子様』(05年~08年)で初舞台デビュー。以来様々な作品で活躍し、『侍戦隊シンケンジャー』(09年)、『戦国鍋TV ~なんとなく歴史が学べる映像~』(10年)出演も話題となる。主な出演作に『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』(15年)、『HEADS UP!』(15年、17年)、『スカーレット・ピンパーネル』(16年)、『タイタニック』(18年)、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』(19年)、『アナスタシア』(20年)、現代能楽集Ⅹ『幸福論』(20年)、ゲーム『ディズニー ツイステッドワンダーランド』(ボイスキャスト)など。2021年はミュージカル『レ・ミゼラブル』(5月~10月)を予定し、17年、19年に続き3度目の出演となる。