昨年はNVIDIAとAMDから相次いで新世代GPUがリリースされ、性能面の評判も高かったことから、特にグラフィックスカードが盛り上がった年であったと言えるだろう。年末のGeForce RTX 3000シリーズとRadeon RX 6000シリーズの頂上対決は未だ記憶に新しい話題だ。
その2020年、国内市場でグラフィックスカードの販売台数シェアトップだったメーカーが、エムエスアイコンピュータージャパン(MSI)。今回はMSIの担当者のところにお邪魔して、人気の秘訣からはじまり、最近のトレンド、新展開など、グラフィックスカードにまつわるアレコレを色々と訊いてきたので、その内容をお届けしたい。
グラフィックスカード、人気の秘訣は?
-- MSIのグラフィックスカードが国内シェア1位だったと伺いました。
エムエスアイコンピュータージャパン GNPプロダクトマーケティング 冨原啓行氏(以下、敬称略): BCN AWARD 2021で1位をいただきました。BCN AWARD 2020でも1位を獲得していたので、2年連続です。
冨原: 伸びてきたのは2013年頃からで、GeForce GTX 500番台が人気になり、その後に仮想通貨のマイニングブームがあって、Radeon RX 480というか、とにかくRadeonが大人気という時期もありました。2016年から2017年くらいにはシェア20%あたりまできて、これが2019年に30%を超えて、初めて1位になりました。
-- これまでに、象徴的に「コレが売れた!」という製品はありましたか?
冨原: 振り返ってみるとGeForce GTX 600番台、特にGeForce GTX 660を搭載したゲーミングシリーズの「N660GTX Twin Frozr」は人気がありました。
冨原: ちょうど日本でもeスポーツが盛り上がり始めていて、初めてPCでゲームがやりたいといったユーザーさんが増えるのと一緒に伸びたという実感です。ここで、「新規で自作PCを組む人が増えたなあ」という実感がありました。
-- MSIの製品が新しいユーザーにウケたんですね。MSIと言えばマザーボードでは当然みんな高評価なんですが、グラフィックスカードではどこが評判だったんでしょう。
冨原: 価格比較サイトやゲーマーが集まるコミュニティの口コミなんかをチェックしていたんですが、「クーラーが良い」というのが特に評価されているポイントでした。
冨原: あとは「LED」です。クーラーに「Twin Frozr V」を投入したあたり、GPUで言えばGeForce GTX 900番台の出ていた2014年頃に、他社に先駆けて赤色LEDのイルミネーションを実装しました。
-- ちょうどPCケースのサイドパネルがどんどん透明になっていっていた頃ですね。今ではゲーミングPCで光モノは必須ですものね。
冨原: 今みたいに派手に光るというよりは、差し色で光らせるといった程度にLEDが流行り始めていました。CPUクーラーなんかはだいぶLED化していましたが、グラフィックスカードでLEDにこだわっていた製品は珍しかったんだと思います。冷却ファンで言えば、CPUやケースのものは簡単に交換できますが、グラフィックスカードのものを交換するのはハードルが高いですから、メーカーが最初からこだわって光らせていたのがユーザーに「刺さった」んだと思います。
エムエスアイコンピュータージャパン GNP営業部 課長 Aki Lin氏(以下、敬称略): 「静音」のさきがけもMSIだったと思います。GeForce GTX 900番台から1000番台の頃に、セミファンレス機能の「Zero Frozr」(ゼロフローザー)を投入したりしました。GPU温度を見ながら、負荷が低い時にはファンを停止して動作ノイズを減らすという技術です。ユーザーさんが快適にPCを扱えるこういった技術の開発も他のメーカーに率先して行っています。
-- 冷却能力だったり、あわせて静音だったり、はたまた光モノなんかまで、ユーザーのニーズを掘り起こせたことが、シェアトップの秘訣だったんですね。
Lin: あとはマザーボードと一緒で、品質にも昔からこだわっています。
冨原: 特にコンデンサはかなり厳選しています。いわゆる「ミリタリークラス」への準拠とか。MSIのグラフィックスカードは専用ツールの「Afterburner」をずっと提供していたり、オーバークロック機能も特徴なので、オーバークロック時の安定動作を左右するコンデンサの良しあしがとても重要なんです。
-- オーバークロックだと、話が冒頭の「クーラーが良い!」に戻りますが、冷却はやっぱり大事ですよね。MSIはやっぱりクーラーに力を入れてますよね。Twin Frozrは覚えきれないくらい世代交代してます(笑)
冨原: MSIとしても「良く冷える」というのは積極的に打ち出しています。「今回は冷却ユニットのこの部分をこう改良しました」といった訴求はよく行っています。
冨原: 今時のグラフィックスカードって、ほとんどの製品でGPUが標準でオーバークロックされていたりするじゃないですか? 性能は上がるんですが、その分の熱が出るので、安心して使い続けるためには十分に冷やしきれることが凄く大事なんです。
-- 最新のハイエンドGPUとか凄いですもんね。TDP(熱設計電力)が300Wを超えたりする。ひと昔前のシステム全体のTDPですよ。
冨原: 今、自作パーツの中で発熱量が一番大きいパーツはグラフィックスカードと言っても過言ではないです。
冨原: しかも昨今は、光モノ人気の影響もあって、PCケースのサイドパネルが透明なガラスやアクリルになっている。昔と違って、サイドパネルに排気孔がつくれないことが多い。内部のエアフローを考えるのが非常に難しくなっているんです。グラフィックスカードをどう冷やすかが、一番の課題になっているんじゃないでしょうか。
冨原: 最近では、エアフローと風量を最適化することを目指し、複数の特性の異なるファンブレード組み合わせたり、形状にも特別な工夫をした「トルクスファン」という冷却ファンを開発して、グラフィックスカードに実装しています。この冷却ファンは特許もとっています。さらに頻繁にアップデートを繰り返して現在もどんどん改良していて、今の最新バージョンは「トルクスファン 4.0」です。逆に、ここまでやらないといけないほど、グラフィックスカードの熱問題は課題になっているということでもあります。
ぶっちゃけ、オススメ製品はどれ?
-- グラフィックスカード選びでは、ベンチマークテストのスコアだけでなく、それを安心して使える冷却性能があるかどうかも見ておくべき、ということですね。せっかくなので、ちょうど各社のGPUが出そろったタイミングです。MSIのオススメのグラフィックスカード、今買うならどれがよいのでしょう?
冨原: まず売れ筋で言うなら、GPUにGeForce RTX 3070か3060 Tiを搭載した製品が人気です。これは昔からの傾向ですが、真ん中より少し上、ハイエンドの入り口あたり、ミドルハイのスペックの製品は人気があります。
冨原: そしてAMDのRadeon RX 6000シリーズへの期待は大きいですが、まだNVIDIAが強い。
Lin: Radeonは単純に「モノが無い」という難題も。出荷が潤沢になればNVIDIAに負けないくらい売れるとは思うのですが、今は販売・即完売という状況で(笑)。
冨原: 人気のあるミドルハイのGPUではNVIDIAが伝統的に強かったというのはありますし、最適化タイトルや、レイトレーシングへの対応の早さも含めて、まだNVIDIAが一歩先を行っているという状況ではないでしょうか。ただ、今世代はNVIDIAとAMDの両社がハイエンドまで揃えた久しぶりの直接対決となっていますし、まだまだ盛り上がると思います。AMDもレイトレーシングに対応してきていて、いよいよ買い替え需要も本格化するのではないでしょうか。
冨原: そして、これからゲームを始めたい、新規でPCを自作したいという方には、GeForce RTX 3070を搭載した「MSI GeForce RTX 3070 GAMING X TRIO」か「MSI GeForce RTX 3070 VENTUS」かなんかをオススメしたいです。GAMING X TRIOの方が、最新トルクスファン搭載モデルなので、総合的にはよりオススメです。
-- GeForce RTX 3070ですか。結構お値段も性能もお高めで、ベテランゲーマー向けというイメージもありますね。もうGTX 1660とかではダメですか(笑)
冨原: これは「あるある」だと思うんですが、「今動くからいいや」で組んで、新しいゲームが出た時なんかに結局、買い替えることになって、「あの時もうちょっと頑張って上のGPUにしておけば」という苦い経験、ありますよね?
-- 今、ゲームの進化早いですものね(笑)
冨原: 毎年買い替える人なら逆に「今動くもの」でいいんです。数年使うのだから、初期投資は少し上を狙うというのがオススメです。今、GeForce RTX 3070で困るゲームはほぼ無いですし、将来的にも陳腐化しにくい性能を持っています。
-- ところで、さっきからチラチラ見えているその大きな箱はなんでしょう?
冨原: 「GeForce RTX 3080 SUPRIM X 10G」です! これまでのGAMINGシリーズよりも冷却性能をアップさせたSUPRIMシリーズの最新製品です。GPUはGeForce RTX 3080。最新3連クーラーの「TRI FROZR2」を強化して、メモリも冷やせるようにした「TRI FROZR2S」を新しく搭載しています。細かいところの意匠も凄く凝っていて、SUPRIMシリーズはMSIの今年イチオシのモデルです。
Lin: この製品、実は昨年末、製品は正式発売前なのですが、大阪のツクモなんば店(ツクモなんば店は1FがMSIストアになっている)で先行限定販売したりしました。SUPRIMシリーズは2021年にかなり頑張って展開していくので、期待して欲しいです。
時代が自作PCにもっと輝けと囁いている?
-- 2021年のMSIの展望は? シェアはさらに伸ばしたいですよね?
Lin: もちろんシェアは伸ばしたい(笑)。どこのどんな製品にも負けたくないという意気込みです。
冨原: 自作PCのユーザーって、ずっと減り続けていたじゃないですか? それが2017年頃からでしょうか、PUBGが流行ったり、それと同時に配信実況が流行ったりして、その流れでパソコンを自作しようという人が増えてきているんです。
冨原: これはMSIのシェアの伸び方と重なっていて、そういったゲーマーや配信者のニーズにMSIの製品がマッチしたのだと思っています。見栄えのするPCは動画配信と相性がいい。そこでは、当然、性能はありきではありますが「魅せるPC」というのが大事なキーワードになっていると見ています。PCのドレスアップは定着したトレンドになっています。
-- 2021年の自作PCはもっと光る?
冨原: これ以上どこを光らせるかという問題が(笑)。ファンも光るし、メモリもSSDも光ってる(笑)。光ってないところが今ないんですよね……。LEDの数を増やすにも限界がありますし……。
-- では、2021年はほどほどに光るんだろうということで(笑)。最後に、MSIとして国内のファンに対してコメントなどあれば是非。
冨原: コロナ禍のご時世なので、オフラインのユーザーイベントとかは難しくなっているのですが、レビュー投稿で商品を贈るプレゼントキャンペーンなど、オンラインのイベントをどんどん企画しています。楽しんでいただければうれしいです。
冨原: それと、2021年はAMD Radeonのオリジナルモデルに例年以上に力を入れていくつもりなので、ご期待ください。
Lin: あと、PCゲーマー向けの製品は全体的に強化していきます。現在もゲーミングマウスやゲーミングキーボード、ゲーミングヘッドセットなどのゲーミングデバイスをやっていますが、新製品をたくさん出して拡充していきます。
冨原: 今、ゲーミングヘッドセットで、「Immerse GH61」というモデルを展開中なのですが、ドライバーユニットにオンキヨーさんのネオジムドライバーを採用していて、音のチューニングもオンキヨーさんにやってもらいました。音質に自信を持って送り出した仮想サラウンドのヘッドセットなので、特にゲーマーの皆さんに評価して欲しいです。
-- 2021年も盛りだくさんですね。個人的にはSUPRIMシリーズのグラフィックスカードは自分でも使ってみたいです。GeForce RTX 3070のSUPRIMとかが狙い目ですかね。今回は色々と訊けて凄く楽しかったです。ありがとうございました。
Lin: 昨年は皆さんに選んでいただけたことで、よい結果が出せました。今後も選んでもらえるよう、良い製品をどんどん提案していくので、2021年も期待して欲しいです。