フジテレビの現役社員・初瀬礼氏が、最新小説『警察庁特命捜査官 水野乃亜 モールハンター』(双葉文庫)を書き下ろした。半グレ集団と上海マフィアの抗争をきっかけに、警察内部にマフィアに通じる人物が潜んでいることが発覚し、さまざまな思惑が交錯していくストーリーだ。

『警察庁特命捜査官 水野乃亜 モールハンター』(双葉文庫)

物語は、東京・錦糸町のシティホテルのラウンジで、半グレ集団の幹部が刃物で襲われる事件が起きるところから始まる。捜査が遅々として進まない中、千葉県警に着任していた警察官僚の・水野乃亜は、警視庁への転任と当事件の捜査本部着任を命じられる。だが、その人事には別の使命が隠されていた――。

タイトルにある「モール」とは、<スパイ、潜伏内通者>の意味。警察内部の“裏切り者”を捜し出そうとする過程が1つの縦軸で描かれるが、ここにキャリア・ノンキャリアという階級制度、権力者の面子、組織の縄張り意識といった様々な事情によって軋轢(あつれき)や疑心暗鬼を生んでいく。こうした姿は、実はどの組織にも当てはまるのではないかと考えさせられる。

そこに、半グレ集団×上海マフィア抗争の捜査、新たな事件の発生までもが複雑に絡み、「モール」の目星が目まぐるしく変わってきながら、伏線をどんどん回収してクライマックスに向かっていくスピード感あふれる展開は、シリーズ前作の『警察庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ』と同様、“怒涛のノンストップ警察小説”の看板に偽りなしだ。

舞台は、新型コロナウイルス危機が去り、再び外国人観光客が数多く来日し、労働者不足を背景にした入管法の改正で、都内の外国人居住者がコロナ前を上回ろうとする世界。それに伴う外国人犯罪集団の増加というリアルな近未来を感じさせる描写の中で、外国人差別の問題にも文章量を割いており、テレビ局で報道などを担当してきた著者のバランス感覚が伺える。

初瀬氏は、2013年にサスペンス小説『血讐』(リンダパブリッシャーズ刊)でデビューし、同作で第1回日本エンタメ小説大賞・優秀賞を受賞。16年に発表したパンデミックをテーマとした『シスト』(新潮社刊)、『呪術』(同)、そして『警察庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ』、今作『警察庁特命捜査官 水野乃亜 モールハンター』と執筆を重ねてきた。

『警察庁特命捜査官 水野乃亜』シリーズは、若き警察キャリア・水野乃亜の成長物語としてもストーリーが進行しており、今作はさらなる続編が期待できるラストとなっている。